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2009-02-20 08:03

オバマ政権の日本“擦り寄り”の裏を読む

杉浦正章  政治評論家
 国務長官・クリントンの初外遊が日本であることといい、大統領・オバマが最初の首脳外交に首相・麻生太郎を選んだことといい、“対日重視”はご同慶の至りである。しかしこの日米関係史でも珍しい米国の対日“擦り寄り”を無邪気に喜んでいては人が良すぎる。何が背景にあるかをとらえるのが筆者の習性だが、ことはそう単純なことでもあるまい。米国は未曾有の経済危機で史上最大の財政赤字の渦中にある。大量に米国債を買い続ける日本とは二人三脚でないと、とても金融・経済危機を切り抜けられない事情があるのではないか。世界第二の経済大国が、いまワシントンからようやく大きく見えるようになったからに過ぎない。

  米財務省の発表によると、2009会計年度(08年10月─09年9月)の最初の4カ月間の財政赤字がこの期間としては過去最大の5690億1000万ドルとなった。09年度全体では1兆ドルをはるかに超えて2兆ドル前後になると推定されるに至った。この状態でオバマの「歴史的景気対策」は果たして実働するのだろうかと思えてくる。そのワシントンから世界を見渡した場合、欧州連合(EU)は米国と全く同じ青息吐息であり、頼りにならない。命の綱の米国債も買うどころか売られかねないし、現に売られている。そこで目につくのが金融危機が比較的軽微におさまった様子の“同盟国”日本である。過去にも助けられた例がある。

 ブッシュ政権の大減税や、イラク戦争の戦費支出は、日本からの国債購入がなければ不可能あったとさえ言われるほどだ。EUに金を購入している国が多いのに、なぜかドル依存度の高い日本。普段から「米国が冷たい」「振り向いてくれない」と感じている日本。外交官も国民も人がよいから大事にされると喜ぶ。この流れの中のクリントン・麻生会談で、まず日米同盟を強化し、「世界的な経済危機に共同して対応する」ことで合意するという伏線を張った。その上でオバマ・麻生会談で「4月の金融サミットに向け、金融問題での一層の連携」を確認することを主要テーマとする訳だ。この経済危機に日米共同で対処ということほど、米国にとって重要なことは今存在しないのである。「対日重視」を大きな柱の一つとして、経済危機に対処するしか大きな選択肢がないのだ。

 ところで、米財務省が08年11月に発表した同9月の国際資本統計によると、中国が日本を抜いて最大の米国債保有国となった。日本の米国債保有残高は08年9月末で、5732億ドルとなったが、中国の米国債保有残高は、5850億ドルの第1位になったのだ。その中国で大論争が生じている。中央銀行が米国債を買い続けるべきかどうかについてである。反対論は、米国債の市場価値は引き続き下落する可能性があり、また金融市場でのドル安観測も根強いため、大量保有はより大きな損失を被る危険性があるというのだ。しかし推進論は、買い続けることにより米国金融市場の回復と安定を助け、全体的に見れば中国の外貨準備高のサブプライムローン問題による損失を最小限に止めることができるという意見である。これは日本の対応にも参考になる議論だろう。

 米国にしてみれば万一中国に手を引かれるようなことになれば、頼るのは日本と英国、中東諸国くらいしかなくなる。米国債が暴落すれば、それこそ世界経済は奈落の底に陥る。日本保有の米国債も紙切れ同様となる。米国としては切実な事情を背後に抱えての対日外交なのである。もちろん日本としては、米国債の保有量から言っても“一蓮托生”しか選択肢はあるまい。GDPの落ち込みが二けたに達した日本だが、できる限りの協力と協調の姿勢は不可欠である。日米安保条約のもう一つの側面である経済協力関係強化をいまこそ推進すべき時だ。しかし、舞台の裏だけは知っておく必要がある。
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