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2009-02-04 08:04

後手後手の麻生:国家公務員制度改革も実現は疑問

杉浦正章  政治評論家
 あまりにも選挙対策の思惑が先行して、国家公務員制度改革の工程表が本当に実現するかどうか疑問だ。民主党が最大のアキレスけんである官邸と人事院総裁との軋轢(あつれき)を突かないはずがない。たとえ首相・麻生太郎の言うとおり3月に法制化が実現しても、国会を通るのは容易ではあるまい。時間切れで解散・総選挙になれば、事実上の白紙還元となる。人事院総裁・谷公士は役人の割には腹が据わっているし、喧嘩の仕方を心得ている。人事院が反対する「内閣人事・行政管理局」の新設問題の形勢が不利と見て、“主戦場”を改革推進本部から法案作成と立法過程に移したのが、その現れである。

 まず法案作成過程で人事院の主張を鮮明にさせて、修正を狙う。それでも内閣が応じない場合には国会で対立を鮮明にさせる。二段構えの戦術だ。谷は「国会に呼ばれて人事院の考え方に関する質問を受ければ、こうあるべきだと申し上げる」と、民主党に“秋波”まで送り始めた。おまけに現段階での辞任は否定しているが、政府案通りの工程表が実現すれば、「現在の職で責任を果たせない事態になり、私の責任と真っ向から齟齬(そご)を来すことになる」と辞任の可能性をちらつかせている。辞任となれば内閣を揺るがす事態になりかねない。民主党がここをつかないはずがない。民主党は昨年5月の段階では同党の主張を大幅に取り込む形で国家公務員制度改革基本法案が修正されたため、内閣官房に内閣人事局を設置することにいったん賛成している。しかし「何でも政局化」のチャンスを見逃すはずはない。政府部内の対立を際だたせ、「天下り」「渡り」と併せて総選挙の最大の争点の一つにする構えだろう。

 既に民主党は新組織を「基本法の規定を行政府が無断で変更して、逸脱している」と批判し始めた。こうした事情を受けて、読売新聞も社説で「局の設置法案を今国会に提出しても、成立は難しいだろう」と判断している。麻生は3日「天下りと渡りの各省庁のあっせんを今年いっぱいで廃止する政令を作る」と述べたが、これも実現性は微妙だ。定年まで働ける環境づくりのための法整備や定年延長、再雇用などといった人事制度を確立しないまま廃止に踏み切れば、大混乱は避けられない。人道問題も発生する。省庁に代わって再就職あっせんを担うことになる「官民人材交流センター」は態勢が整っておらず、今年中の準備はとても間に合わないようだ。その「官民人材交流センター」についても民主党は廃絶を要求している。行革相・甘利明は工程表を「100年に一度の改革」と意気込んで自賛しているが、4日付けの全国紙の社説は「公務員制度:拙速では改革がゆがむ」(朝日)「公務員改革工程:設計図はしっかりと書かねば」(読売)と冷ややかな見方をしている。

 要するに麻生が選挙目当てに急きょ打ち出したという政策のウラを読んでいるからだ。この政権は、どうも物事が後手後手で、野党やマスコミにたたかれる隙を作りすぎる。問題が盛り上がってから対応するから、結果的に受け身になってしまう。年金問題にしても、後期高齢者医療制度にしても、景気対策にしても、問題の発生に敏速な対応が欠けている。そうかといって民主党の弱点である外交・安保問題などで攻勢を仕掛ける構えも見せない。要するに総選挙が切迫しているのに、場当たり的な見切り発車が多すぎるのだ。これが隙を作って“袋だたき”の風潮を助長しているのだ。麻生は解散・総選挙を断行するなら、内政・外交・安保に渡る総合的な選挙戦略を打ち立てない限り勝算はおぼつかないと知るべきだ。  
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