国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2009-03-28 17:03

「1+1=2」では歯が立たない国際政治

泉 秀之  団体職員
 今朝の伊藤馨氏の投稿「抑止力の意味を知らない鴻池祥肇官房副長官の発言」に、まったく同感である。ミサイル防衛(MD)の抑止的効果を、素朴唯物的な観点をもってしか捉えることのできない鴻池副長官の浅薄さをするどく抉ったその考察は傾聴に値する。抑止力とは、いうまでもなく心理的側面や功利的側面といった「複合的」な要素を併せ持つものであり、だからこそ「複合的」な効果を発揮して、敵の行動を抑止しうるのである。

 今回の鴻池発言は、いわば「1+1=2」的思考とでも呼びうるものであり、政治家が決してやってはならない単純思考の一つである。「MDという選択肢がある。しかし技術的に不完全である。よって、使っても無駄である」という思考は、観念的平和論者による「核兵器は恐ろしい。恐ろしいものはないほうがよい。だから、核兵器はなくすべきである」といった物言いと大差がない。言葉の裏も、行間も、何もない空疎さだけが目立つ。

 形式論理としては理解できなくはないものの、多くの論点を意識的あるいは無意識的に捨象して、単純素朴な結論を導いている点で、きわめて非戦略的な思考方法といえよう。「1+1」が、20にも30にも、あるいは-100にもなるのが、政治の世界である。「風が吹けば桶屋が儲かる」ではないが、あることが相乗的な効果をもって意外な結果に結びつく、といった可能性を絶えず念頭において、先の先まで読み込んで、さまざまな布石を打つのが、政治である。

 加えて言えば、政治家の発言自体が持つ政治的効果に関しても、無頓着すぎる。「そう思ったから、そう言った」というのでは、お粗末すぎる。これは「1+1=2」的行動と呼びうるものである。鴻池氏の発言によって、MDの抑止力は、プラスにもマイナスにも働きうるのである。とにかく政治、とくに国際政治は、なまじっかな方程式が通用しない世界である。単純な足し算、引き算的思考では歯が立たない。それが役に立つのは選挙の票数計算ぐらいではないだろうか。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム