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2009-09-07 21:13

(連載)この国の来し方行末(1)

野田 英二郎  元駐インド大使
 日本は20世紀にふたつのあやまちを犯した。前半には韓国を植民地支配して、そのナショナリズムを抑圧し、更に中国への侵略戦争で暴虐非道をくりかえし、国際孤立に陥って敗戦降伏に至った。後半には、1945年8月15日までの行動につき充分の反省も謝罪もせず、南北朝鮮の国民とも中国の国民とも、たしかな信頼関係の構築に失敗した。このふたつのあやまちを反省してはじめて、わが国の明日の展望が開かれる。これは、昨年他界された加藤周一氏がくりかえし述べておられたことであるが、筆者は全く同感である。このような歴史の真剣な反省なくしては、日本の将来にあかるい希望はもてないということではないか。

 終戦の年、筆者は未だ18才で、徴兵されていなかったので、軍隊生活の経験がない。軍籍になかった未成年者は、戦前戦中の日本を語る資格が充分にあるとは到底いえまい。しかし、昭和2年生まれで、小学校5年のとき「支那事変」勃発。中学3年のとき、真珠湾攻撃で「太平洋戦争」に突入。敗戦降伏が旧制高校2年のときという生い立ちである。「教育勅語」、「大日本帝国憲法」、「軍人勅諭」を教えられ、もちろん、中学入学から終戦まで軍事教練も受けた。小学生の頃から、昭和20年の8月15日まで毎日の生活で叩き込まれた標語のいくつかは鮮明に思い出す。「忠君愛国」「神国日本」「国体明徴」「一億一心」「挙国一致」「国民精神総動員」「減私奉公」「大政翼賛」「聖戦完遂」「八紘一宇」等々。

 これらの言葉の中で、やはり中心に位置したのが「忠君愛国」である。「愛国」の上に「忠君」があるところに意味があった。「大日本帝国憲法」では、「天皇ハ神聖ニシテ犯スベカラズ」(第3条)。天皇に忠誠をつくし、その命に従うことが中心的命題で、「愛国」はこれに従属していた。陸海軍では「上官の命令は天皇陛下の命令と心得よ」とされ、軍籍にない一般国民も老若男女を問わず、天皇に忠義をつくすことが他のすべてに優先する当然の義務とされた。天皇は陸海軍を統率するのみならず「統治権を総攬」し、行政、司法、立法すべてが天皇の名において行われた。

 天皇を輔弼する政府の政策や命令に異議を唱える者は、天皇に背く者であるから、「国民」ではなくなり、「非国民」と呼ばれ、村八分になるのみならず、軍や警察にどのように取り扱われても、抗弁は許されない。蟹工船の著者小林多喜二が警察の拷問により虐殺されたことは、一例にすぎない。帝国議会の討議においてすら、軍を批判した議員に対して、陸軍大臣は「黙れ」と叫んで、言論を封殺した。陸海軍は天皇という絶対の権威を頂点とするいわば超法規的存在であった。(つづく)
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