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2009-03-19 22:55

米海軍調査船への中国艦船の異常接近事件の意味

神浦 元彰  軍事ジャーナリスト
 中国・海南島の南120キロの公海上で、航行中の米海軍調査船「インペッカブル」に中国の艦船5隻が異常接近し、航行を妨害したのは、中国潜水艦の探知を巡る米中の激しい攻防戦が背景にあるとみられる。妨害を受けた米調査船は、潜水艦のスクリュー音を特定したり、潜水艦の捜索に必要な水質データを収集する任務艦だ。米国防省は、妨害にあった当時日常的な探査活動を行っていたとしており、対潜水艦活動を意味するかは不明だ。米国防総省は、中国軍の艦船が米調査船に約7.5メートルまで異常接近したうえ、前方に木材を放出して、緊急停止させるなど、「衝突などの危険性」が大きくました点を批判している。

 事件があった海域が中国の排他的経済水域(EEZ)内であることは、米国も認めているが、米国は「沿岸国はEEZ内で他国の軍事活動を規制する権利を持たない」と主張している。このためこの周辺は米中情報戦の最前線のひとつとなっている。2001年4月に米海軍の電子偵察機と中国軍の戦闘機の接触事故が起きたのも、海南島周辺だった。中国外務省の馬朝旭・報道局長は10日の定例記者会見で、「調査船は中国の許可を得ずにEEZで活動しており、米国側の主張は事実に反し、受け入れられない」と強く反発し、米国側に活動停止を求めた。しかし、この事件の”非”は明らかに中国側にある。国際海洋法条約で決められたEEZ水域の200海里(約370キロ)海域では、各国の艦船は自由に航行できるし、軍用機が上空を飛行することも認められている。それ以上に、EEZ内であっても、沿岸国でないものが海底に電線を施設したり、海底パイプラインを施設すらできるのだ。

 それでは沿岸国がEEZで認められた権利とは何かといえば、EEZ内の水産物や海底の鉱物資源を領有し、開発できることである。そのかわり沿岸国は、海洋汚染防止の義務を負う。国際海洋法条約のどこにも「他国の軍艦が立ち入ったり、調査活動をしてはならない」とは規定されていない。最近、近所の区立図書館から借りてきて、『中国を読む「新語」』(莫 邦富氏著 NHK出版協会刊)を読んだ。その中に、「海洋に目覚め始めた中国」という項がある。明、清王朝時代は、中国では航海禁止令が出され、中国人が海外に出ることは許されなかったという。中華人民共和国建国後も、長い間国民の海外渡航を実質的に禁止する鎖国政策を行っていた。しかし改革・開放による国力の向上で海洋権益に目覚め、海洋を見つめる中国人の目を熱くしていると指摘している。中国人がこれほど熱く”海権(ハイチュワン)”という新語を通して海を語るのは、唐王朝時代以来だと書かれている。

 だから今回の妨害事件は、中国政府や中国海軍に、国際海洋法などの知識が不足しているために起きた事件だと思う(むろん知っていてやった可能性はさらに高い)。しかし米海軍は2001年4月の米軍電子偵察機の接触事故を教訓として、今回のような様な事件が発生することを予測し、米海軍所属の調査船でありながら、乗組員全員を民間人(元軍人を含む)で運用している。以前なら、海軍調査船の乗組員35人の内で、約3分の1の11~13人ぐらいは現役の軍人だった。これは、米中両国の正規の軍人同士が直接対峙することを避けるための措置である。このおかげで、クリントン国務長官の訪中で解禁されたばかりの米中軍事交流は中断を回避できる。
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