平林 博 副理事長 「日本から見た世界 世界から見た日本」

第36話
『観光大国に向けて飛躍せよ』

2014年3月15日
 日本国際フォーラム副理事長 平林  博



 2013年に日本を訪れた外国人は1036万人(前年比24%増)で、はじめて大台を超えた。2003年に始まったVisit Japan、次いで現在のEndless Discoveryキャンペーンのもとで官民が努力した成果である。
 しかし、国際比較すると、日本はまだ観光後進国だ。比較可能な2012年の統計によると、外国人受け入れ数は、ダントツのフランスが8302万人、以下米国6697万人、中国5772万人。その後はスペイン、イタリア、トルコ、ドイツ、英国と続く。日本は836万人で世界第33位だ。アジアでも、中国、マレーシア、香港、タイ、マカオ、韓国、シンガポールの後塵を拝し、第8位に甘んじた。
 人口に対する外国人観光客数を比率でみると、第1位のフランスは131%、すなわち人口6570万人(2012年)より30%多い数の外国人が訪れる。その後はイタリア76%、カナダ47%、英国46%、ドイツ37%、韓国22%、米国21%と続く。日本はたった8%である。逆に言えば、日本の潜在力は大きいことになる。
 2013年の訪日客数国別ランキングは、韓国246万人(対前年比20%増)、台湾221万人(同51%増)、中国132万人(同8%減)、米国80万人(同12%増)、香港75万人(同55%増)、タイ45万人(同74%増)、オーストラリア25万人(同19%増)、英国19%(同10%増)、シンガポール19万人(同33%増)の順だ。日中関係悪化のために中国人は減少したが、それ以外のアジア諸国・地域からは二桁の増加だ。

 日本は、文化、歴史、自然が世界でも最も魅力的な国だ。世界で最も安全な国である。銃器は厳しく取り締まられている。テロや内戦もない。タクシーなどに財布や携帯電話を忘れても、戻ってくるのは日本ぐらいのものだ。日本では、何よりもおもてなしの精神があふれている。ホテル・旅館などの観光業者は勿論、個人レベルにおいてもそうである。わが国の製品の品質の高さはピカイチだが、サービスの質も別格だ。鉄道などすべてにわたって時間厳守だ。電気、ガス、電話などを引くのも時間指定できる。郵便や宅急便の正確さや親切さは、ほかの国では期待できない。

 にもかかわらず「観光後進国」できたのは、いくつかの理由がある。
 第一は、他国に比べて日本が相対的に閉鎖的であったことだ。政府も、外国人観光客をどんどん招こうという発想はVisit Japanキャンペーンまではなかった。外国から日本への投資も、各種の規制等により諸外国に比べて少ない。安価な外国人労働者の移入への警戒、治安悪化への懸念などもある。
 第二は、30年近く続いた円高である。日本への旅行は高くつくとのイメージが定着した。一昨年の安倍政権の誕生以来、政府日銀の異例の金融緩和とアベノミックスにより円安方向へ大きく転換しつつあることは、観光には有益だ。
 政府は、平成28年までに、訪日外国人を2000万人にする、国際会議は平成22年の741件から28年までに5割以上増やす、などの目標を掲げている。何よりも、政府が先頭に立って対外的な観光広報を充実するとともに、外国人が喜んで来日し滞在できるよう大胆な手を打つべきである。
 平成25年度版の政府観光白書によると、外国人が不便、不満に感じるのは、交通標識、案内板などの標識関係がトップで全体の37%、観光案内所28%、言葉20%、クレジットカード18%などが続く。他方、サービスに対しては3%、観光施設1.5%、買い物1.5%、景色4%と、これらへの不便・不満は少ない。
 筆者は、2007年から2012年まで、国土交通省の国土交通審議会の観光分科会長の任にあった。貧弱な観光関係予算と日本観光振興機構(政府観光局)の充実、査証の緩和など多くの振興策を審議し提言し、国土交通省観光部を観光庁に昇格させた。しかし、政府観光局の在外事務所は、アジア太平洋では、ソウル、北京、上海、バンコク、シンガポール、シドニー、米州はニューヨーク、ロサンゼルス、トロント、欧州はロンドン、パリ、フランクフルト。全部合わせてもたったの13か所だ。また、タイ、マレーシア、インド、シンガポール、インドネシアなどは、CNNなどの国際的テレビに活発なCMを流しているが、日本はまだまだだ。
 要するに、わが国は、観光振興に金を惜しんで来たのだ。観光は裾野が広く、経済、雇用に大きな利益をもたらし、大都市のみならず地方を活性化させる。観光振興のために金を使っても、何倍かになって返ってくる。
 外国人用に免税対象品目を拡大する動きもある。4月から消費税が上がれば、訪日する外国人に対しこれを免除する効果は大きい。
 観光査証の免除ないし数次査証は、友好国に対しては可能な限り導入するべきだ。これまでの東南アジア諸国に対する査証緩和策に加え、さる1月の安倍総理の訪印の際、インド人に対し短期滞在なら数次査証を発給する合意ができた。法務省や警察庁は、不法滞在や犯罪などを警戒しており、分からないわけではない。しかし、ごく一部に不心得者が出るとしても、圧倒的多数の観光客がもたらすメリットの方が大きい。中国や韓国は反日政策、反日教育を行っているが、中国人や韓国人が実際に日本に来て日本人と接すると認識が改まると言われる。

 問題は、政府だけではない。地方自治体にも発想の転換が求められる。近年になり、各地において町並みを含めた歴史文化遺産の保存や修復が盛んになり、景観(保護)条例の制定も進んでいる。映画のロケ先になると観光客が増える。県境を越えていくつかの観光地が連携した、点ではなく面の観光誘致も進んでいる。
 日本の主要都市や観光地には外国語表示の案内や地図が普及していない。大都市の外国語標識は広がってきたが、英語、中国語、韓国語などの掲示板や案内人をもっと広く配置する必要がある。
 民間業界は、動きが早い。百貨店や量販店は、外国人の買い物客を呼び込むためにスペースを拡大し、外国語を話せる店員を増強し、中国のクレジットカードをそのまま使用できるようになった。日本国内の航空賃や鉄道料金は高いが、外国人が外国で購入するJRパスは、便利で安いので好評だ。

 これまで日本人は大挙して外国に行った。政府も、一時は外貨減らしと称して海外旅行を奨励し、個々人も円高の利益を享受した。これからは、外国人の日本訪問を助長することに力点を置くべきである。日本の観光資源を最大限に活用すれば、日本は一層輝きを増すであろう。


 [「自警」2014年3月号「日本から見た世界 世界から見た日本 第36話」より転載]

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平林 博

平林 博   日本国際フォーラム副理事長

 1940年東京生まれ。東京大学卒業後、1963年外務省入省。1991年から2007年までに、在米国日本大使館経済公使、次いで同大使館特命全権公使、外務省経済協力局長、総理官邸の内閣外政審議室長、駐インド特命全権大使、駐フランス特命全権大使、査察大使をそれぞれ歴任。
現在、グローバル・フォーラム有識者世話人、東アジア共同体評議会議長、日印協会理事長等を兼任。