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2009-07-19 07:05

圧政の上に成り立つチェチェン復興

菊池由希子  国際関係専門家
 7月15日、著名なチェチェン人人権活動家のナターリア・エステミーロヴァがチェチェンで誘拐され、その日のうちに殺害された。エステミーロヴァとは個人的に付き合いがあり、彼女と一緒に取り組んでいたプロジェクトもあった。そんな彼女と彼女の16歳の娘と最後に会ったのは昨年の初夏、モスクワでのことだった。カディロフ・チェチェン大統領が学校や病院を含む公的機関でチェチェン人女性にスカーフ着用を命じた政令をめぐって、エステミーロヴァがカディロフと口論になり、彼女の務めていた人権擁護センター「メモリアル」の同僚たちは、彼女の身の危険を心配して、エステミーロヴァ親子をロンドンに3カ月間避難させた。

 その後、私が昨年夏にチェチェンに滞在していた際にも、ロンドンにいるエステミーロヴァから電話をもらい、また私が昨年9月に日本からモスクワへ飛び立ったところロシアに入国禁止となり、日本に強制送還された際にも、彼女は大変心配していた。チェチェンは復興しているという報道が盛んに行われ、国際機関も復興支援の規模を大幅に削減している。確かにモスクワで学生をしていた私のような外国人でも、チェチェンを訪問することが近年は簡単で、大規模な爆撃もなければ、街を歩いていて危険だと感じることもそれほどない。しかし、物理的に生活が可能であることから、チェチェンが平和になってきているという結論にはならないのである。

 実際にチェチェンが平和であるなら、私が強制送還になることも、エステミーロヴァなどの著名な人権活動家やジャーナリストたちが相次いで殺されるようなことも、あるはずがないのだ。エステミーロヴァ亡き今、メモリアルは一時的にチェチェンでの活動を停止するという。これからカディロフ大統領の独裁と彼の命令で行っている数々の誘拐、拷問、殺害の真実を伝える人間がいなくなったといっても過言ではない。

 現場にこだわり、どんな危険も顧みずに最期まで正義のために勇敢であったエステミーロヴァの遺志を継ぎたいと改めて思った。私のようにロシアに入国できなくなることを恐れたり、エステミーロヴァのように殺されることを恐れるなら、結局はチェチェンやロシアの政府を批判したり、真実を語ることをやめるしかない。カディロフはこの殺人事件の責任を追及されているものの、事件の真相が明らかになるとは考え難い。カディロフの圧政を安定させるためにも、エステミーロヴァは邪魔だったのだ。
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