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2009-01-21 12:22

「変革」のアメリカ、「落日」の日本

鍋嶋 敬三  評論家
 バラク・オバマ氏が1月20日、第44代米国大統領に就任した。アフリカ系(黒人)大統領の誕生自体、建国以来230余年にして迎えたアメリカの変革を象徴する歴史的出来事である。オバマ大統領は就任演説で戦争と不況という未曾有の試練に直面している米国「再生」のため、国民の結束を訴えた。選挙後に82%という驚異的な支持率を記録したのは、人種や階層を超えた米国再生への期待の高まりを示すものだ。オバマ大統領は経験豊かな実務家をそろえた重厚な布陣の内閣を立ち上げた。しかし、100年に1度という経済危機の中で、自動車産業をはじめとする保護主義の懸念も生じており、政権運営に指導力が問われるのは、これからだ。

 「オバマのアメリカ」が\"YES WE CAN\"と「変革と希望」のメッセージを米国内外に発信したしたのに対し、「麻生の日本」は訴えるものを持っているか?そのイメージは「右往左往」「無為無策」のまま、政権が破局に向かって押し流れていく姿だろうか。首相の発言のぶれが繰り返され、指導者としての資質そのものが問われるありさまだ。日本をどこに導いていこうとするのか、展望もプロセスも見えてこない。高揚感に浸る米国とは対照的に、日本の閉塞感は極限に迫りつつある。

 米国家情報会議(NIC)が、2025年の世界情勢を予測した報告書「Global Trends 2025」を、大統領選挙が行われた2008年11月に発表した。「グローバリゼーションの加速と新興国の台頭によって、世界秩序は第二次大戦後とは非常に異なったものになるだろう」と予測した。日本については「内外政策で大幅な見直しを迫られ、一党支配が完全に崩壊、自民党の分裂と合併が繰り返され、政治機能不全に陥る。外交政策では、主として米国と中国の政策の影響を受ける」と見ている。日本は「中級の上のパワー」としての地位は残るとしても、残念なことに英仏独のように国際的影響力を与えるとはみなされていない。この報告書は中央情報局(CIA)や民間の専門家の研究を総合したもので、オバマ政権の政策立案に影響を与えるものだ。

 オバマ政権の外交政策について、ヒラリー・クリントン氏は上院の国務長官指名承認公聴会で「スマート・パワーを駆使する」と、軍事力偏重のブッシュ外交との違いを強調した。「スマート・パワー」は2007年秋、知日派のアーミテージ元国務副長官や駐日大使起用が有力視されているナイ元国防次官補が共同座長としてまとめた戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書で提唱された。ブッシュ政権のアフガニスタン、イラクでの戦争を分析して、「軍事力だけでは長期的に米国の力を維持することは不十分」との反省に立つ。軍事力や経済力などのハード・パワーと、文化や価値観で影響を与えるソフト・パワーを巧みに組み合わせたものを「スマートパワー」と定義している。その目的は「米国の影響力を拡大し、行動の正当性(legitimacy)を確立すること」にあるとされる。オバマ大統領の多国間協調主義もその戦略に沿ったものだ。

 多極化によって、国際的合意をまとめることが困難さを増す中で、スマート・パワーの意味が大きくなっている。このような時代の転換期を迎えて、日本は持てるパワーを国内外に発揮できていない。平和維持活動、核不拡散・核軍縮、気候変動、アフリカ開発など世界的課題を解決するのに相当な貢献ができる立場にあるにもかかわらず、内外から評価されていない。野党を含めた政治指導者が、それを政治だと勘違いしているのか、目先の政局絡みの対応に精力を費やしているからだ。世界史的な流れを踏まえた洞察力に欠け、訴えるべき理念も戦略もない指導者の下で、待っているのは「落日の日本」である。
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