平林 博 副理事長 「日本から見た世界 世界から見た日本」

第34話
 『防衛・防護感覚薄き日本人―これでよいのか』

2014年1月19日
 日本国際フォーラム副理事長 平林  博



 さる12月16日、特定秘密保護法が成立した。
 国会での野党からの執拗な抵抗、国会周辺での反対デモ、マスコミや俗に言う「文化人」「知識人」による反対キャンペーンをようやく克服した。
 安倍総理は12月9日記者会見を行い、臨時国会の成果を強調したが、中でも国民の生命財産を守るためにこの法律の必要性を訴えた。同時に、現在でも存在する秘密が広がるわけではなく、国民の知る権利や通常の生活が脅かされたり自由な創作等が妨げられたりすることなどは「決してない」と強調した。むしろ特定秘密の指定者を含め責任の所在がはっきりし、総理自身が特定秘密を把握できるなど、ルールに従った適切な運用ができることも強調した。
 総理は自らも認めたが、もっと早くこのような説明を国民向けに行っていれば、「ためにする反対者」はともかく一般国民の理解はもっと得られたであろう。今後も、丁寧な説明が必要だ。

 一連の経緯を見て感ずるのは、日本人の防衛ないし防護感覚の欠如である。
 わが国の平和と安全の確保、日本人の生命身体の保護のためには、国や個人に関する重要な機密を秘匿する必要がある。特定秘密保護法は、多くの秘密情報の中でとくに保護を要する4分野のみを対象としたものであって、反対者が主張する様な「何でも秘密保護」ではない。4分野は、法律の別表に下記のとおり定められている。
1、防衛
 ①自衛隊の運用や運用見積もり、計画、研究
 ②電波情報、画像情報、その他の重要な情報
 ③情報収集能力
 ④防衛力整備の見積もり、計画、研究
 ⑤武器、弾薬、航空機などの種類や数量
 ⑥通信網の構成や通信方法
 ⑦暗号
 ⑧武器、弾薬などの研究開発段階での仕様など
 ⑨防衛施設の設計、性能、内部の用途
2、外交
 ①外国政府、国際機関との交渉で国民の生命、領土保全、その他の安全保障に関する重要なもの
 ②安全保障のための輸出入禁止措置やその方針
 ③国民の生命、領域保全、国際社会の平和と安全に関する重要な情報や条約等で保護が必要な情報
 ④情報収集能力
 ⑤外務省本省と在外公館との通信や暗号
3.スパイ活動防止
 ①スパイ活動の防止のための措置や計画、研究
 ②国民の生命に関する重要な情報や外国の政府、国際機関からの情報
 ③情報収集能力
 ④暗号
4、テロ防止
 ①テロ防止の措置や計画、研究
 ②国民の生命に関する重要な情報や外国の政府、国際機関からの情報
 ③情報収集能力
 ④暗号

 こうして見ると、一般の国民が恐れ危惧する要素はないではないか?言論の弾圧や戦前の治安維持法などに言及する向きがあったが、全くのプロパガンダである。報道機関はしきりに「国民の知る権利」を主張するが、国の安全や国民の生命身体保護のため秘密情報があることは常識だ。一部報道機関の批判は、「国民の知る権利」という大義名分を掲げているが、政府機関などから安易に高度秘密情報をとれなくなる恐れからきており、「国民の権利」というよりは、「マスコミの利益」の側面の方が強い。反対の声を上げた映画界、文筆家などの文化界にとっては、何の関係もない。
 なお、法律が乱用され、拡大解釈されないよう、情報保全諮問会議(有識者からなる)、内閣官房に設置する保全監視委員会(各省次官らが特定秘密指定の妥当性をチェック)、内閣府の情報保全監察室(独立公文書管理監をトップに、指定、解除、期間、文書の管理を検証し、是正を求める)が多層的にチェックし、阻止する仕組みがつくられる。

 民主主義国家である諸国と比べてみよう。
 米国、英国、ドイツ、フランスなどはすべて同様の法制を備えており、多少の相違はあるが、秘密漏洩に対する罰則、秘密保全の期間等が定められている。ちなみにこれら諸国には、米国のCIA(中央情報局)やNSA(軍に所属する国家安全保障局)、英国のMI6(ジェームス・ボンドで有名)やMI5、フランスの軍に所属する対外治安総局(DGSE)や内務省の国内情報中央局(DCRI)、ドイツの連邦情報庁や軍にある軍事保安局などなど、強力な情報機関がある。ロシア、中国は勿論、韓国にもこれら諸国と肩を並べるような強力な諜報機関がある。わが国にも内閣調査室はあるが、その陣容、予算などからすると諸外国には比べ物にならない。外交防衛の司令塔として創設された国家安全保障局(日本版NSC)は、わが国の情報収集能力を強化する意義もある。
 信頼感のある国と国の間では、機密情報(例えばテロリストの動向)の交換が行われる。大使舘ベースのものもあれば情報機関同士の直接のものもある。各国間の情報交換は、ほぼギブ・アンド・テークである。秘密保護に関する法制や体制が整備されてこそ、わが国の安全や国民の生命身体の保護に必要な情報が得られるのである。

 日本人は平和と安全に長らく慣れたせいか、危機意識が薄い。わが国周辺は、尖閣諸島周辺の海空への中国艦船や航空機の増大、一方的でかつ尖閣諸島をもカバーした防空識別圏の設定など中国の脅威が増している。北朝鮮では、ナンバー2が粛清されキム・ジョン・ウンによる独裁強化が進む。韓国ではパク・ウネ大統領が反日に舵を切り、ところ構わず対日批判を繰り広げている。サイバー攻撃は、日常茶飯事になった。
 今こそ、わが国はデフレ脱却と成長戦略により国力を回復するとともに、防衛力と海上保安能力を強化し、日米同盟を一層強固なものとするべきである。さらに領土領海についてのわが国の法的歴史的正当性を国際的に訴え、また歴史問題についても受け身になるばかりでなく、わが国の戦後の素晴らしい平和的生き方や国際貢献を国際社会に発信していくべきである。
 安倍総理は自ら先頭にたった活発な首脳外交を展開しており敬意を表したい。政府や国会はこれを後押しすべきである。「外交は内政の延長」であり、しっかりした国内の支援がないと外交も弱くなる。政府のみならず、NHK国際放送や企業団体などの発信強化も求められる。
 国民も、「平和ボケ」から目を覚ます必要がある。


 [「自警」2014年1月号「日本から見た世界 世界から見た日本 第34話」より転載]

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平林 博

平林 博   日本国際フォーラム副理事長

 

1940年東京生まれ。東京大学卒業後、1963年外務省入省。1991年から2007年までに、在米国日本大使館経済公使、次いで同大使館特命全権公使、外務省経済協力局長、総理官邸の内閣外政審議室長、駐インド特命全権大使、駐フランス特命全権大使、査察大使をそれぞれ歴任。
現在、グローバル・フォーラム有識者世話人、東アジア共同体評議会議長、日印協会理事長等を兼任。