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2009-09-04 07:49

小沢の幹事長就任で「二重構造」始まる

杉浦正章  政治評論家
 「権力の二重構造にはならない」と次期首相・鳩山由紀夫が弁解しているが、そのこと自体が権力の二重構造を認めていることになる。小沢一郎を幹事長に据える人事は、小沢の希望通りの人事を鳩山が受け入れたことを意味しており、政権はまず人事から「院政」が始まった。既にささやかれている小沢対岡田克也の暗闘は、その第1ラウンドで岡田の完敗となった。小沢が幹事長になるということは、鳩山が民主党を「明け渡した」ことを意味しており、選挙圧勝で確立した「小沢カリスマ」を背景に、小沢は強大な権力を手中に入れることになる。鳩山は、人事でも「ぶれ」を見せた。選挙圧勝直後の8月31日の記者会見では、「人事は、首相指名選挙後に一気にやりたい」と述べていた。これは「政権移行チーム」で主要人事を決めるという、岡田のかねてからの主張に沿ったものだった。

 しかし、小沢が鳩山に聞こえるように「何とかチームって、何するんだ」とつぶやいただけで、急きょ幹事長人事だけが先行することに決まったようだ。この経緯だけをみても、「院政」が始まったことになる。岡田の主張は直ちに退けられたことになる。権力は、二重構造どころか、小沢の「単独構造」へと発展しかねない要素を内包している。小沢にしてみれば、幹事長のポストにはなんとしてでも就きたかったに違いない。事実上自らの希望を伝えて決まった人事であり、これを院政即ち二重構造の手始めという。それにしても、現在幹事長である岡田抜きで決めるとは露骨でもある。小沢はまず権力の源泉である党人事権を手中にする。それにもまして、資金力を入手できることが大きい。

 戦後最大の政党である民主党への政党交付金は、54億円増の173億200万円というとてつもない額であり、このうち幹事長が自由裁量または選挙対策の名目で使える額だけでも相当のものであろう。加えて、政権与党の幹事長ともなれば、政治献金などは頼まなくても向こうからやってくる。このカネを使って党内を操縦し、人事権を行使するわけだから、生半可の権力ではない。一方、鳩山にしてみれば、308議席という数字を見て、とても自分の手に負えるものではないと判断したに違いない。党を明け渡しても、小沢の力に頼るしか、全党をまとめる方策はないというわけだ。「政策決定は内閣に一元化するから、二重構造にならない」との反論があるが、重要政策は内閣に一元化する前に小沢の意向を聞いて決めざるを得ないから、二重構造そのものだ。鳩山は、小沢という“獅子身中の虫”が過去に細川政権をはじめ、何度も政権を作ってはつぶしてきたかを知りながらも、頼らざるを得ないのである。

 さらに参院選挙への“豪腕”を期待しているのだろう。しかし、鳩山は大局を見誤っている。というのも、今回の衆院選挙は小沢の豪腕と言うよりも、政権交代の“風”が吹いたからに過ぎない。前回の参院選挙も「消えた年金」で国民の怒りが頂点に達したからにほかならない。小沢は運よく“敵失”に遭遇しただけだ。ただ、選挙の神様的なカリスマがもう確立してしまったことは確かだ。しかし参院選挙では、もう“敵失”の期待は出来ないのだ。民主党は自らの政権担当能力を問う選挙をせざるを得ない。筆者は「308議席」も「高支持率」も民主党がフルムーンとなった状態の数字であり、これから欠けていくとみる。参院選挙ではかならず揺り戻しが起きるだろう。おまけに小沢のイメージは利権がつきまとって、よくない。鳩山が幹事長ポストに就けたということは、小沢のイメージで選挙をやらざるを得ないということだ。やがて逮捕された第一秘書の公判も始まる。自民党が今度は政権与党の“敵失”を狙い続けることは言うまでもない。小沢が表面に出て、選挙は戦いやすくなったとも言える。TBSが小沢幹事長人事について「民主党議員は、政権を取った高揚感が4日で終わったと述べている」と報じている。
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