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2009-06-27 23:39

「北東アジア共同体」のすすめ

河東哲夫  自営業
 世界は、BRICsやG20のように、人口と図体の大きな国が花盛りだ。これでは18世紀の西欧型国民国家は肩身が狭い。中小の航空会社がたとえば「スター・アライアンス」を作っているのにならって、日本もひとつ20年先を見通して「北東アジア共同体」を提案してみてはどうか。この世界には思い込みというものがある。例えば「日中韓は歴史上の恨みから、決して友好関係を築けない」というようなものもそうだろう。現代史上、日本が中韓両国に負い目を持つことはそのとおりで、我々は常に贖罪の気持ちを忘れない。だが他方、今や世界で最強の経済センターとなった3国は、これから将来へ向け共存共栄への枠組みも作っていかねばならない。

 日中間3国にとって、米国との経済関係は枢要なものだが、同時に3国間の関係も密接になっている。そして3国の国民性は異なるが、謙譲、思いやりなど儒教的な価値観をかなり共有している。もしかするとそれ以上に重要なことは、青年層の生活様式、文化が共通して近代的なものになってきたことだ。日本では、「韓流」専門雑誌が何種類も書店に並んでいるし、日本のアニメ、J-Popはアジア全域で高い人気を得ている。日中韓の青年達は、その自由な振る舞いと明るさで、もはや見分けることも難しい。
日中韓の大都市は、今や共通の様相を呈し、旅行をしていると自分が今どの国にいるか一瞬わからなくなる時もある。

 そして中国の国際政治・経済専門家の多くは、自国の力を過大評価することなく、国際協調、現状維持の中で自国の発展をはかろうとしているし、韓国でも潘基文氏が国連事務総長になったのを契機に「グローバル思考」――自国や朝鮮半島統一のことばかりでなく、世界全体の問題を考え、その解決に貢献しようとするもの――への傾向が国際政治・経済専門家の間に顕著になっている。だが北東アジアでは同時に、政治・軍事面では米中、日中の間で対抗意識が顕著であるため、これを放置しておくと、北東アジアはこれから世界で最大の軍備競争の場となりかねない。外部の勢力は「歴史問題」をあおりたてることで日中韓の間を裂き、武器を売りつけ、中国市場を独占しようとするだろう。これは全く不要で、不毛な対立だ。北東アジア諸国は、地域の Status quo が維持され、グローバルな自由貿易の原則が維持されていれば、これからも国民の福祉を長年にわたって向上させていくことができるからである。

 だから我々は、既に見られる前向きな進展を確かなものとし、更にこれを発展させていく制度的な仕組み、例えば「北東アジア共同体」のようなものを作っておく必要がある。もちろん、そのようなものが一朝一夕にできるはずはない。だが、たとえ20年先、30年先であっても、それが目標として先に見えていれば、北東アジアで問題が起こるたびに、それを解決しようとする機運が起きやすい。どのような「共同体」を作るのかは、これから皆で議論していけばいいし、それを議論すること自体が前向きのモメンタムを作り出す。基本的には、その「共同体」は現在のEUのように緻密なものではまだあり得ないが、経済関係、そして安全保障問題の双方に関わるものであるべきだ。

 経済関係については、3国間のFTA的な取り決め、安全保障問題については軍拡競争を防ぐため、米国の参加も得て何らかの具体的取り決め――例えば欧州におけるCFE(ロシア・NATO間の通常兵力バランスを固定するための条約)――を行うのだ。世界は急速に変わりつつある。米国が没落することはあり得ないが、これまでのように一方的には振る舞いにくくなっている。その中で顕著なことは、世界の主流が人口、領土の大きいメガ国家、多民族国家になりつつあるということである。18世紀的な国民国家は、歴史の主流から退場しつつある。中小航空会社がアライアンスを形成しているように、日本も周辺国家とクラスターを形成し、メガ国家や他のクラスターと密接なネットワークを形成して生きていくべき時代になった。

 20年先、30年先には北朝鮮もこのクラスター「北東アジア共同体」に入れるだけの国になっているだろう。共同体の本部は、EUのブラッセルにならって、地理的な中央部、つまりソウルとか、ピョンヤンに置くのだ。国連の運営にあたったことのある韓国人なら、日中の張り合いをうまくさばいていくことができるだろう。2010年には日本で、2011年には米国でAPEC首脳会議が開かれる。それを契機に、「北東アジア共同体」、ASEAN、米州における同様の取り決めなどのクラスター形成と相互の関係、そしてそれらの間を貫いて自由貿易と Status quo を保証する米国の位置などを皆で確認できれば、世界は前向きに進んでいくだろう。これは思い込みでも、前向きの思い込みなのだ。                  
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