政策提言:新型コロナウイルス禍における緊急経済対策

2020年4月9日
廣野 良吉
日本国際フォーラム評議員・上席研究員
/成蹊大学名誉教授


I はじめに

 中国武漢でCOVID-19が昨年12月に発症して以来、中国の国内のみならず、隣国やがて世界全域へ急速に感染拡大が続いている中で、多くの疫学・医療専門家の警告にも拘わらず「川向うの話し」として、我が国を含め世界各国政府は緊急検査・医療対策を講じてきませんでした。その結果、2か月、1か月前とは今や様変わりで、ジョンズホプキンス大学システム科学工学センターが世界保健機関(WHO)や各国政府の公表数を基にした集計によれば、4/7現在世界全体で感染者は136.2万人(3/24日時点では36万人)を超え、死者は7.6万人以上(3/24時点では1.5万人)となっています。検査・医療体制が不備な途上国では、感染者数が未知、未発表の国々が多く、現時点での世界全体の感染者数も不正確であることをWHO自身が認めています。英国インペリアルカレッジを含む幾つかの大学感染症研究センターによれば、今月末には世界全体の感染者数は320万人(3/24の予測値は100万人)を超えると予測されています。我が国では公表数字によれば、同じく4/7現在国内で確認された感染者数はクルーズ船内感染者などを含め5179名、死者は109名となっており、欧米諸国に比べると遥かに少数ですが、検査を希望するすべての人々が検査を受けられない状況下では、感染者数の実数は明白ではありません。

 小生は医療専門家ではないので、新型コロナウイルス(COVID-19)の潜在感染力やウイルス除去対策については全くの素人ですが、感染の拡充がもたらす生命への危険や経済社会への影響については大変深刻に考えています。我が国では安倍政権の初動体制に残念ながら遅れがありましたが、COVID-19の感染拡大に伴い現在は諸々の対策が矢継ぎ早に発表されており、先月17日(日本時間)にはG7首脳の電話会合もあり、国際協調による新しい投薬・ワクチンの開発努力加速を含めた医療体制の整備とあらゆる金融財政政策動員への決意が表明されました。同じく先月19日には、感染症医療専門家会合の討議に基づき政府が早急にとるべき付加的な検査・診療・医療対策が発表されました。さらに、その後の政府COVID-19基本対策本部における専門家の真摯な議論と提案に基づき、一定の進展があったことは評価できると思います。しかし、今後感染者数が急速に増えた場合、検査・医療現場ではPCR検査機器、人工呼吸器、エクモ、医療従事者用の防護マスク、防護服、既存指定医療機関における病床、さらにはCOVID-19専門病院、医師、看護師を含めた医療従事者の配置、無症・軽症感染者の隔離場所の整備などすべての医療インフラ・体制で不備不足が指摘されています。

 世界経済のグローバル化、国民の価値観、世界観の変化に伴い、国民各層の政治意識・行動も変貌しており、戦後72年余の民主主義的統治機構の運営も多くの課題を抱えていることが判明した。これらの変化に対応して、国民の、国民による、国民のための国会の再構築のためには、如何なる政治改革、特に国会を巡る改革が必要となっているかに絞って、以下考察してみたい。

Ⅱ 提言の背景

 今回のCOVID-19感染拡大に伴う日本経済の落ち込みに対しては、安倍政権は既に金融財政政策を動員して、これ以上の悪化を防止せんと努めています。日銀は早くから証券市場への大幅な介入を通じて、一義的には、(ア)証券価格の値崩れによる資本市場への打撃を通じた金融危機とそれに起因する景気悪化を最小限に抑制しようとしています。また、(イ)その副次効果として、証券保有者・企業、特に金融証券機関の金融資産損失を最小限にとどめようとしています。ただ、2008/09のリーマンショック以来資本市場へ出回っている流動性はあまりに巨額であり、すなわち国や地方自治体、さらに民間企業全体の借金残高は余りにも巨額であり、なおかつCOVID-19の最終的な終息の見通しがつかない中では、日銀による付加的な流動性に対して従来期待する実需拡大に基づく企業の積極的な投資拡大効果は、製薬、医療などごく一部の産業分野を除いては見られず、マクロ的ネット・インパクトはほとんど微小ないし皆無といって良いでしょう。これは原油の国際市場価格の大幅な低落に表れています。その結果ニューヨークや東京の株式市場で連日みるように、株式売買高やダウ平均、日経平均株式価格は相変わらず不安定な動きに始終しています。わずかな金融上、外国為替上の利益を求めて動いているのは、大口の年金基金やヘッジファンドに関係する機関投資家や金融証券機関であり、個人投資家を含めた一般市民は一喜一憂しているだけです。

 新型コロナウイルスで毎日不安の中で闘っている一般市民にとっては、このような株式証券市場の日々の動きは川向うの話であり、さらに言えば、我が国身ならず、欧米諸国でも、國際金融資本市場を牛耳る機関投資家に対しては、数年前の「Occupy the Wall Street」事件に見たように、一種の反感さえ潜在的に拡大しているといっても良いかもしれません。もちろん、COVID-19がもたらす経済変動による既存の資産・所得格差維持・拡大は、経済社会の安定を望む中所得層を含む一般市民にとっては大きな心配事といわざるを得ません。しかし、一般市民、特に金融資産を持たない低・低位中所得層にとっての最大の関心事は、如何にして拡大するCOVID-19感染から自分や家族の身を護るかであり、さらに経済の不安定化に伴う雇用、給与所得、消費水準へのマイナス効果です。一般市民が政府に望むのは、日銀の異次元金融緩和政策よりも、政府の財政支出による直接的支援策です。

 安倍政権は、国民大衆のかかる意向を早くから認識して、第1次、第2次経済対策で、もろもろの財政施策を講じてきました。COVID-19対策が既にもたらしている国民大衆の日常の生活・雇用・所得並びにマクロ経済、産業界、企業に与えている負荷は多大といわざるを得ません。特に、2008/09年のリーマンショック時の経験に基づき、経済専門家や各界の有識者へのヒヤリングを通じて諸々の対策が既に講じられてきましたが、残念乍らその多様な施策は単に内容面や実施面で不十分であるだけでなく、不適切な面が多々あります。小中高校の3月中の休校により影響を受けている勤務者への一日当たり8,330円、フリーの就業者に対する一日当たり4,100円の現金給付も発表されましたが、その金額を初め、対象範囲や実施体制には多々の不備・不満が指摘されています。中小企業への無利子融資枠の1.6兆円への拡大やもろもろの税制上の優遇措置も既に導入されていますが、これらCOVID-19対策に伴う企業の休業や労働者の失業・所得減への補償を含めた政府の諸施策の導入、制度改革、予算化措置も相変わらず不透明そのもので、特に中小零細企業主や従業員の不安が増大しています。巷では先般10%へ引き上げた消費税の一時的な期間限定の引下という選択肢も議論されています。

 政府は、特に最近観察されているCOVID-19の急速な感染拡大を懸念し、国民大衆の日常生活・雇用・所得を初め、マクロ経済、製造業、各種サービス業などの企業活動へ与えている多大な影響を「重視」して、昨夜漸く、緊急経済対策を発表しました。これらは当然令和2年度補正予算案へ編入されて、来週にでも国会の予算委員会へ提出されて、与野党による審議が始まることになるでしょう。しかし、その中身を見て唖然としたことは、あたかもCOVID-19の急速な感染拡大が数週間で終息するかのように、また本年第2四半期には年率換算でマイナス実質11.1%(MUFJRC予測値)減速予定の日本経済の成長が済やかに回復するかのように、僅か18.6兆円という少額の新たな財政支出措置しかとろうとしていません。即ち、総て一回限りの減収世帯(30万円)、個人事業者(100万円)と中小企業(200万円)への総額僅か6兆3382億円の現金給付と、同じく一回限りの子ども手当増額(一人当たり1万円で総額1654億円)と雇用調整助成金拡大措置や地方自治体への臨時交付金の創設などだけです。我が国GDPの20%(108兆円)に当たる事業規模と胸を張って発表した「大規模経済対策」に組み入れられたものは、昨年末から逐次発表された企業への融資、各種納税の繰り越しなどを含む第1、第2次経済対策や今年2月以降既に発表されたが未だ実現していないもろもろの感染症対策費用の積み上げに過ぎないことです。

 今回の安倍政権の緊急経済対策は、急速な感染拡大に直面して客足が減少した業界・企業、特に中小零細企業にとっては短期的な救済策として重要ですが、安倍政権が目的とする雇用水準維持、雇用構造の改善および国民の生活安定、これらを通じた即効性ある景気回復に対しては有効性に欠けるだけでなく、そのおびただしく多種多様な政策メニュー(施策)は実施上からも非効率であり、さらに我が国の中長期的な財政・経済の健全・持続性にも貢献しません。強調したい点は、安倍政権の緊急経済対策の目標そのものが正しいとしても、その目標達成のための手段が端的に言って不十分、不適切です。我が国の早急な景気回復や中長期的経済社会安定の達成と、一般国民、特に貧困や社会的差別に悩む庶民の生活安定・保障という視点に立つと、その誤りは明白です。極言すれば、今回の緊急経済対策は、伝統的な「上からの目線に立った、目先優先の官主導対策」といって良いでしょう。周知のように、我が国はEU諸国と同様に、既に一方で環境保全や格差解消を目指す社会的規制を強化しつつ、「市場の失敗=Market failures」を抑制し、他方では経済的規制の縮小・削減を通じて、自由な発想と公正な市場競争に基づく技術・経営革新によって市場の経済効率を高めるという、「下からの目線に立った」住民、国民の生活安定・福祉増進を優先した対策へ舵を切った筈です。政府は細部にわたる市場介入によって、需要者と供給者が国内外のあらゆる状況の変化に対応した市場経済の自由取引がもつ本来の有効性、効率性、適時性、即効性、公平性、透明性などを奪う「政府の失敗=Government failures」をもたらさないように細心の注意を払わなければなりません。下記に小生が訴えている提案は、正にこのような社会的市場経済(Social market economy)の諸原則に則したものです。

 特に新型コロナウイルスの国内外での急速な感染拡大という異常な状況下で国民が政府の緊急経済対策に求めているのは、国や地方自治体が直面する財務・人的・技術的・時間的資源の有限性の中にあって、政策の形成・施行において政府による市場への恣意的な介入のない、公平性、透明性、適時性、迅速性、即効性、有効性、効率性などが貫徹された経済対策です。勿論、中長期的な経済政策では、「構造改革なくして成長なし」という小泉政権下の合言葉のように、さらに第2次安倍政権下でも、「第3の矢なくして成長戦略なし」といわれてきたように、変遷する世界経済のグローバル化の中で国際競争上優位に立つ上で不可欠な既存の経済構造や実施体制の改革に踏み込んだものが求められており、それなくしては中長期的なマクロ経済安定的成長や国民が望む中長期的な生活の安定・安心は実現できません。

Ⅲ 政策提言

 もちろん、COVID-19対策には、単に新薬、ワクチンの開発を含めた保健・医療対策、経済対策だけでなく、教育、社会安定政策など種々ありますが、ここでは、緊急経済対策に限定して提案したいと思います。今直ちに実行すべき緊急経済対策としてもいろいろ考えられますが、ここでは市場経済下にある我が国の政策の適時性、迅速性、有効性、効率性、簡易性、公平性、透明性、乗数効果などを最大限に尊重して、A案とB案に絞ります。両案の違いは、前者が日本に在住する市民全体(旅行者など例外を除く)への特別給付であるのに対して、後者は総収入240万円未満の所謂低所得者のみを対象としている点です。そのいずれの対策、あるいはその折衷案をとるかは、基本的には日本国民の総意によりますが、現実的には国会議員や政府関係者の協議によるのは当然でしょう。

提言A

 1. 政府は、我が国在住の日本国籍あるいは永住権を有する外国人すべてに対し、その就業形態、所得状態の如何に関わらず、成人一人当たり毎月100,000円相当の期間限定国内商品・サービス券をアプリないしTカード(家電製品、時家用車、I-phoneなど耐久消費財、非耐久消費財、運輸通信・飲食・観劇などサービス消費であれば使い道は問わないが、株式を含めた金融資産、不動産投資と関連消費は除外) で感染収束までの6か月間(2020/4-9月)給付し、万が一の感染が終息しない場合には次期6か月間も給付すること。ニート(NEET=Not in Education, Employment and Training)人口を本給付制度から除外するという案もありますが、それは、労働能力ある者はすべて労働意欲をもって潜在的・顕在的労働市場への参加を通じて、自分自身はもちろんのこと、家族、地域社会、国、世界の人々の社会福祉の増進へ貢献するという我が国の社会通念からです。しかし、その手続き上の時間的制約から、今回はこの除外案はとらないことにします。こうして、COVID-19特別給付金有資格者は極めて明白であり、アプリ、Tカード給付で極めて簡単・迅速であり、給付に付帯する事務的経費も軽微です。試算によると、この新型コロナウイルス特別給付による毎月の財政負担増額分は、100,000円×9千万人(年齢層18歳以上)=9兆円であり、同期間中54兆円に達しますが、同時に国内消費増も単純計算で6か月の実施期間内には60兆円、返済期間内には、他の条件に変化がなければ、乗数効果により1,500兆円を超すことになり、産業間・地域間のばらつきはあるにせよ、民間企業の技術革新・製品開発・設備投資や雇用・労働時間増による労働者所得増に繋がり、その経済効果は甚だ大きいといえるでしょう。

 2. 我が国在住日本人および永住権を有する外国人に対する毎月一成人当たりで100,000円相当の期間限定国内商品・サービス券給付は、上述のように単に景気維持・浮揚対策として効果的であるだけでなく、男女・年齢・職業・就業形態等に関係なく、すべての失業者、自営業者、家族従業者や低所得者(一人当たり総収入が年間240万円未満の階層)の消費水準の6か月間の引き上げ効果(単純計算で、100,000円×2,800万人×6か月=16.8兆円以上)は多大であり、従来拡大しつつある所得・消費格差の縮小に多少なりとも役立ち、それによる低所得層にみられる不公平感に基づく社会的不満の減少、社会の安定にも貢献することになるでしょう。

 3.この新型コロナウイルス特別給付金は当然乍ら、我が国の財政支出増であり、我が国の財政健全化のためには年々の消費増を可能にする範囲内での実行可能な長期的な返済計画の策定・実施が不可欠です。その返済は、2011/4-2021/3までの10年間の東北大震災復興財政支出予定総額(32兆円)の返済計画制度(現在東日本大震災復興特別所得税という形で、すべての個人および企業の所得税納入人口へ上乗せされており、2012-37年の長期に亘って毎年課税所得税額の2.1%を徴収)に準ずることで対処します。毎年平均3兆円の返済計画では、COVID-19特別所得税徴収は、感染収束後に始まり、国債利息・元金併せて約20年間(2020/10-2040/9)で完済となり、中長期的な経済成長・雇用増・勤労所得増という好循環の下では合理的な選択肢でしょう。さらに、この特別所得税徴収方式が特に低・中所得層の消費支出へ減少効果があるという恐れを解消するためには、高所得層(課税所得が年間1,200万円以上の階層)の現行所得税率33%を40%へ引上げるという徴税方式も考えられます。この方式を採用すれば、高所得層年間所得税徴収総額は、年間19兆8000億円(396万円×500万人)から24兆円(480万円×500万人)へと毎年4兆2000億円の増収となり、この増収分だけでもCOVID-19特別給付額54兆円の返済は約13年間(2020/10-2033/9)で完了(4.2兆円×13=54.6兆円)することになります。この高所得者層への税率引き上げは、一方で赤字財政の抑制による財政の健全化に貢献するだけでなく、他方では低・中所得階層の個人消費支出の減額抑制ないし増額も期待でき、さらに上記2に掲げた貧富格差の縮小にも役立ちます。

 4.COVID-19特特別給付金制度の導入による消費支出の増大が、COVID-19感染拡大による経済成長鈍化を抑止できないと予想される場合には、2020/4-9までの6か月間の消費税を棚上げすることも、もう一つの選択肢でしょう。さらに、必要あれば、その後の6か月間も消費税徴収を延期することありうるでしょう。他の条件に変化がなければ、この措置による財政収入減は第1期年間12兆円、両期間24兆円と予想されますが、この措置による個人消費増額は、過去のデータから推計すると、第1期9~9.2兆円前後、両期間で18~19.2兆円前後と想定されます。長期的な財政健全化のためには、これらの額は、COVID-19終息以降の消費税の復元やその他各種増税により長期的に穴埋めされるべきは当然です。

提言B

 1.今回のCOVID-19感染拡大を契機とした、上記パラダイムシフト(経済成長優先から持続的な国民生活・福祉優先への政策指向転換)に基づく政策として、日本在住の日本国籍あるいは永住権を有する外国人すべての低所得層(一人当たり総収入が年間240万円未満の階層)に対して、その就業形態、所得・資産水準などに関わらず、成人労働者一人当たり(失業者、パートタイム・契約労働者、自営業者、家族従業者、低年金受給者など)毎月100,000円の新型コロナウイルス特別給付金を導入する。この給付金は現金給付ではなく、期間限定・転売買不能の国内商品・サービス券をアプリないしTカードで給付し、その使途は消費財・サービス消費に限定する。さしあたり感染収束までの6か月間(2020/4-9月)給付し、万が一感染が終息しない場合には次期3か月ないし6か月間も給付する。試算によると、この特別給付金による毎月の財政負担増額分は、100,000円×2,800万人=2.8兆円であり、同期間中最低16.8兆円ないし最高33.6兆円となります。低所得者層の日常生活の安定への寄与は勿論のこと、産業間・地域間のばらつきはあるにせよ、民間企業の技術革新・製品開発・設備投資や雇用・労働時間増による低所得層言以外の多くの労働者の所得・消費増にも繋がり、その後の波及・相乗効果もあり、中長期的な経済効果は甚だ大きいといえるでしょう。なお、COVID-19終息後も、低所得者への消費財・サービス券給付による特別給付金制度を維持することも、理論的にはもう一つの選択肢となりうるが、我が国・地方自治体が既に抱えている膨大な借金残高(GDPの300%)の返済を考慮し、経済財政の長期的健全化を考慮に入れた場合には、慎重な検討に値するでしょう。

 2.この新型コロナウイルス特別給付は、一方で現存する金融資産保有者を優遇する所得分離課税制度一時的停止あるいは漸次的廃止を前提としており、他方では男女・年齢・職業・就業/非就業・就業形態等に関係なく、すべての低所得成人労働者を対象としている結果、従来拡大しつつある所得・消費格差の縮小に役立ち、それによる低所得層にみられる不公平感に基づく社会的不満の減少、社会の安定にも貢献することになるでしょう。さらに同期間中の低所得者層に対する無償技能訓練制度の提供により、低所得者の職能改善、中所得就職機会の確保へも連動する可能性も大となるでしょう。

 3.この特別給付金は当然乍ら、我が国の財政支出増であり、我が国の財政健全化のためには、提言Aと同じく、年々の消費増を可能にする範囲内での実行可能な長期的な返済計画の策定・実施が不可欠です。その返済は、東日本大震災復興特別所得税制度に準じ、総収入年間240万円以上の全国民(成人・非成人納税人口4,800万人)を対象とします。毎年COVID-19特別所得税徴収は、感染収束後に始まるが、推計では国債利息・元金併せて最低約6年間(2020/10-2026/9)、最高12年間(2021/4-2035/3)で完済できます。さらに、提言Aと同じく、高所得者の現行所得税率33%を40%へ引上げるという徴税方式を採用すれば、高所得層からの増収分だけでもCOVID-19特別給付額16.6兆円の返済は約4年間(2020 /10-2024/9)で完了(16.6兆円/4.2兆円=3.95年)、33.2兆円の返済は最高約8年間(2021/4-2029/3)で完了することになります。その結果、一方で赤字財政の抑制による財政の健全化に貢献するだけでなく、他方では低・中所得階層の個人消費支出の減額抑制ないし増額も期待でき、さらに上記A.2,B.2に掲げた貧富格差の縮小にも役立ちます。

 4.上記の提案の背後にある世界観は、世界の人々や政府は、一方でモノ、カネ、ヒト、情報がITやAIの進展を通じて国際化が急速化し、人々の生活・保健・教育水準が向上した反面、他方では富の偏在化、所得格差の拡大と共に、社会分断傾向の先鋭化、気候変動の激化に見るように、正負効果が歴然となっている21世紀のグローバル化経済社会を直視して、最早自国の既得権益集団の利益を優先する政策を破棄することが急務であると考えています。世界のすべての国々の人々と政府は、地球生態資源の持続的保全と「世界人権宣言」と「SDGsの精神」に基づく平和で公正な国際秩序の適正な管理を自国の国際的責務として積極的に取り組み、感染症対策のみなならず、あらゆる経済社会外交政策分野での多国間協力の拡大こそ自国民の経済社会政治的安全保障の増進に繋がることを再認識して、自国の金融財政政策、産業技術政策、社会政策などの最終目標を、従来のような特定権益集団の利益維持・保護・拡大に資する経済成長優先ではなく、「誰一人取り残さない」(Leaving None Behind)というSDGsの精神に準じて、総ての国民、市民、特に低所得者や恵まれない人々の持続可能な生活安定と福祉増大に置き、自助・共助・公助に基づく地域社会の持続的安定を優先・志向を目指すことが最も優先さるべきと考えています。



廣野良吉日本国際フォーラム上席研究員
廣野 良吉 評議員・上席研究員/成蹊大学名誉教授
 1954年米国モアハウス大学卒業。1958年シカゴ大学大学院経済学研究科研究課程修了後、成蹊大学経済学部専任講師、同助教授、同大学院教授を経て、1998年より現職。その間、国際連合開発計画事業政策評価局長(UNDP)、国際連合経済社会理事会開発政策委員会議長、国立政策研究大学院(GRIPS)客員教授。現在、日本ユニセフ協会理事、日本評価学会顧問、国連大学シニア・プログラムアドバイザーなどを兼務。