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2009-08-10 10:14

(連載)北朝鮮の核兵器にどう向かい合うか。(4)

阿部 信泰  日本国際問題研究所 軍縮・不拡散促進センター所長
 そもそもそのような攻撃が起こる前に十分な抑止力によって北朝鮮がそのような行動に出ないように抑止する方がベターであり、日米安保体制に基づく抑止力が焦点となる。しばしば「米国の核抑止力は大丈夫か」という形で議論されるが、「抑止力」とは本来、核・通常あらゆる戦力を総合的に駆使して、相手が攻撃を開始しても、これが確実にくじかれて目標を達成し得ず、かつ耐えがたい反撃・報復を受けることを示すことによって、攻撃を思いとどまらせることである。核兵器など使わずに抑止できればそれに越したことはないし、現実に米軍(及び自衛隊)の能力は先端技術を駆使した通常兵器の分野で飛躍的に向上しており、数量的に示すことはむずかしいが、通常戦力で対処できる分野は格段に大きくなっていると言われる。

 にもかかわらず、最後の最後の手段として核兵器による抑止力を当面保持して置かなければならないことは、現在日本が置かれた国際環境を考えるとやむを得ない措置と言わざるを得ない。しかし、上述のように、実際に核抑止力に頼らざるを得なくなる事態をできるだけ少なくするよう、着実に施策を進めることが、当面現実に核抑止力の必要性を最小限にする現実的な道である。これがオバマ大統領がプラハでの演説の中で「米国の安全保障戦略の中での核兵器の役割を減らすとともに、他の国にも同じ行動を取るよう要請する」と述べた趣旨と見られるが、具体的な検討結果は、年末に予想される米国の「核態勢レビュー」報告書を見る必要がある。

 最後に、北朝鮮が本当に核兵器計画を放棄する可能性であるが、1990年代初めから20年近くにわたって外交折衝を重ねたにもかかわらず、北朝鮮が核兵器保有に至ったこれまでの経緯を見るにつけ、北朝鮮内で抜本的な転換が起こらない限り、その可能性はむずかしいと言わざるを得ない。歴史的にも、核兵器を保有するに至った国が核兵器を放棄した例は少ない。南アフリカがその一つの例だが、白人支配体制から民主体制への転換の一環として、核放棄が実現した。核保有に至る前に核兵器計画を放棄したリビアは、ある意味で体制維持のために体制側が大きな政策転換をした例と言えるかもしれない。ソ連がゴルバチョフ時代から核戦力の抜本的な削減を進めた過程は、ある意味で体制内に重大な政策転換が起こり、ついにはソ連崩壊という体制転換に至った例と言えよう。果たして北朝鮮がどの例に当てはまることになるか、あるいは新しいタイプとなるか、いずれにせよ核兵器放棄の決定を本当にしてほしいと思うが、これについてはさらに考察を進め、別稿に譲ることとしたい。(おわり)
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