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2009-06-27 08:28

(連載)評価される「太平洋・島サミット」 の理念と戦略(2)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 我が国が太平洋の島嶼国に援助をするのは、当然のことながら「感謝されれば、それでよし」とするものではなく、我が国の利益にも繋がるから行なうのである。我が国のプレゼンスを高めるという抽象的な戦略目標だけでなく、この地域が経済的にも重要だから行なうのである。具体的には水産資源である。太平洋・島サミットに参加した島嶼国および地域の排他的経済水域(EEZ)は、約2000万平方キロ・メートルに及び、たとえば我が国で消費されるカツオの約3割がこの海域で漁獲されている。日本の援助は、このような水産資源の安定的確保という見返りをもたらしてくれる。

 また、この海域は養殖技術発展のためのよい「実験場」になるであろうし、逆に確立済みの養殖技術やその他の水産資源管理技術を持ち込むことにより、太平洋地域での適切な水産資源管理が可能となる。最近マグロの漁獲をめぐって、これを制限しようとする動きがある。この海域で、そういった水産資源の保全・管理の協力をすることで、マグロの漁獲禁止などといった不都合な方向に事態が進むことを阻止せねばならない。島嶼国は、地球温暖化による被害を受ける可能性が大きい。それゆえ、温室効果ガス削減問題では、かなり厳しい姿勢をとっている。温室効果ガス削減の国際交渉の場では、島嶼国により構成されるグループは、先進国にも新興国にも削減要求を突き付けている点に注目すべきである。

 新興国や途上国は「共通だが差異ある責任」の概念を濫用して、削減に非協力的である。これでは、公平性にも実効性にも欠けてしまう。そこで、島嶼国のグループと連携して、新興国や途上国の削減義務も訴えかけていくべきである。これは、「太平洋環境共同体」の理念にもかなうことである。ただ、この連携を実効あるものとするには、当然のことながら我が国自身もそれなりに高い削減目標を示さなければならない。ところで、オーストラリア周辺の南太平洋地域は、やや語弊のある表現かもしれないが、オーストラリアが自国の「勢力圏」とみなしている領域である。オーストラリアがそこを侵されたと受け取ることのないよう、島嶼国問題ではオーストラリアとの協力関係も同時に密接化していく必要がある。

 日豪は「準同盟国」と呼べる友好国なのだから、そういう配慮をすることは、何も難しい話ではないと思う。いずれにしても、今回の太平洋・島サミットで打ち出された対外援助は、今後の我が国の対外援助のあり方の一つのモデルケースとなりうるものである。さらに、我が国の海洋国家としてのアイデンティティを闡明にすることもできた。国民世論は対外援助に過度に否定的になるべきでないし、外交当局は反対論を納得させられるだけの理論武装をしたうえで、対外援助を行なうことにより、我が国の外交力を高めていかなければならない。(おわり)
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