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2009-02-04 21:11

米軍再編(グアム移転)と中国軍近代化

鍋嶋 敬三  評論家
 米国のゲーツ国防長官が1月下旬、上院軍事委員会の公聴会で在日米軍再編の柱である沖縄海兵隊のグアムへの「移転計画を完了させなければならない」と証言した。同時に原子力空母ジョージ・ワシントンの日本への前進配備にも言及した。オバマ政権でブッシュ前政権からただ一人再任された同長官の発言はこれまでの米国の戦略線上にある。だが、注目すべきは、証言が「中国の軍近代化がもたらす米国への脅威に対して太平洋軍の態勢が十分か」という質問への答弁として出てきたことである。太平洋軍のキーティング司令官は昨年12月、記者団への説明の中で、沖縄の米海兵隊8000人と家族など9000人のグアム移駐を決めた日米政府の合意は「なお有効だ」と繰り返し強調した。

 海兵隊普天間飛行場の全面返還は、代替基地の建設を条件に1996年に日米政府が合意したものの、政府と沖縄側との調整がつかず、12年以上もたなざらしのままだ。2001年の9・11テロ以後、ブッシュ政権が軍事戦略の見直しと米軍の変革に着手、世界的な米軍再編が具体化した。グアムへの移転も、太平洋地域の兵力態勢強化の一環である。ハワイからインド洋までカバーする太平洋軍の要として、グアムが再評価されたためである。

 米軍再編の目的は「変化を遂げる戦略環境の中で不確実性と戦うため、より大きな柔軟性を確保すること」(2008年国防戦略)にある。アジアでは不確実性の元は、中国の軍事力近代化である。中国の国防費は2008年度に20年連続で2桁の伸びを記録し、5年ごとに倍増のペースで、過去20年間では名目上19倍の規模になった(2008年防衛白書)。中国の軍事力に関する議会への年次報告(2008年)の中で、ゲーツ長官は「中国の軍事態勢の向上が、東アジアの軍事バランスを変えつつあり、アジア太平洋地域を超える意味合いを持つ」と指摘した。中国の意図が不明なことが、不確実性をもたらしている。

 香港紙が昨年11月、「中国が空母を建造中」と報道した。中国は1月に発表した「2008年国防白書」で、遠洋での作戦能力向上の方針を初めて明記した。キーティング司令官は「中国は空母開発を真剣に考慮している」と明言、1年前に訪中した際、中国側が太平洋を二分割してハワイの東側を米国、西側を中国とする取引を持ちかけてきたが、拒絶したことを明らかにしている。アジア太平洋地域での米軍再編は、安全保障環境の激変に対応しようとするものだ。海兵隊のグアムへの移転は、米軍基地のある地元自治体の負担軽減という側面は否定できないが、ローカルな視点だけにとらわれると、再編(トランスフォメーション)の本来の狙いを見失うことになるだろう。
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