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2009-09-15 10:41

マニフェストにこだわらずより良い政策を

玉木洋  大学教授
 子育て問題にせよ、経済問題にせよ、環境問題にせよ、財政問題にせよ、安保外交問題にせよ、現在の日本は非常に重要な時期を迎えている。この時期に政権交代を勝ち取った民主党の責任は非常に重い。日本の行く道を誤らぬよう、正しい政策を的確に選択し、実施していかなければならないが、その際に気になるのは、民主党のマニフェストである。各分野で、民主党のマニフェストの内容には、実現が困難だったり、実際にそのまま実行すれば却って状況が悪くなると思われるものも含まれている。選挙で勝つこと自体に意義があった面もあるのであるから、マニフェストは既に一定の役割を果たした。本来はもちろんマニフェストに掲げた政策を実施すべきものではあるが、国民はマニフェストの内容を支持して民主党を選択したわけではない。

 長期政権による腐敗や無駄や癒着やしがらみがあるのだとすれば、それが悪い原因であるとするなら、それをいったん切り捨てたい、といったところが最大の選択理由であろう。腐敗はないとか、あったとしても民主党の主たる支持基盤である労組が実は原因であったのではないか、といった議論はひとまずおく。現実に政策を実施しようとすれば、将来の日本国及び日本国民に対しての責任をより強く自覚せざるを得なくなる。「4年後の選挙で鉄槌を下す」(鳩山代表)では、間に合わない。その間の選択の誤りは遠く将来にまで禍根を残すからである。マニフェストをすぐにおろすようなことはまことにやりにくいことであろうが、政権政党として責任を持つのであれば、政策変更しなければならない状況を説明の上、より正しい選択をすることを躊躇してはならない。

 まずは、高速道路無料化政策からの撤退はその良い例の一つであろう。苦しい弁明をせざるを得なくはなるだろうが、マスコミも、国民も、良い方向への転換をあまりとがめだてしてはいけない。より良い政策の選択がなされることこそが重要であり、攻撃を楽しむことが目的ではないからだ。そして、喫緊かつ重要な課題としては温暖化対策もある。もちろん環境税など積極的な温暖化対策は、付随する問題への対処に留意しつつも、積極的に進めるべきであるし、京都議定書による義務を受け入れていない米国や中国、インド等の主要排出国が義務を負う新たな枠組みへの参加に我が国は積極的な役割を果たすべきではあるが、我が国の削減義務を課題に設定することは、世界にとっても望ましくないことは、8月30日付け本欄への拙稿で述べたとおりである。民主党幹部でさえ「この数字は、排出権の購入を拡大しないと達成できない」と言うぐらいのものである。

 国内的には大幅削減を目指した抜本対策を検討し、推進すべきではあるが、他国に先んじて国際的な義務となるような形で約束することだけは避けなければならない。対米外交、靖国や対中、対韓外交などについても、さまざまの懸念がある。民主党は、4年間絶対多数を確保したのだから、本当に落ち着いて日本国、日本国民のための政策を改めて熟考し、マニフェストの政策を改めることをいとわずに、良い道を選んで欲しいと心から願う。もう一つ重要なことは、マスコミが、このような政策の変更に対して報道する際には、マニフェストとの比較や前言との比較による攻撃ではなく、政策の中身でどちらが良いかの議論を中心にすることである。そうすれば、国民は、状況に適切に対応してより良い政策に転換する民主党を支持するであろう。マニフェストを守って国民が守られないよりは、適切な転換で国民が守られる方が良いのは、国民にとっては当然のことであるから。
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