国際政経懇話会

第320回国際政経懇話会メモ
「21世紀日本の大戦略」

国際政経懇話会のようす

令和2年2月19日(水)
公益財団法人 日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会

第320回国際政経懇話会は、兼原信克前国家安全保障局次長/JFIR上席研究員を講師に迎え、「21世紀日本の大戦略」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

1.日 時:令和2年2月19日(水)正午より午後1時45分まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:21世紀日本の大戦略
4.講 師:兼原 信克 前国家安全保障局次長/JFIR上席研究員
5.出席者:33名
6.講話概要

(1)変動する国際秩序と米国一極支配の終焉

 現在、国際秩序の本質的あり方に大きな変化が生じている。米国は第一次、第二次の両大戦をほぼ無傷ですりぬけた国であり、第二次世界大戦後は、超大国として君臨してきた。しかし、ここ数年、中国を含め新興国が急速に台頭することで、米国の相対的な比重が下がり、一極支配が機能しなくなっている。こうした中、米国ではこれから台頭する新興国とどう向き合うべきかとの課題に関心が移りつつある。ただし、米国は、自由主義イデオロギーの強さゆえに、国家体制が全く異なる国々との勢力圏画定と言った権力政治的な発想には拒否感がある。

(2)「影響圏」の復活と米国の「3つの眼」

 米政治学者グレアム・アリソンは、最近の「フォーリンアフェアーズ」誌で、世界が再び「勢力圏」の時代に入ったと語っている。第二次世界大戦終了直後、米国内で「米国の時代」への期待が高まっていた頃、米政治学者ジョージ・ケナンが、ロシアとの関係について、東欧をソ連(ロシア)の勢力圏と認めた上で、粘り強いソ連の封じ込め戦略を提唱したが、現在の米国と中国との関係は、その当時と酷似している。今後、米中関係の緊張が高まっていくなかで、米国がどこまでの範囲を本気で守ろうとするのかを見極める必要がある。米国の戦略的関心は「3つの眼」に例えられる。すなわち「中東」「欧州」「北東アジア」を見る眼である。米国は、優先順位の高い二つの地域までには同時に関心を払うが、三番目には目が向かない。優先順位は、米国を取り巻く情勢などに応じて変わる。今、アジアは、第一の優先順位の地域になりつつある。個人的には、米国は日本列島、朝鮮半島、台湾までをその守備範囲と捉えていると思うが、南シナ海の島嶼国にどのくらいコミットするかはわからない。日本も、尖閣諸島は、まずは自力で守る覚悟がいる。

(3)アジアの国際秩序と日本の役割

 安全保障とは「動体視力」の世界である。動くものしか見えない。日本の実力は大きいが、止まっているので見えない。実は、日本は、通常兵力では、G7諸国内で、米国に次ぐ実力を有する国である。とはいえ、日本単独では、核保有している軍事大国の中国、ロシアにはとうてい太刀打ちできない。日本としては、改めて、米国との関係についてしっかり考えるとともに、他の価値観を同じくする豪州その他の国々との連携を強化し、既存の自由主義的な国際秩序の維持に努めるべきだ。
 ただし米国は本質的には欧州出自の国であり、アジアへの理解や関心には限界がある。そうした中、この地域の安定を図るためにも日本が主導して米国をアジアにコミットさせる必要がある。その際、戦略的利益だけではなく、経済的利益も重要であり、日本からの対米直接投資を一層進め、また、日本を魅力ある市場にしていかなければならない。日本社会の変革も必要である。例えば、激減する人口と労働力への対策としての外国人労働者の導入促進やGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などプラットフォームを活用したビジネスモデルのグローバルな展開等が求められる。

(4)インフラ構築をめぐる日中のアプローチの違い

 経済面で、日本は、近年、TPP、日欧EPAといったメガFTAの分野で成果をあげている。中国は、一帯一路を提唱しているが、中国のインフラ輸出は、日本とは異なるアプローチである。中国モデルは、自国を中心とした星形のインフラ・貿易網を張り巡らし、インフラ輸出や貿易関係を二国間の枠組で管理するというもので、ロシアのパイプライン網の管理方式に近い。他方、日本のインフラ輸出戦略は、縦横に連結性を高め、地域経済統合を進めて市場の力が円滑に動くようするというものである。そのために質の高いインフラを展開するという方針をとっている。これが日本の提唱する「質の高いインフラ」輸出戦略と中国の「一帯一路」戦略の違いである。また、中国の一帯一路戦略には、商業的な次元だけではなく、戦略的な次元がある。例えば、スリランカのハンバントタ港問題(2017年7月より99年間にわたり中国国有企業・招商局港口にリース)やオマーンのドゥクム港をめぐる動きは、一時的に中国に対する警戒感を高めることとになった。しかし、依然として途上国の中には、中国のインフラ投資を歓迎する雰囲気がある。
 今後の20年において、西側諸国が、中国の台頭にいかに向き合うかは、国際社会のあり方にとって決定的な意味を持つ。中国経済に陰りが見え始めたといわれて久しいが、成長率が7%を割ったというだけで、実質的にも年数パーセントで成長している。工業化に伴う成長は、都市化の完遂と少子高齢化がはじまるまで止まらない。中国の成長はまだ続く。

(5)先端技術を巡る米中競争

 米国は、近年、中国がエコノミック・ステイトクラフト(国益目的で経済的手段を活用する政策)を実践するなか、これにどう対抗するかを考え始めている。この関連で問題となるのが「対中機微技術流出」の問題である。近年の戦争では、戦闘様相が激変している。いかに早期に敵を発見できるかというセンサー能力と、情報の統合がカギになっている。この能力を開発するにあたってはサイバー空間とAI(人工知能)の役割が大きい。また、ドローンのような無人兵器の出現や、特定の人間用に遺伝子操作して開発した細菌兵器が出現することも予想される。現在、米国は安全保障環境を激変させうる民生技術の流出に神経をとがらせている。そのため米国では、輸出管理改革法(ECRA)で新たに14種類の新興技術を輸出規制対象と指定した他、自国の研究者であっても中国での職務経歴があれば採用しないとの方針を立てている省庁もある。他方、中国では、米国とは逆に、外国人研究者を引き抜くのに躍起になっている。いずれにせよ、米中両国の覇権争いが激化していくと見込まれる中、日本は真剣にその対策を考えなければならない。

(文責、在事務局)