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2009-07-30 09:46

(連載)人民元は”基軸通貨”になれるか(2)

中岡 望  ジャーナリスト、国際基督教大非常勤講師
 国際通貨制度改革議論は、4月2日から始まったロンドン「G20」会議を控えた3月23日に中国人民銀行の周小川総裁が、同行のウエブサイトに「国際通貨システムの改革」と題する論文を発表したところから始まる。もちろんIMF改革は今までも議論されてきたが、今回のように公然とドルに挑戦する議論はなかった。周総裁はこの論文の中で、第一に「危機の勃発と世界全体への波及は現在の国際通貨制度の本質的な脆弱性とシステミック・リスクを反映したものである」こと、第二に「国際通貨制度の好ましい目標は、特定の国と関係を持たない国際準備通貨制度を構築する」こと、第三に「改革はグランド・ビジョンに基づき、実行可能なことから始めるべきである」こと、最後に「加盟国が保有する準備の一部を、IMFが集中的に管理するファンドへ委譲することで、危機に対処する国際社会の能力を高め、SDR(特別引出権)の役割を高めるべきである」ことを主張している。

 周総裁は、現在の「ドルが実質的な基軸通貨である制度」から「IMFのSDRを基軸通貨とする新しい制度」への移行を主張している。その主張は、必ずしも人民元がドルに取って代わるべきだというものではない。現在のようにアメリカの国内政策でドル相場が振り回されるような状況は避けるべきであり、そのためにSDRを準備通貨として活用することを主張しているのである。もっと言えば、アメリカと欧州、日本が実質的に支配する国際金融制度に対して異議を唱えているともいえる。これに対してアメリカは強く反発している。周総裁の論文が発表された後、オバマ大統領は「私は国際通貨が必要だとは思わない。ドルは現在異常なほど強くなっている」と、ドルに対する信頼に揺るぎはなく、ドルに代わる準備通貨の創設に強く反対している。SDRは1968年に公的準備通貨を増強する目的で設立され、IMFの出資比率に応じて配分されている。要するに、通貨危機に陥った場合、加盟国は配分されたSDRを引き出して、危機に対応することができる。

 SDRの価値は、ドル、ユーロ、円、ポンドの相場を加重平均して決められるため、特定の通貨の影響が弱くなる仕組みになっている。中国は、ドルよりもSDRが国際的な準備通貨としてふさわしいと主張しているのである。またIMFは国際通貨危機に際して“最後の貸し手”の役割も果たしており、現在、資金量の拡大が進められている。中国はそうした状況を使って、出資比率を高めてIMF内での影響力の増大も狙っている。そうした政策に沿って、中国はIMFが発行するSDR債の購入を決定している。7月1日、IMFはロンドン「G20」の決定に基づきSDR債の発行を発表した。それに対して中国は最大限500億ドル購入する意向を明らかにしている。同様にロシアとブラジルもそれぞれ最大100億ドル購入すると発表している。

 フィナンシャル・タイムズ紙は「中国とロシアがIMFの資金増強に協力することでIMF内での影響力増大を狙っているのは、公然たる秘密である」と指摘している。膨大な外貨準備を背景に、中国がIMF内での影響力を強めながらドル準備通貨制度の変更を求めてくることは間違いない。同時に中国は、SDRの5通貨のバスケットに人民元を含めるように要求してくるだろう。同時に中国は人民元を国際通貨に育成する政策を進めている。7月6日に中国政府は中国本土以外の香港、マカオ、ASEAN諸国が貿易決済に人民元を使うことを認める方針を明らかにしている。数年後には中国の貿易の40%以上が人民元建てで行われるとの予測もある。世界最大の貿易国である中国で貿易決済がドルから人民元に移れば、人民元の重要性が高まることは間違いない。(つづく)
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