国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2009-08-24 11:01

(連載)「民主党政権」で日米同盟は揺るがぬか?(1)

鍋嶋 敬三  評論家
 日本外交の基軸は日米同盟関係である。8月30日投票の総選挙の世論調査で民主党の圧倒的優勢が伝えられる。日本の安全が守られるためには、日米同盟が揺るがないことが、外交の大前提である。民主党はマニフェストで「緊密で対等な日米同盟関係」を作るため、「日本の責任を積極的に果たす」と公約した。具体的には、米国との自由貿易協定(FTA)の交渉促進、日米地位協定の改定の提起、米軍再編・在日米軍基地の見直しである。

 民主党の鳩山由紀夫代表は、2009年1月に期限切れを迎えるインド洋での給油活動からの撤退を表明し、「オバマ大統領との信頼関係の中で問題を解決していく」考えを示した。同盟関係は、両国間で信頼関係がなければ成立しない。しかし、最初に「信頼ありき」ではない。特に政権交代となれば、相手の具体的行動を評価した上で、信頼するに足る指導者かどうかを見極めることになる。米国はこと国益に関しては、断固守り抜く姿勢は共和党でも民主党でも変わりはない。米国の利害とぶつかる問題で説得できる力を持っていなければ、信頼どころか、関係を不安定化させる危険が常に潜んでいる。

 民主党の公約の修正が続き、姿勢の「ぶれ」が与党の攻撃の的になった。FTAの「締結」を公約したが、農業団体からの集中砲火を浴びると、すぐ「交渉を促進」に後退させた。米国は世界最大の農業国であり、農産物輸出国である。冷戦下の旧ソ連が米国の軍門に下ったのは、核軍拡の重圧に耐えきれなかったばかりではない。大量の小麦輸入を米国に依存し、首根っこを押さえられたからである。牛肉など畜産業を含めた米国の農業関係の圧力団体の政治力は強大である。農業を除外したFTA交渉などは受け付けないだろうし、それでも交渉を始めようとすれば、他の分野での法外な代償を要求してくるだろう。

 自民党が38年ぶりに政権を失い、非自民の細川護煕内閣が成立した1993年から95年にかけて、当時のクリントン政権が仕掛けてきた経済包括協議が暗礁に乗り上げ、細川・クリントン首脳会談が決裂という異常事態を招いた。自動車摩擦では「地獄を見た」というモンデール駐日大使(元副大統領)の言葉を、当時の交渉当事者だった栗山尚一元駐米大使が回想録「日米同盟 漂流からの脱却」で紹介している。半導体も含め産業全体の一分野にすぎないものが、いったん摩擦の火がつくと政治問題化し、同盟関係をどん底に落とす恐ろしさがあることを示す例だ。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム