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2009-03-28 08:43

抑止力の意味を知らない鴻池祥肇官房副長官の発言

伊藤馨  会社員
 26日の参院予算委員会で、鴻池祥肇官房副長官から、北朝鮮の「人工衛星」が日本に落下した場合に迎撃が技術的に可能かどうかについて、「私はピストルの弾同士が当たるというのはなかなか難しいことだなあと思っている」との発言があったが、呆れるばかりだ。専守防衛の理念の下、敵地先制攻撃能力を封じ、核戦力の保持は議論すらも禁じられ、あらゆる面において懲罰的抑止の道を閉ざしている日本の安全保障状況において、ミサイル防衛(MD)は拒否的抑止として機能しうる数少ないカードである。

 日本では米国の提供する核の傘という抑止力に対してしばしば不安を唱える声がある。しかし、核の傘という概念がフィクションであっても、日米関係が強固であるというメッセージを平壌に送り続けることによって、核の傘はノンフィクションの抑止力として機能する。MDも同様であって、北朝鮮が「たとえミサイルを発射しても、それは迎撃されて思惑通りの効果は得られない」と判断し、結果として攻撃を躊躇うのであれば、存在論的抑止としてMDは機能したことになるのだ。

 また、現在の日本におけるMDのような存在論的抑止において、技術上の性能を云々するのは戦略的ではなく(勿論確度・精度の高いものであるに越したことはないが)、存在そのものを以って相手の日本に対する敵対行為を逡巡させるべきなのである。それゆえ、鴻池氏のような発言は、抑止力の何たるかを知らない発言というべきである。日本国民を徒に不安にさせてまで、北朝鮮が安心するような情報を発信することに、何の意味があるのだろうか。

 北朝鮮の軍事的脅威に対する抑止力構築のためには、多国間レジームや二国間対話、さらには戦略的なODA政策等、非軍事の要素を総動員する必要がある。こうした外交的アプローチが日本の選択すべき最も効果的な抑止戦略であろうことに、小生も異存はない。しかし、こうした努力が実らず、日本国民の生命・財産が脅かされる状況に至ってしまった場合、今度はMDをはじめとしたハード・セキュリティ・シフトが敷かれる、といった多元的抑止体制を創出すべきではないか。こう考えていけばMDの技術上のマイナス面が強調されるのは現時点では全く得策でなく、少なくとも政府関係者がマスコミに不用意に話すべき性質のものではない。
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