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2009-09-18 07:52

小沢院政と民主党の「自民党化」

杉浦正章  政治評論家
 1968年父親・左重喜亡き後、母親・みちから「どうせ政治家商売やるなら角さんのところにわらじを脱ぎなさい」と言われて、田中角栄に挨拶に来たときから、小沢一郎を知っている。容貌を見て瞬時に「こいつはものになる」と見抜いた田中の言った言葉は、「親の七光りをあてにするな。戸別訪問3万軒、辻説法5万回やり抜け。やり抜いたらもう一度来い」。小沢はそれをやり抜いて当選、田中派の門をくぐった。その小沢が41年を経て、数の上だけでは田中をしのぐほどの政治権力を握った。事実上小沢の“雇われマダム”の鳩山由紀夫に院政を敷き、人事をろう断し、パワーゲームの頂点に立った。草葉の陰で田中は喜んでいるだろうか。いや喜んでいまい。自らの洞察力が当たったことは嬉しいに違いないが、小沢政治には田中政治にあった潤いがなく、権力闘争そのものが目的のような闘争に明け暮れしている。むしろはらはらして見ているに違いない。

 閣僚人事を見ると、ほとんど小沢ペースで行われたことが分かる。参院から3人、親しい旧社会党グループ、旧民社党グループからも入閣させた。岡田克也、仙谷由人、前原誠司ら反小沢グループからの入閣を見て「小沢人事でない」とする皮相な見方があるが、とんでもない。まず幹事長留任を狙った岡田を体よく外相ポストに追いやった。外相ほど忙しい閣僚は少なく、海外出張ばかりだ。国内で“政治”をする暇がない。前原は国交相である。八ッ場ダム建設中止で1都5県や地元住民の猛反発にさらされ、“また裂き”に遭う運命と知ってのことだ。行政刷新相の仙谷も、本人が「車もなければ、秘書もいないポスト」とテレビに不満を公言したほどだ。要するに、反小沢勢力の入閣は「カムフラージュ」なのである。その証拠に反小沢の極秘会合を繰り返していた野田佳彦は、本人どころか派閥からも1人も入閣せずである。裏を見れば露骨な「小沢組閣」であることが分かる。

 叩く力があるときに徹底的に叩く。これが小沢の身についた政治信条だ。しかし組閣をめぐるパワーゲームを見ると、何のことはない、民主党の「自民党化」が進んでいることが分かる。まだ「一強全弱」ではあるが、派閥抗争は既に始まっているのである。鳩山にこれを統率できる力はない。政治権力の戦いというものを知り尽くした小沢が、主導権を握るゆえんである。その鳩山は記者会見で、小沢を「代表」と2度にわたって言い間違えた。小沢の圧倒的な存在感を意識している証拠を垣間見せた発言である。小沢はかって「担ぐ御輿は軽くてパーがいい」と述べたが、鳩山もその範ちゅうに入るのだろう。鳩山は小沢の“雇われマダム”的存在でもある。仙石が「党内で議論をしていて、小沢氏の考えが間接話法で伝えられると、議論が止まってしまう。これは危ない」と漏らしているが、「危ない」と言っても仕方がない。権力というものはそういうものだ。昔は何でも田中角栄のせいにする「唯角史観」が盛んだったが、民主党政権では「唯一史観」がはやるだろう。

 小沢は修業時代に田中角栄から「与党の幹事長が一番やりがいがある」と教えられたが、いまその言葉をかみしめているに違いない。田中派が最盛期に140人。小沢グループはそれをしのぐ150人。決定的な違いは、田中派が軍団と呼べる規律と結束力を誇示し、有力議員で構成されていたたのと比較して、小沢グループはほとんどがやがては泡沫(うたかた)のように消えてゆくチルドレンであることだ。バブルなのである。勢力は誇示できるが、実態は軍団としての機能とはほど遠い。したがって小沢は、田中ほどのパワーは発揮できない。元衆院議員・田中秀征が「憲政史上最強のパワーだ」とテレビで興奮していたが、数だけに驚いた浅薄な見方だ。小沢は実体的には孤立した寂しい政治家なのである。民主党への政党交付金は54億円増の173億200万円というとてつもない額であり、これを使って人事に選挙に采配を振るう。小沢の腕力と言うより“風”によって選挙に勝ったにもかかわらず、当分そのカリスマは消えない。小沢の本当の政治家としての力量は内政、外交でポピュリズム重視の“革命”に走ろうとする内閣を、政治力で“改革”にとどめられるかどうかだ。フランス革命の過激派マラー、ダントンは処刑台の露と消えたが、過激にはかならず反動がくる。
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