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2010-05-24 11:00

オスマン・トルコ帝国の栄光が残るイスタンブール

小沢 一彦  桜美林大学教授
 毎回の欧州・周辺諸国報告で、紙面をお借りし恐縮です。皆様にユーロ危機で揺れる欧州情勢を考える糧、欧州に対する日本の提言を考える材料にして頂ければ幸いです。さて、アルバニアからマケドニアのスコピエに無事に戻ったのですが、今度はそこからいかにして他国に向うのかに、頭を悩ませました。安上がりで安全なルートで、トルコ(かつて、東ローマ帝国を滅ぼし、ウィーンまで脅かしたトルコ)の現状を見ておこうと決断し、スコピエを午後4時に発つ「国際バス」に乗り、ブルガリアを横断して、一路イスタンブール(かつてのコンスタンチノープル)を目指しました。国境検問所を数回通過しながら、ロドピ山脈を北に見つつ、日が暮れて真っ暗な高速道路を一路東進致しました。

 早朝7時半くらいにようやくイスタンブールに到着。常連のトルコ人ばかりの中に、場違いな日本人が1人乗り合わせるという緊張感からようやく解放されました。朝焼けの中で目に入ってきたブルー・モスクや聖ソフィア寺院の美しいこと。ヨーロッパとは全く異なる雰囲気に、緊張で一睡もできなかった夜行バスの疲れも、一瞬にして吹き飛びました。アザーンの響き渡る中、まずは街全体を知るためにトークンを買い、トラムに乗って周回。ビザンチン帝国と、オスマン・トルコ帝国の遺産が混在し、さらにボスポラス海峡や金角湾を眺めながら、メフメット2世の奇策など有りし日の歴史に思いをはせました。トルコ「民族」は、ユーラシア西部にいたアジアのチュルク系の人々で、ペルシアやビザンチン帝国のあった西アジア周辺に11世紀頃より侵入。そこで、次第に強大な勢力へと成長したわけです。

 アッバース朝、セルジューク朝などもありましたが、やはり1299年に成立したオスマン・トルコ帝国の誕生が、欧州のその後の歴史に大きな影響を与えました。旧ユーゴスラビアが、複雑な宗教や民族の構成を持っているのも、オスマン・トルコ帝国がバルカン半島の諸民族を征服し、緩やかにつなぎとめた連合体であった名残りです。そして、1389年のコソボの戦いでは、セルビアを中心とするバルカン連合軍を退けています。さらに、東西貿易の地理的要衝を抑えたあとは、東西貿易でも富を築いたトルコですが、シルクロードを抑えられた欧州諸国は、ヴァスコ・ダ・ガマのインド航路発見により大航海時代の幕を開け、オスマン・トルコ帝国による富の集積に対抗できるようになりました。

 スルタン制度やデブシルメ制度など、旧態依然としたオスマン・トルコ帝国は、世界秩序形成原理がウェストファリア体制成立とともに主権国家システムに変化した潮流に乗れないまま、幾度かの戦争に敗北を重ね、第一次大戦後現在のトルコまで縮小を余儀なくされたのです。1922年のケマル・パシャによる民族主義的トルコ革命以降、近代的主権国家制度を導入し、政教分離の世俗主義やアルファベットも採用しましたが、ロシアやギリシアとの対立は続きました。キューバ危機でもアメリカのジュピター短距離ミサイル配備に協力するなど、涙ぐましい努力をしたにも関わらず、「欧州」に加われなかったことが、今日のトルコにおけるエルドアン政権を含むイスラーム勢力台頭の遠因です。いまだにギリシアと係争中の南北分断のキプロス問題、またアルメニア人虐殺事件の歴史的記憶の疑惑、さらにはイスラームへの拒否感・嫌悪感から、EUにはなかなか加盟できないままです。事態硬直のなかで、トルコは次第にイスラーム色を強め、イランやシリア、その他「G20」の非欧米諸国との関係強化に乗り出しています。私の現場観察でも、韓国企業の進出が目立っていました。
 
 
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