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2009-08-22 11:57

(連載)北米の共和主義と日本の裁判員制度について(2)

河野 勝  早稲田大学政治経済学術院教授
 さて、振り返って、日本では一般の人が裁判に関わる裁判員制度が導入されようとしている。これは日本の社会のあり方に各個人が citizen として関わることを促進するという点において、歓迎すべき制度だと思う。この制度の導入に反対している人たちは、これまで専門の裁判官たちだけで正しく裁判が行われてきて何の問題もなかったのに、なんでいま導入する必要があるのか、という主張をする。

 しかし、ボクは、どうしてこれまでの裁判官たちの判決が「正しい」と、そう自信たっぷりにいえるのだろう、と思ってしまう。千差万別の状況下で起きるそれぞれの「罪」に対して、もっとも適した「罰」が何であるか、といった問題に、唯一「正しい」答えなど、あるはずがない。裁判員制度は、正しい答えがないながらも、それを一生懸命考え抜こうとする責任を、人任せにするのではなく、われわれひとりひとりが負うべきである、といっているのである。

 反対派は、一部の人たちだけが心理的、経済的に負担の重い裁判に巻き込まれるのは不公平だ、ともいう。しかし、この主張も、ボクには納得できない。もし一部の人だけが裁判員に選ばれることが不公平であるとすれば、一部の人だけが犯罪に巻き込まれることも、一部の人だけが交通事故に巻き込まれることも、同じように不公平だといわなければならない。現実に存在するこうした社会の不公平に対しては、目をつぶって自らの課題として引き受けようとせず、その一方で自分に振りかかってこようとする不公平に対してだけは、声高に不公平だと主張し、それを回避しようとするのは、自分勝手な論理である。

 そもそも現代においては、ごく普通の人が、ごく普通に買い物をしたり、電車にのったり、ごく普通に人を好きになったり、嫌いになったりすることから、犯罪や事故に巻き込まれていく。つまり、われわれは裁判員として選ばれるはるか以前から、他人との関わりに巻き込まれて生活せざるをえないのである。裁判員になることがなければ、「巻き込まれる」ことなく、平穏に暮らすことができるなどと思うのは、まったくの幻想に過ぎない。(おわり)
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