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2009-09-26 18:16

(連載)漂流させてはならない日米同盟関係(2)

矢野 義昭  元自衛隊幹部
 米軍が徐々に本土に撤退し上記の政策がとられれば、日米関係は防衛関係、外交面でしだいに疎遠になっていくであろう。在日米軍、特に地上部隊である沖縄の海兵隊は日本有事における米軍来援を担保するためのキーとなる存在であるが、その引き揚げが加速されれば、米国の日本有事来援に対する信頼性が低下していくことになる。その上、岡田外務大臣が主張する「東アジア非核地帯」構想の実現や有事核持込み密約説の解明といった政策は、北朝鮮の核放棄が実現しない限り、日本に対する米国の拡大核抑止機能を一方的に低下させる危険性を孕んでいる。

 近年、米中間では、南シナ海での米中艦艇のつばぜり合いなどの摩擦が生じており、米国は、中国の軍事力建設はすでに台湾併合という目的を超え、地域的覇権を狙える戦力にまで成長しつつあると警戒を強めている。他方で民主党は、中国、韓国などアジア諸国との関係をより緊密にし、「東アジア共同体」を構築することを目指している。しかし、中国が体制を異にする一党独裁国家であり、尖閣問題、東シナ海でのガス田開発などの懸案を抱えた国であるという事実に変化は無く、日中接近にはおのずと限度がある。

 以上の民主党の諸政策は方向性を誤った場合、日米同盟関係を拡大核抑止の提供でも通常戦力による有事来援の保証という面でも空洞化させるおそれがある。さらに、米国を排除した形での対中接近政策がとられれば、米国は対日不信を強めるであろう。オバマ政権は現実主義的で、日本が対等の同盟関係を求めるならば応分の負担を求めてくるであろう。それに応じなければ同盟関係を希薄にさせていくことも躊躇しないであろう。しかし民主党政権に、民生支援や財政支援以上に踏み込んで、自衛隊の派遣や日本側の防衛費増額など、実質的な防衛分担の増大に応じる姿勢は見られない。むしろ民主党が掲げる子供手当てなどの目玉政策実現のための財源を、無駄遣いとして防衛費をさらに圧縮することにより捻出するのではないだろうか。

 そうなれば、日米関係は急速に疎遠な実の無い同盟関係に陥り、東アジアの平和と安定すら損なわれかねない。日米同盟が空洞化することは、日本の安全を将来にわたりどう保障するかという、国家の存立に関わる最重要問題が、確固たる基礎を失い漂流し始めることを意味している。そのことの重大さを、与党たる民主党政権は深刻に認識すべきである。(おわり)
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