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2009-07-29 17:59

(連載)「米中関係は世界のどの2国間関係より重要」(1)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 7月27日、28日の2日間、ワシントンで米中「戦略・経済対話」の初会合が開かれた。これは、ブッシュ前政権時代にゼーリック国務副長官(当時)が提唱し、ポールソン財務長官(当時)らが主導して開催にこぎつけた米中の「戦略的経済対話」を経済以外の政治や安全保障の分野にも拡大したものであり、閣僚級の大規模な会合となった。筆者は、米中「戦略的経済対話」は経済分野に限られたものであったから全く懸念する必要はなく、むしろ悪い考えではないと考えていたが、政治や安全保障の分野も含む米中「戦略・経済対話」に進んだことは、いささか深入りし過ぎではないか、と批判的な目で見ている。ただ、政治や安全保障の分野を含むといっても、少なくとも今回上がっている議題を見れば、経済再建、エネルギー・環境問題、核拡散防止、テロなどの国際的脅威の抑止が4つの柱であり、日米同盟と矛盾を生じるものとはいえない。

 今のところ、許容できる範囲内に踏みとどまっているといえる。例えば、核拡散阻止の文脈では、北朝鮮の核開発に関して東アジアでの軍拡の危険性を説いて、中国に対して北朝鮮への核放棄圧力を高めるよう迫っている。これは、日本の国益にも合致することである。さらに、日米は、米国の核による拡大抑止について定期協議を開催することが決定されていることも忘れるべきではない。したがって、米国が日本との同盟を軽視して、中国とのパートナーシップ構築に乗り出したと考えるのは当たらないと思われる。「日本が見捨てられた」といって日米同盟に代わる枠組みを模索するなどといった、誤った方向に走り出すことがあってはならない。

 ところで、オバマ大統領は、開会式で「米中関係が21世紀を形作る」「米中関係は世界のどの2国間関係よりも重要」と発言し、米中関係の重要性を強調した。これは、冷静に考えれば、あながち的外れな内容でもない。「米中関係が21世紀を形作る」というと、米中が世界を共同で「支配」するような印象を与えるかもしれないが、覇権国家である米国と経済的・政治的・軍事的大国を目指す中国の関係が今後の世界秩序形成にとって最大のファクターの一つとなるのは間違いないことであろう。また、「米中関係は世界のどの2国間関係よりも重要」という発言にしても、冷戦時代には「米ソ関係は世界のどの2国間関係よりも重要」であった。「重要」であることは、必ずしも「緊密」であることと全くイコールではないのである。

 そうは言っても、やはり今回のオバマ発言は軽率のそしりを免れない。なぜならば、欧州や日本には米中が「G2」の形で世界を「共同統治」するのではないかという懸念があり、それを掻き立てる発言だからである。先に述べたように、冷静に考えれば、オバマ大統領の発言は必ずしも間違っているわけではないのだが、受け取る側の第一印象を正しく考慮していない。評論家の発言であれば全く問題ないが、アメリカ合衆国大統領の発言としては疑問符が付く。オバマ大統領は、スマート・パワーということを外交の重要な柱に据えているが、スマート・パワーは「ワード・パワー」を含む。米国の世界戦略に疑問を抱かせるような発言は、自らが掲げるスマート・パワーを損なうことになる。せめて「米中関係は世界で最も重要な2国間関係の一つ」というべきであった。(つづく)
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