国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2009-08-17 02:34

「核廃絶」論議は現実を踏まえて

吉田 康彦  大阪経済法科大学客員教授
 広島・長崎への原爆投下の記念日を迎えて、毎年8月、日本のメディアは「核廃絶」論一色に染まる。国民の関心が高まるのは悪いことではないが、一過性のムードで事態が変わるわけではない。それでも今年は、オバマ米大統領のプラハ演説を受けて、秋葉広島市長も田上長崎市長も勢いづいていた。しかし、日本人は身勝手な論理を振り回す癖がある。秋葉市長は、「核兵器のない世界」実現を目指すとしたオバマ演説を支持して、Obamajority なる英語の合成語をくりかえして、悦に入っていたが、オバマ氏は同時に「世界に核兵器が存在する限り、米国は核を放棄しない」「“核の傘”を提供するという同盟国に対する約束は守る」とも述べており、手放しで「核廃絶」を訴え、実践する意思を表明したわけではない。Obamajority という英語は、下手なダジャレでしかない。

 次に、長崎の高校生が集めた反核署名が100万人分を突破し、彼らはこれをジュネーブの国連欧州本部に届けるのだという。ジュネーブは軍縮会議の舞台であり、国連軍縮研究所も存在する。「反核署名を国連に届ける」というのは、一見、理にかなっているようだが、国連に届けてどうなるのか。独りよがりも甚だしい。実は筆者は、1980年代から90年代にかけて、ニューヨーク、ジュネーブ、ウィーンの国連機関に勤務していたが、毎年、日本から届けられる署名に頭を痛めていた。署名簿には「国連事務総長殿、この世の中から核兵器をなくしてください」と「核廃絶」の悲願が書き連ねられ、すべて国連に悲願を託すという形になっていた。国連事務局はうやうやしく受け取ってすべて廃棄処分にした。

 1982年の第2回軍縮特別総会の際、日本から持ち込まれた署名簿は大型トラック数台分に達し、署名した日本人の総数は1億を超えていた。大量すぎて国連ビルの床が抜けおちるのを心配した上司から、署名簿受け取り拒否を命じられた筆者は、「核廃絶という日本国民の悲願を無視する国賊」と非難された。国連に悲願を託すという発想は、そもそも間違いであり、日本人のご都合主義だ。

 その点だけでも指摘したいと思って、数年前、長崎の原爆慰霊祭にコメンテーターとして地元の民放局に招かれた際、「長崎新聞」に投書したところボツにされた。新聞社の言い分は、「被爆地の高校生の純粋な気持ちに水を差すわけにはいかない」というものだったが、「水を差す」わけではない。「国連に宛てても意味がない」ことを知らせ、誰宛てにするのがいいかを彼らに考えさせることの方がはるかに重要ではなかったのか、と改めて思い出している。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム