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2009-06-09 09:20

(連載)北朝鮮の核兵器・ミサイル問題について思う(2)

茂田 宏  元在イスラエル大使
 中ロは、総論では強い決議を支持しつつ、各論では緊張を高めないように配慮すべきであると主張しているように見受けられる。トルコはNATO加盟国であり、この問題を扱う議長国としては、ロシアより良いと思われるが、中ロは拒否権を持つ常任理事国であり、この両国の意向は、決議の採択のために重視せざるをえない。安保理決議は早晩出来ようが、中国がそもそも全面的制裁や北朝鮮の船舶の臨検には反対であり、全面的な経済制裁になる見込みはない。全面的でない制裁についても、その厳格な実施は、決議1718号採択後の経験に鑑みれば、期待できない。

 安保理決議を強いものにする努力はすべきであるが、上記にかんがみ、その効果は限定的であろう。北への制裁としてもっとも効果的なのは、石油の禁輸措置と金融制裁であろう。このうち、前者については、中ロが乗り気にならないとできないが、金融制裁については、基軸通貨国である米がその気になれば国際金融システムから北を締め出すことは出来る。欧州の協力が得られれば、ユーロ取引からも北を締め出すことが出来る。これは効果がある。安保理決議についての努力と平行してこれを進めるべく、米国、欧州と話し合うべきであろう。

 日本の対応については、いくつかの議論が出ているが、ここにも決め手はない。安保理での取り組みを中心に置いた対応は、効果という点であまり期待できないし、独自制裁の強化の効果も限られる。以上を勘案すると、日本の対応は、北朝鮮の核兵器保有とミサイル保有を事実として受けとめたうえでの対応しかないことになる。敵地攻撃のための手段を持つことは重要であるが、これで北の核を抑止しうるとは思われない。ミサイル防衛は、まだ技術的に不完全である。そういうことを考えると、北朝鮮に対し、核抑止をしっかりとさせる以外に良い方策はない。核抑止については、米の拡大抑止と日本の独自の核抑止の2つの方策がある。これまで、日米間で拡大抑止の実際の運用について、しっかりとした話はなされていない。今回の北の脅威をきっかけとして、より詰めた議論を両国でする必要がある。

 この中には、INF交渉の際に欧州が大騒ぎしたデカプリング論(米欧間の安全保障の一体性が切り離されるとの議論)の話を、日本と米国の関係にあてはめた場合についての議論や、NATOの「核計画グループ」の仕組みと同じものを、日米同盟にも作る議論が必要であろう。日米でのそういう話と並行して、日本独自の核抑止力の議論も避けて通れないと思われる。キッシンジャーが示唆しているように、理論上は、これが日本の合理的選択であるとの結論が出てくるかもしれない。この道筋には難しい問題がいろいろある。ただ核アレルギーのような感情的タブー論に溺れ、広島、長崎の再現を許すようなことがあってはならないであろう。(おわり)
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