研究会コメンタリー

習近平政権下の「市場化」政策形成の磁場
−「業界団体と行政機関との分離」と「親清(親しくも清廉な)新型政商関係」–

慶應義塾大学法学部教授
小嶋 華津子

はじめに――中国の業界団体

中国民政部副部長の詹成付は、2021年2月23日の記者会見で、習近平政権下で進められている「業界団体と行政機関との分離」に関する2020年までの成果を発表し、胸を張った[1]

業界団体と行政機関との分離は、習近平政権が発足当初に掲げた経済改革構想の柱の一つだ。業界団体と行政機関の分離とはどういうことか。なぜ、それが必要なのか。

中国の業界団体は、日本のそれと同様に、業界の企業や企業家を会員とし、業界の利益を推進する非政府組織である。政府と業界・企業を取り次ぐパイプとして、一面では政策の実現に協力し、他面では業界の利益を代表して意見具申をすることなどが期待されている。また、様々な認証制度や規律違反への罰則を制定するなど、業界の営みを規範化したり、業界に関する調査・分析、企業へのコンサルティングサービスを提供したり、研修・見本市を開催したりすることも、業界団体に求められる機能である。その数は、2014年末時点で約7万にのぼり、国家レベルの業界団体だけを見ても、その会員企業数はほぼ300万、総資産額は約170億元に達していた[2]

しかし、業界団体については、近年多くの問題が指摘されてきた。中小企業の業界団体への加入率の低さに因る代表性の問題に加え、政府との癒着関係や、それを利用した許認可権の独占が、市場経済化を妨げる諸悪の根源として非難の対象となってきたのである。実際に、中国の業界団体の中には、1990年代を通じた市場経済化とそれに伴う機構の大幅な縮減圧力に晒された行政機関が、「身を切る」改革を回避しつつ体裁を取り繕うために、自らの一部を切り離し、看板だけを付け替えたことにより生まれた団体も多い。こうした団体は、計画経済時期の旧弊、かつての権威を笠に着て、様々な許認可手続を独占的に代行することにより生き延びてきたのであり、それが腐敗の温床となることも必然的結果であった。習近平政権にとって、これらの業界団体を行政機関から切り離すことは、規律ある市場を構築する上で、避けられない課題だったのである。

業界団体と行政機関の分離(1)政策の形成

それでは、習近平政権は、業界団体と行政機関の分離を、どのように進めたのか。その政策形成過程を、報道から追える範囲でたどってみたい。

2013年11月、中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議の「改革を全面的に深化するにあたっての重大問題に関する中共中央の決定」において、「業界団体・商会と行政機関との真の切り離しを実現」するべく、「主務官庁制を廃止し、(主務官庁の承認を経ることなく)法に従って直接(民政部門に)登記申請できるように(手続きを簡略化)する」という方針が示された。この方針は、国家発展改革委員会と民政部などによって具体化され、2015年7月、中共中央弁公庁と国務院弁公庁により、「業界団体・商会と行政機関との分離に関する総合方案」が発布された。ここでは2017年の拡大実施に向け、2015年後半より試行的に分離工作を実施するとの方針が打ち出された。

上記の方針を受けて、癒着問題への対処として、財産関係の分離について具体的な方策が策定された。「業界団体・商会と行政機関の分離に際しての国有資産管理に関する財政部の意見(試行)」や「行政事業単位の資産の点検確認管理弁法」など、団体所有の国有資産の整理、団体に対する会計監査の徹底に関する政策の整備が進んだ。また、規則にない会費の徴収、政府の委託業務に紐づけた会員からの費用徴収、会議や研修、見本市、コンテスト、海外視察などの有料サービスへの会員の動員、賛助金や寄付、定期刊行物の購読の強要、といった業界団体の行為も禁じられた。

また、人事面での分離についても、2015年9月、民政部より「国家レベルの業界団体・商会の責任者の任職管理に関する弁法(試行)」が通知された。これにより、国家レベルの業界団体および商会の責任者には行政職に適用される職階を設けないこと、現職の公務員による団体責任者の兼任を認めないことなどが規定された。これを受けて、各地方でも同様の細則が策定された。

このほか業界団体の運営についても、2016年12月、国家発展改革委員会、民政部などが「業界団体・商会総合監管弁法(試行)」を制定し、国務院の同意を得て発布することにより、情報公開や信用評価なども含めた運営規則を明確化した。

上記の多岐にわたる法令や規則の制定と並行して、分離後の業界団体の活動に法的合法性を与えるべく「業界団体商会法」制定の動きも進んだ。2014年3月の第12期全国人民代表大会第2回会議において、陳愛蓮(萬豊奥特控股集団董事局主席)、胡季強(康恩貝集団有限公司董事長)など61名の全人代代表が、「業界団体商会法」の制定について提案した。同法は第12期全人代常務委員会の立法計画に組み入れられ、国家発展改革委員会の合意を経た後に、全人代財政経済委員会が全国工商業連合会とともに起草組を組織した。その起草過程では、国家発展改革委員会の主催により、専門家による意見聴取も行われた。

業界団体と行政機関の分離(2)政策の実施

法令や規則の制定とあわせて、実施体制も整えられた。2015年7月21日、国務院弁公庁の指示により、王勇(国務委員)を組長、徐紹史(国家発展改革委員会主任)、李立国(民政部部長)、孟揚(国務院副秘書長)を副組長として、業界団体・商会と行政機関との分離を実施するための連合工作組が設置された[3]。その事務所は国家発展改革委員会の中に置かれ、連維良(国家発展改革委員会副主任)と顧朝㬢(民政部副部長)が事務室主任を兼任することとなった。

そして、この工作組の統括の下、2015年11月から3期にわたり、計438の国家レベルの業界団体について、分離の試行が断行された。その際に対象とされた団体は、団体の主務官庁が作成した候補団体リストに基づいて決められ、その分離手順も主務官庁が民政部に提出した文書に基づいて定められた[4]

工作組は2018年9月に総括と評価を行い、分離改革を早急に全面的な推進の段階へと推し進めるべきだとの見解を示した。そして翌2019年6月、国家発展改革委員会、民政部、中央組織部、中央機構編制委員会弁公室、外交部、財政部、人力資源社会保障部、国務院国有資産監督管理委員会、国家機関事務管理局の連名で「業界団体・商会と行政機関との分離改革の全面的推進に関する実施意見」が発布され、民政部門の主導の下で、全面的な分離工作が始動した。各省でも同様に、副省級ランク以上の指導者の統括の下に、組織部門・編制部門、発展改革部門、民政部門、財政部門などで構成される分離工作組が結成され、省レベルの業界団体・商会と行政機関との分離が進められた。

業界団体と行政機関の分離(3)党の領導の強化

ここで指摘しなければならないのは、業界団体・商会と行政機関との分離と並行して、業界団体・商会における党建設が進められたことである。

2015年7月、中国共産党中央組織部により、「行政機関との分離後の国家レベルの業界団体・商会の党建設工作管理体制の調整に関する弁法(試行)」が発布された。これは、党中央直属機関工作委員会、中央国家機関工作委員会および国務院国有資産監督管理委員会党委員会に対し、国家レベルの業界団体・商会における党建設の計画およびそのための施策をたて、さらに業界団体の党組織に対する教育、団体の主要役職の人事、清廉な政治建設の実施・監督などを統一的に領導するよう明記するものであった。すなわち、行政機関との人事・財務・機能面での全面的分離と並行して、人事面および規律強化の面で、党の業界団体に対する関与の強化が図られたのである。

では、習近平政権は、党と業界団体との関係のあるべきかたちをどのように想定しているのだろうか。その鍵となるのが、「親清(親しくも清廉な)新型政商関係」という習近平の打ち出したフレーズだ。このフレーズが出されて以降、各地方、各団体がその実現に向け具体策を採ってきた。

例えば、広東省深圳市では2018年3月、中共深圳市紀律検査委員会、中共深圳市非公有制経済組織・社会組織工作委員会、深圳市民政局により、「党の領導を強め、業界が自律的に腐敗予防工作の領域の開拓を推進することに関する実施意見」が発布された[5]。ここで、「親清新型政商関係」を構築するための柱は、党による団体の主要人事の掌握に据えられている。第一に、主要な業界団体の党組織に派遣され、第一書記として業界の党建設の強化および業界の清廉化に向けた工作を担当するのは、各業界を主管する行政部門の職員または退職者から選ばれ、党組織部門の同意を得た者とされた。第二に、業界団体の党組織の建設、整備が完了した後には、その党組織の構成員が団体の指導的ポストを兼任し、党紀律検査委員会書記(あるいは委員)が業界団体の監事長(あるいは監事)を兼任するとの方針が示された。また、党書記による団体管理層の関係会議への出席を推奨し、団体の指導者と党組織の指導者の実質的な一体化を進めるとされた。第三に、団体の党組織に、業界内の規律強化と信用システムの建設を担う「業界廉潔従業委員会」ないしは「業界自律委員会」などを設立し、党組織責任者自らが当該委員会の主要責任者を兼任することも示された。以上のような施策が実施されるならば、業界団体は実質的に党の手足と化すであろう。

おわりに

以上のように、業界団体と行政機関の分離に向けた動きは、業界団体改革を通じて、市場経済化、民営化を徹底させねばならないという認識の下に急ピッチで進められ、各方面に及ぶ政策や法案が整備されてきた。だが、その動きと並行して、党の組織部門を中心に、業界団体の人事に対する党の介入の強化についても、制度化が推進された。

行政機関との癒着を解消し、党組織が主導して優れた資質を持つ党員を業界団体の指導的ポストに付け、彼らを中心に団体の活動を規範化し、規律ある市場を形成するというロジックは、党員が行政業務から完全に切り離され、清廉潔白で、規律ある市場化という習近平の構想を共有している限りにおいては成立する。しかし、こうした条件が満たされないならば、規律ある市場化という構想は骨抜きになる。

本稿で概観したように、業界団体と行政機関の分離に向けた政策形成・執行過程においては、官僚機構vs党、中央vs地方、地方の各行政レベル間に、異なる立場や利益に基づく緊張関係が観察される。中華人民共和国の歴史を振り返っても、中国の政策形成や政策執行の磁場に見られるこれらの緊張関係が、往往にして政策の不徹底の原因となってきた。習近平政権下でこの磁場がいかに作用するのか、引き続き注目したい。


(脚注)

[1]「民政部:行業協会商会與行政機関脱鈎改革工作基本完成」http://www.chinanews.com/gn/2021/02-23/9417328.shtml(最終閲覧日:2021年3月10日)。

[2]「民政部解析行業協会商会與行政機関脱鈎『方案』:脱鈎不脱管監管防真空」中央政府門戸網站http://www.gov.cn/zhengce/2015-07/09/content_2894265.htm (最終閲覧日:2019年1月31日)

[3]工作組の成員の陣容は、各成員単位が調整し、組長が批准するという形式で選ばれ、呉玉良(中央組織部部務委員)、李暁全(中央機構編制委員会弁公室副主任)、王秀峰(中共中央直属機関工作委員会副書記)、姚志平(中共中央国家機関工作委員会副書記)、程国平(外交部副部長)、連維良(国家発展改革委員会副主任)、劉利華(工業・情報化部副部長)、顧朝㬢(民政部副部長)、劉昆(財政部副部長)、孔昌生(人力資源社会保障部副部長)、童道馳(商務部部長助理)、王文斌(国務院国有資産監督管理委員会副主任)、李宝栄(国家機関事務管理局副局長)、楊啓儒(全国工商業連合会副主席)となった。

[4]第1期から第3期の分離対象団体のリストは以下を参照。「民政部公布(第一批)148家全国性行業協会商会脱鈎試点名単」(江蘇省消防協会ウェブサイト:http://www.jfpa.com.cn/hylt/show/4391.aspx )、「行業協会商会與行政機関脱鈎聯合工作組関於公布2016年全国性行業協会商会脱鈎試点名単的通知」(http://www.chinanpo.gov.cn/600101/97391/newstgindex.html)、「2017年全国性行業協会商会脱鈎試点名単(第三批)」(『中国新聞網』http://www.chinanews.com/gn/2017/02-10/8146648.shtml)。

[5]「中共深圳市紀律検査委員会中共深圳市非公有制経済組織和社会組織工作委員会深圳市民政局印発『関於加強党的領導推進行業自律拓展預防腐敗工作領域的実施意見』的通知」(深圳市物業管理行業協会http://www.szpmi.org/portal/article/index/id/827/cid/73.html 2020年1月31日最終閲覧)。