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2009-04-15 09:52

議長声明から見える日本の課題

鍋嶋 敬三  評論家
 北朝鮮の長距離弾道ミサイル「テポドン2号」発射に対して国連安全保障理事会が4月13日、これを非難する議長声明を全会一致で採択した。日本は拘束力のある決議を主張したが、通らなかった。しかし、2006年の安保理制裁決議に対する違反を非難し、過去の決議の履行を求めるなど、日本の主張は実質的に盛り込まれた。国際政治の力学から見ても、これ以上の成果は望めなかっただろう。議長声明とすることについて、米国が中国と共同歩調をとったことに対して、日本の「孤立」という見方がマスコミにあるが、米国は日本の言うことを必ず聞いてくれるに違いないという「甘え」の意識が働いたからなのか?

 北朝鮮の友邦であり、安保理で拒否権を持つ常任理事国の中国が、当初から議長声明より格下の報道声明で処理する消極的な立場を取っていた以上、安保理としての「落としどころ」が議長声明になるというのは、日本政府も計算済みだったはずである。外交とは主権国家間の利害関係を交渉で調整する作業である。賃上げ要求を巡る「満額回答か、ゼロ回答か」では、外交は成り立たない。交渉をまとめるからには妥協は付き物である。日米中各国は、北朝鮮に対する態度が異なる。日本を射程に入れたノドン・ミサイル200基を実戦配備し、今回のテポドン2号で3000キロメートル超の長射程化を実現、ミサイル技術の進展を示した核国家・北朝鮮は、東アジアの最大の軍事的脅威である。

 米国のオバマ政権は、対北朝鮮対話路線を取り、イランにも核問題で協議の姿勢を示すなど、ブッシュ前政権とは一線を画している。中国は、北朝鮮に対する影響力を確保しつつ、6カ国協議でも座長として主導権を維持したい。北朝鮮は、議長声明に反発、「6カ国協議は必要ない」と核開発の再開を示唆した上、国際原子力機関(IAEA)査察要員の国外退去通告など、強硬姿勢をあらわにしたが、米国を直接交渉に引き込む思惑からだろう。安保理協議を通じて、日本外交の課題が浮かび上がった。

 第一に、日本が安保理の非常任理事国でなかったら、ここまでの成果は得られなかった。2006年のミサイル、核実験に対する厳しい対北朝鮮制裁決議の当時も、日本は安保理メンバーとして決議実現に力を発揮することができた。一方で中国やロシアなど常任理事国(P5)の拒否権の壁の厚さも改めて思い知らされた。国連改革を進めて、日本が常任理事国の地位を獲得する必要性は、さらに強まった。第二に、米国との同盟関係を実質的に強化するべき時である。米国が日本の主張を100%後押ししてくれると考えるのはナイーブにすぎる。沖縄・海兵隊の普天間飛行場移転は、アジア太平洋地域で米軍再編の要だが、日米政府合意から12年間もたなざらしで、米国の不満は募っており、いつか対日不信に変わり得る。このような状態を放置しておいて、日本と一心同体で対応するよう求める姿勢が、米国には「身勝手」と映ることもあり得る。同盟関係は一方通行では成り立たないのだ。
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