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2009-03-24 23:09

所長だより(6):「『安全保障に関する知的交流』プログラム報告会」について

村上 正泰  日本国際フォーラム所長
 今回の「所長だより(6)」では、さる3月23日(月)に開催された「『安全保障に関する知的交流』プログラム報告会」について、所感を述べます。「安全保障に関する知的交流」プログラムは、日欧の安全保障分野における研究者間の対話を促し、その知的ネットワークを構築することを目的に、当フォーラムが2004年度以来毎年度実施しているものであり、本年度で第5年度目となる事業です。今年度は、「中東欧・コーカサス及び中央アジアから見た欧州安全保障情勢」というテーマのもとで、福島安紀子国際交流基金特別研究員が主査を務め、宇山智彦北海道大学教授、神保謙慶応義塾大学准教授、湯浅剛防衛研究所主任研究員をメンバーとして、調査、研究を行ってきました。今回の報告会では、この4名の方々から、今年1~2月に欧州・コーカサス・中央アジア諸国11カ国を訪問して行った現地調査の結果を報告をしてもらい、出席した当フォーラム会員や外務省関係者との間で意見交換を行いました。

 欧州においては、昨年8月のグルジア紛争、NATO東方拡大、ミサイル防衛(MD)配備問題などをめぐって、関係諸国、とくに西欧諸国と中東欧諸国間で見解やアプローチの相違が顕在化しています。欧州安全保障情勢は、これまで英仏独等の西欧主要国の視点を通じて分析がなされることが多かったわけですが、中東欧・コーカサス及び中央アジアといった国々の立場や考え方を知らずに、その全貌を知ることは不可能であることを痛感しました。こうしたわれわれ日本人にとって馴染みの薄い地域の状況は、遠く離れた東京から遠望するだけでは、なかなか理解しきれないところがあります。今回の現地調査を踏まえた報告を聞きながら、そのことを痛感しました。

 たとえば、NATO東方拡大に関し、ウクライナの加盟の是非が問題になっていますが、「ウクライナでは、専門家の間ではNATO加盟を熱望する声が圧倒的多数だが、一般国民の間ではNATO加盟支持率は30%程度にとどまり、東部地域ではむしろロシアとの統合を望む意見が強い。このようなウクライナ国内の意見の分裂が、また逆にウクライナのNATO加盟に対する西欧側の熱意や関心に水をかけている」という報告を聞き、グルジア紛争に関しては、「グルジアでは、国内に激しい政治対立があり、立場によって内外情勢の見方が異なっている。昨年夏の紛争も『共通の経験』になっておらず、むしろサーカシヴィリ政権への評価を問う物差しになっている」という報告を聞くと、この地域が直面している状況が、いかに複雑であるかを改めて痛感しました。

 こうした分析は、集中的な現地調査を実施して初めて聞ける話であり、この「安全保障に関する知的交流」プログラムの醍醐味だと言えるのではないかと思いました。今年度は、相手国の専門家を訪ねて情報収集を行うだけでなく、現地でセミナーなどを開催して、日本およびアジアの安全保障情勢について当方から発信し、それへの反応も探るなど、充実した知的交流を行うことができました。こうして築かれる知的交流のネットワークは、わが国にとって貴重な財産となるものであり、当フォーラムとしては、今後ともその知的成果を累積しながら、さらに一層充実した活動を展開していきたいと思っています。
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