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2009-04-24 13:50

(連載)北朝鮮問題は、6者協議ではなく、5者管理体制で(1)

李相哲  大学教授
 北朝鮮(朝鮮民主主義共和国)がミサイル1発を発射するのに使うお金は、1億ドルから2億ドルの間だろうという。年間輸出額9億ドルの北朝鮮にとっては、とてつもなく大きい金額である。それでもお金のためには、撃つしかなかったというのが真実に近い。事実上、北朝鮮には2億ドルを空に飛ばすほどの余裕はまったくない。彼等がいかに金に困っているかは、4月21日の南北(開城)接触で交わされた対話内容を見ても明らかだ。20分間の短い接触で、北朝鮮は金の話しかしなかった。PISへの正式参加を控えていた韓国政府は、北朝鮮がそれに反発して挑発行為でもとるのではないかと心配したが、本音はお金にあることがわかり、ホットしたようだ。

 現在、開城工業団地では約3万6000人の北朝鮮労働者が働いているが、平均賃金は約70ドルだ。北朝鮮政府が開城で稼いでいるお金は年間で約4600万ドルである。北朝鮮政府はそれを倍にしてほしい、2014年まで無償で提供していた土地代を、これからは払ってほしい、と要求した。仮に、韓国政府が北の要求を呑むことにしたとしても、北朝鮮が稼げるのは1億ドルに満たない。3万6000人の人民が一年間働いても、ミサイル一発撃つお金を稼げないのである。北朝鮮が如何にお金に飢えているかを物語る事実は、他でも感知できる。外貨稼ぎのために北朝鮮政府は中国で踊りと料理を売り物にするレストランを経営しているが、そのなかには賃貸の滞納で、追い出されるケースも発生している。稼ぎがなかったからではなく、賃貸分までを本国が吸い上げてしまったからである。

 では、なぜ、こんなにお金に困っているのに2億ドルもするミサイルを発射したのだろうか。計算たかい将軍さまがなぜ、こんなに割に合わないことをしでかすのだろうか。目的は金のようだ。北朝鮮の不可解な行動は、経済論理で解釈すれば不可解ではなくなる。北朝鮮の論理は、経済にあると考えればわかりやすい。建国後の北朝鮮経済の歩みをみればよくわかる。北朝鮮は、そもそも農地がすくなく、ずっと昔から飢饉などが発生しやすい地域であった。共和国建国後、金日成は人民に対し「白いご飯に牛肉スープ」を約束し、求心力を得た。事実上、そのために努力した痕跡ものこっている。朝鮮戦争後、経済再建のため「千里馬運動」、すなわち、一日に千里を走る馬の如く速いスピードで理想社会を建設する運動を推し進めるが、経済原理を無視した大衆運動であったがために失敗した。そこで、外国から先進的な機械や技術を導入して、経済再建を図るが、情報を遮断し、人材交流を許さず、「革命的熱情」だけで先進的な技術を自国に応用しようとしたため、その試みは悉く失敗におわった。結果50億ドルにも上る負債を背負うが、やがては債務返済もままならない状況におちいり、ついには債務返済不履行国家、すなわち破産国家に転落した。

 それでも、冷戦体制が続いた時代には、いわゆる「主体思想」を掲げ、ソ連と中国の間で巧みに両国の微妙な関係を利用しながら、援助を引き出し、やっと体制は維持した。その間、人民に対しては、我慢を強いた。米軍や南朝鮮の軍事脅威から国を守るためには莫大な軍事費が必要だ。すこしは我慢しよう、という風に、脅し半分、騙し半分で貫いた。冷戦体制崩壊後は、「多くの社会主義国家が解体されたために、共和国は困難に直面している、暫くは苦難の行軍だ」と人民を説得した。説得したというより、騙し通した。金書記が政権を握った後直面した最大の問題は何をもって人民をなだめ、騙すかであった。金書記は「先軍政治」でエリート層を押さえつけ、「強盛大国」のスローガンをもって人民に我慢を強要した。将軍様が持ち出した論理はこうだった。われわれはいま「強盛大国」建設の一歩手前にきている。核兵器もあるし、衛星だって打ち上げるようになった。アメリカも、日本も、南朝鮮も、共和国を恐れている。いま、核兵器や人工衛星にお金がかかっている。そこで経済状況はあまりよくない。これは共和国を敵対視している日本やアメリカ、南朝鮮のせいだ。ただ、2010年までには「白いご飯に牛肉」が食べられるようになる。もうちょっとの我慢だ、というものである。(つづく)
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