新型肺炎・パンデミックと世界のパワーバランス

2020年4月1日
坂本 正弘
日本国際フォーラム上席研究員


1.パンデミックと世界秩序

中国発コロナウイルスはパンデミックとなり、世界に深刻な影響を与え、大不況到来の予測もある。歴史を振り返ると、1930年代の大不況は第二次大戦に繋がり、米英間の覇権交替を結果した。リーマンショックは中国の台頭を齎し、現在の米中対立の遠因となったが、このパンデミックは、今後の米中関係にどう影響するか?

2.金融制裁の登場

本年1-2月、中国で猖獗したコロナウイルスは、アジア周辺国、イラン、イタリアに飛び火したが、3月、欧州で急膨張し、更に、米国で感染急拡大を示し、西半球への蔓延もある。3月23日現在、世界のパンデミック感染者は33万人を超え、死者は1.5万人となった(各国の感染者数(千人)は中国81、伊59、米35、西29、独25、イラン22、仏16、韓9、日1等)。
 この人-人感染力の高い、姿なきウイルスへの恐怖は、武漢市、イタリア、スペインなどで医療崩壊を起こした。人-人感染を防止するため、多くの国で国境閉鎖とともに、国内では、人の移動制限、集会やイベントの禁止などの強い措置をとっている。グローバリゼーションと逆の社会隔離の論理であり、短期でも、社会生活を制約し、観光、航空、各種娯楽、飲食などの活動を委縮させ、企業活動に死活の影響を与え、多くの失業を生んでいるが、長期の打撃は深刻である。

3.中国・強権隔離と早期収束の優位

習政権は、1月23日、人口1千万人の武漢市を含む湖北省を強制隔離し、死者は3千人を超えたが、3月に入り、制御の成功を宣言した。独裁政権にして可能な強権隔離と国土全体に巡らしたIT監視体制は、人-人感染のウイルス抑制に効果的だったが、中国は更に、早期感染、早期収束の優位を活用し、危機を機会に変えている。中国は8万人超の感染者の病状をAI分析・蓄積し、先端医療情報のカードを持った。早期収束が医療体制の余裕を生み、イタリアやスペインなどに、器材提供など医療援助を行い、国際的影響力を高めている。
 本年1-2月の中国経済は、小売り売上は前年同月比20.5%減、生産は13.5%減など厳しいものだが、中国政府は生産回復、職場復帰が進んでいるとする。減税、金融支援などを行ったが、なお、財政・金融面で余裕がある。上述の先端医療、IT技術、インフラ投資などが経済を活性化し、外資も中国の早期収束と海外の混迷から、海外移転を中止する。

4.感染急増と株価暴落の米国

米国は、当初大統領予備選の中、対応が遅れた観がある。3月中旬以来の感染深刻化に、トランプ政権は国家非常事態を宣言し、中国・EUなどからの入国制限に加え、米国人の全世 界への渡航中止を勧告した。国内での集会・外食などの自粛を要請し、国防生産法による医療機器の生産、2兆ドル予算による個人支援の現金給付や航空会社援助を提案する。連邦 準備はゼロ金利に踏み切り、各種債券の買い支えを行っている。また、ニューヨーク、カリフォルニア、イリノイ州などが外出制限、州職員の在宅勤務ともに、医療体制を強化し ている。だが、最近の株式市場の乱高下・暴落は、政策が不安を抑えきれてない情況を示す。

5.ウイルスが悪化させる米中対立

以上のように、中国が強権体制と早期収束の利を活用し、ウイルス対策でも、経済対策でも先手を取り、国際影響力を高めている。しかし、習政権の初動の遅れや医療情報の不透明 さが、世界にパンデミックを齎したことは明瞭である。だが、中国は、この責任を認めたがらない。習政権は、中国は大都市武漢を隔離する犠牲を払い、世界へのウイルス感染を遅らせ た、世界でのウイルス拡大は中国の責めでないと主張する。さらに、最近、中国外務省報道官が、武漢のウイルス発生は米陸軍が持ち込んだとまで発言する高姿勢である。
 米国の反中感情はウイルス感染拡大の中、高まっているが、上記発言は、これを憎悪にまで強めている観がある。とりあえず、1月成立した米中貿易合意の米国からの輸入を2千億ドル増やす条項や5Gを巡り、争いが高まると思うが、中国が欧州等で影響力を高めるにつれて、米中対立は深まろう。南シナ海などでの偶発的衝突すら危惧される状況がある。

6.日本の位置、役割

日本は、春節前の段階で、中国からの入国制限を湖北省に限定し、感染が拡大し、3月2日、WHOテドロス事務局長が今後、最も憂える国の一つに日本を挙げた。安倍首相は2月末、中小学校の休校を含む厳しい措置を行い、3月19日の専門家会議は、これまでの強制措置が一定の効果を生んでいるとし、地域により規制を緩めるとした。感染者数は増加しているが、医療崩壊を避け、死者の少なさは、国際的には驚異的に良好な推移である。
 日本はこの実績を踏まえ、コロナ被害先発国として、医療情報、薬剤・器材などでの国際協力を進めるべきである。すでに、日米では多くの情報が交換されているが、先ほど行われたG7の枠組みで欧州との協力を更に強化すべきである。日中韓での外務・保健相会議の枠組みも、相互の情報交換と国際貢献には有用であろう。中国から、このところは南風が吹いているが、尖閣の緊張は続き、日本企業社員の拘留は続いている。このメンツを重んじ、共産党支配を最優先し、中国発コロナ問題も国際的影響力に転化する、狡知にたけた隣国との付き合いは、常に細心の注意と国益の主張が必要である。特に、ありうべき米中関係悪化へ備える対応が必要だが、日本企業も過大な中国依存のリスクの軽減を図るべきである。


坂本正弘日本国際フォーラム上席研究員
坂本 正弘 上席研究員/評議員
1954年東京大学教養学部教養学科卒業、2004年総合政策博士。1956年経済企画庁入庁、経済審議官等を経て、1983年退官。神戸市外国語大学教授、中央大学総合政策学部教授、日本戦略研究フォーラム副理事長を歴任。