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2009-02-02 10:04

国連憲章第7章事態の「定義付け」を急げ

浅野 勇樹  大学院生
 国連憲章第7章第39条は、安保理に対して「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定する」権限を与えている。また、「国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、第41条及び第42条に従っていかなる措置をとるかを決定する」権限も与えている。まさに万能の権限である。しかし、5大国だけは、これに対して拒否権をもっている。このような5大国による安保理の恣意的支配の現状を打破するためには、総会か、国際法委員会が、第39条の定める「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為」について、その定義付けをすべきであると考える。

 国連憲章第7章は、第39条で「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在」を決定すると同時に、これらの違反者に対して非軍事的制裁措置を第41条で、そして軍事的制裁措置を第42条で「とることができる」とまで規定している。実際には、国連軍創設のための特別協定(43条)が冷戦期の米ソの意見の相違で締結できず、国連指揮下の国連軍による本来の軍事的制裁措置(42条)はいまだとられたことはない。朝鮮戦争の国連軍は米国の統一指揮下にあったし、湾岸戦争の多国籍軍は一時的に容認(authorize)されて国連外の兵力を借り上げたものにすぎず、国連軍の不備を補ったものである。

 第42条本来の軍事的制裁措置が発動されなくとも、湾岸戦争以降「憲章第7章に基づく」安保理の武力行使容認決議による軍事的制裁が多く用いられている。さらに、第41条の非軍事的制裁措置も、リビアへのテロ容疑者の引渡し要請や旧ユーゴ国際裁判所設置など、あらゆる手段を含むようになってきた。このように、制裁は実情に合わせて効果的に用いられるようになってきており、第39条の「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在の決定」は、紛争や危険な事態の処理にとって極めて重要になっている。なぜなら第39条の「決定」があって初めて「制裁」が可能となるからである。

 しかし、5大国の拒否権発動(第27条第3項)のせいで第39条の「決定」は失敗に終わることが多い。例をあげれば、冷戦期の中東戦争、ベトナム戦争、アフガニスタン侵攻に始まり枚挙に暇がない。「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為」の定義を定めずに、その「決定」の幅広い裁量を安保理に与えた目的は、政治的観点から迅速性を確保することであったはずである。しかし、これまで紛争や危険な事態に対し安保理が迅速な判断をしてきたとはいえない。

 国連60年の歴史を振り返り、その改革が叫ばれているが、「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為」について定義付けを試みることこそが、真っ先になされなければならない「改革」ではないだろうか。「国際の平和および安全の維持」について「主要な責任」を負うと規定されている(第24条)安保理が恣意的な判断をして、「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為」を傍観するような事態をこれ以上許さないためにも、総会あるいは国際法委員会が「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為」を定義付けて、ガイドラインを世界に示すことを呼びかけたい。
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