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2009-07-31 09:57

米中「戦略・経済対話(SED)」と日本

角田 勝彦  団体役員
 7月28日、中国政府は、 27・28日にワシントンで開かれた米中「戦略・経済対話(SED)」後の記者会見で、オバマ米大統領が年内に中国を訪問すると発表した。他方、4月24日の麻生総理との電話会談でオバマが「楽しみにしている」と述べた本年後半の訪日は、総選挙待ちになっている。どちらが先になるかが外交雀の話題になりそうである。協議内容を従来の経済面から安全保障など外交面にも広げた今回の「SED」には、クリントン国務長官、ガイトナー財務長官など主要閣僚が顔をそろえ、米国の力の入れようが目立った。開幕式に出席したオバマは「米中両国間の関係が21世紀を形づくる。世界中のどの2国間関係よりも重要だ」と挨拶した。中国の胡錦濤国家主席も、開幕に合わせ「世界で最も影響力のある国として、両国は人類の平和と発展に重要な責任を負っている」との声明を発表した。

 これらから、今後毎年の定期開催が予定される「SED」を、米中2カ国が世界の流れを決める「G2」体制の始動と見る論評もある。しかし、それは過大評価だろう。クリントン長官とガイトナー長官が7月27日付米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』に掲載された論説で述べたように、世界経済、環境、情勢不安定国の安定、核拡散問題など「米中のみで解決できる国際的問題はほぼ皆無である」。意見の相違も少なくない。「SED」の議題として、オバマは(1)経済再建、(2)エネルギー・環境問題、(3)核拡散防止、(4)テロなど国際的な脅威の抑止、をあげた。核不拡散対策(北朝鮮中心)、イランへの対応、中東情勢の安定化、地球温暖化対策への取り組みなどについても討議され、エネルギー・環境問題に関し両国が署名した覚書で(数値目標は盛り込まれなかったが)、今後の協力強化が規定された。2006年ブッシュ政権時代、ポールソン財務長官の肝いりで米中間の「経済対話」が始まった当時の、米国の「中国は責任ある利害共有国(ステークホルダー)になるべきだ」とする考え方は、オバマ政権でも健在のようである。

 しかし、「対話」の中心は、経済、しかも保護主義や国際金融機関の改革といった国際問題より、米国の貯蓄率向上及び金融監督強化、中国の内需拡大及び金利自由化・消費者金融普及促進、といった両国間経済・貿易関係の不均衡対策だった。最優先課題である国内経済の先行きに不安が残る米国にとり、最大の米国債保有国であり、世界第2位の経済大国になりつつある中国との協調が重要なのは論を持たない。米国は中国に最大限の配慮を払い、人権や環境問題での突っこんだ意見交換はなかったようである。経済面でも、従来、米国は人民元の切り上げや中国製食品、おもちゃの安全問題などで注文をつけてきたが、今回は低姿勢で、「対話」で言及された人民元問題も共同文書には盛り込まれなかった。

 オバマが、開幕演説で、孟子「尽心章句」の一節「山中の小道は、人が通ってこそ道となる。しばらく通らなければ、茅でふさがれてしまう」という言葉を引用し、「子供の世代のために誤解や埋めがたい溝を避けるよう努力を」と訴えたように、「SED」などで米中両大国が、相違を踏まえながら対話に臨むことは重要であり、世界及び我が国にとり有益である。北朝鮮の6カ国協議への復帰拒否で行き詰まる事態の打開に向け、同国に大きな影響力を持つ中国が米国と一枚岩で対応する姿勢を示したことが、その一例である。昨年10月以降中断していた米中の軍事交流再開も決まった。米国が中国をいかに持ち上げようと、それをたとえば日本軽視に結びつけるのは短絡的である。オバマ政権は、クリントン国務長官訪日や麻生首相訪米(外国首脳初のホワイトハウス招待)で日米関係重視も打ち出している。米国と価値観を共有し、同盟関係で結ばれている我が国としては、「SED」を警戒するのでなく、これが経済(とくに成長促進)・安全保障(とくに核廃絶や北朝鮮)の分野でわが国を資するよう、米国に働きかけていくべきであろう。
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