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2009-03-09 07:59

民主党は自分の頭のハエを追え

杉浦正章  政治評論家
 政治記者40年、うち首相官邸詰めだけで15年やったが、いわゆる首相官邸による「国策捜査」が全くあり得ないかというと、そうではないだろう。首相は、法務大臣を通じて事件を事前に知り得る立場にある。だから自民党幹事長・佐藤栄作逮捕に対する指揮権発動もなし得た。ロッキード事件で法相稲葉修が度々田中逮捕を示唆したのも、「逆指揮権発動」と受け取られた。しかし今度の場合、官房副長官・漆間巌といういわば官邸中堅機構まで知り得たかというと、疑問が残る。恐らく首相・麻生太郎と法相・森英介止まりの話だろう。したがって民主党が「漆間追及」でいきり立てばたつほど、「引かれ者の小唄」のドグマに陥るのだ。民主党は悪あがきせず、自分の頭のハエを追うことだ。

 漆間は5日、東京地検特捜部の捜査が自民党の議員にまで拡大することはないとの見通しを示し、その理由について「西松建設への請求書があった」ことを強調した。警察庁長官経験者が述べれば、新聞は当然飛びつく。しかし、官邸におけるウルトラ・トップシークレットには官房副長官は含まれまい。官房長官・河村建夫が「警察庁長官の経験もあるから、勘はもっている」と述べたとおりだろう。勘でしゃべったのだ。しかし、首相が事前に知っていなかったかというと、まずこれはあり得ない。だが首相が「国策捜査」をせよと命じたかというと、これも疑問だ。検察は西松建設の外為法違反に端を発した一連の捜査の流れの中で、第一秘書・大久保隆規の「虚偽記載」にたどり着いたのであるからだ。もっとも拙稿は外為法違反の段階で、民主党代表・小沢一郎への波及を指摘しており、洞察力のある政治家なら気付くかも知れない。

 ただ麻生が逮捕を聞いて喜ばなかったかというと、これは違う。欣喜雀躍したに違いない。その喜ぶ様が「検察捜査」にはね返ることはあり得る。ツーカーのボディランゲージは、政権を握っているのだからあっただろう。そもそも官邸は、「検察の捜査を知り得ない」と官房長官や自民党幹部が全面否定しているが、それもあり得ない。象徴的なのは造船疑獄事件がある。1954年当時の佐藤栄作に対する収賄容疑で、検察当局が吉田茂内閣の犬養健法相に逮捕許諾請求への了承を要請したのに対し、同法相は検事総長・佐藤藤佐に対し、逮捕を見送るよう指示。佐藤栄作は逮捕を免れ、法相は指揮権発動の翌日に辞任している。指揮権は造船疑獄以降、発動されていないが、官邸の意向がいかに反映されやすいかを物語る。

 ロッキード事件の三木武夫内閣でも、稲葉が好きなアユ釣りにかこつけて「大物をあげる」と述べるなど、明らかに検察捜査を促そうとする政治の介入が見られた。これを「逆指揮権発動」という。今では小生だけが知っている話だが、田中逮捕の前夜、福田赳夫が田中の秘書の早坂茂三を料亭に呼び、雑談の後「ところで早坂君。角さんの直通の電話を教えてくれ」と田中の寝床の電話番号を聞いている。福田は、三木から逮捕を聞いて、田中に伝えたに決まっている。昔の政治家は、ライバル同士であっても、最後のところではつながっていた。首相官邸と検察とはそういう関係にあるのだ。

 検察庁は行政機関であり、その最高の長は法務大臣である。法務大臣は検事総長に対して指揮命令権を有する。首相は法相を指揮する。しかし今回のケースは、恐らく検察主導の話であろう。自民党でも献金を受けているから、捜査の対象にはなり得るが、果たして「虚偽記載」という罪状が成立するかどうか。加えて大久保は、2001年に施行された「あっせん利得処罰法」違反までささやかれている。同法は刑法のあっせん収賄罪に比べて広い範囲を対象とするものであり、対象は公設秘書などとなっている。したがって幹事長・鳩山由紀夫が漆間を国会で追及すると息巻いても、藪をつついて蛇を出すのがオチではないか。それよりも「再生民主党」を目指して、小沢に辞任を説得すべきだ。世論調査結果を見れば、小沢辞任は自明ではないか。そうしないと「抱き合い心中」が目に見えている。

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