国際政経懇話会

第304回国際政経懇話会メモ
「北朝鮮問題の陰で着々と進む中国の海洋戦略」

香田 洋二 元自衛艦隊司令官

平成30年6月21日(木)
公益財団法人 日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会

 第304回国際政経懇話会は、香田洋二・元自衛艦隊司令官を講師にお迎えし、「北朝鮮問題の陰で着々と進む中国の海洋戦略」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

1.日 時:平成30年6月21日(木)午前11時45分より午後1時45分まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「北朝鮮問題の陰で着々と進む中国の海洋戦略」
4.講 師:香田 洋二 元自衛艦隊司令官
5.出席者:20名
6.講話概要

(1)南シナ海を軍事拠点化する中国

 ここ最近、国際社会の関心が北朝鮮問題に集まる中、中国は領海・領土の主張(埋め立てによる人工島造成を含む)を続け、南シナ海の軍事拠点化を着実に進めている。西沙諸島(Paracel Islands)では、1974年にこの領有権をめぐってベトナムと交戦し、中国が勝利して以降、ほぼ全域を中国が実効支配している。他方、南沙諸島(Spratly Islands)は、満潮時に水没するものを含めて200余の岩礁・砂州からなり、その多くは環礁の一部を形成している。これらを巡って中国、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが領有権を主張し争っているが、最大のものでも約0.5平方キロしかなく、使用可能な土地をもつものは13島しかない。しかしこの地域への進出に出遅れた中国は、13島のうち支配しているものは一つもない(フィリピン6、ベトナム5、台湾1、マレーシア1)。逆に、一部の岩礁とサンゴ礁しか支配できなかった中国は、数か所の広大な環礁を大規模に埋め立てて人工島を造成し、それらの人工島の所有権及びそれらを基準点とする領海や排他的経済水域を主張している。中国のこうした主張に対して、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所(PCA)は2016年7月12日、中国の主張に法的根拠がないとの判断を下したが、中国はこの裁定を「紙くず」と切り捨てている。その証拠に、前日の裁定に反発した中国政府は、海南航空の民間機を、中国が人工島の造成を推し進める、南シナ海の「スビ礁」(Subi Reef)と「ミスチーフ礁」(Mischief Reef)に着陸させている。中国は、こうした人工島の造成について、あくまで「商業目的」としているが、実際のところ、人工島では、軍の輸送機が離着陸するほか、軍用格納庫や電子妨害装置などの軍事装備や施設が設置されるなど、軍事拠点化が着実に進んでいる。

(2)南シナ海における米中両国の認識のズレ

 中国政府は、当時のオバマ政権と西沙諸島や南沙諸島を軍事基地化しないと約束しておきながら、上述のような軍事化を展開している。それについては、「南シナ海は中国の固有の領土であり、自らの国土に必要な防衛施設を配備することは国際法が認める主権国家の正当な権利だ」とし、防衛施設の配備については「軍事拠点化とは何の関係もない自衛措置である」と主張している。さらに米国が沿岸国との共同演習や「航行の自由作戦」を実施して軍艦を通航させることの方が、南シナ海の軍事化だと論理をすり替えた主張を展開している。中国による上述の軍事化の根拠は、国際法の拡大解釈による、領海や基線の一方的な設定に他ならない。米国は、「航行の自由作戦」を通じて、中国による国際法の過剰な解釈に基づく主張や行動に対して、米国は決して容認しないという強いメッセージを発信している。これは、いわば海軍力を行使した外交活動の一環といえる。

(3)今後、南シナ海で日本が採るべき外交戦略

 今後、中国が既成事実を積み上げ、南シナ海全体を中国の内水にした場合、何が問題なのか。それは、公海では国連海洋法条約(UNCLOS)や慣習国際法のみに基づいて万国の海員が航行できるのに対し、中国の内水では中国の国内法が適用され、中国の意図に基づき、特定の国の航行を制限できる、ということにある。これは、過去3,000年の間に構築されてきた国際海洋秩序の破壊につながる問題といえよう。今後、日本としては、こうした中国の動きを抑えつつ、海洋の自由と秩序を守る役割を担うことが急務である。そのためには、日米同盟の維持・強化に加えて、護衛艦の展開や沿岸国への能力構築支援(キャパシティ・ビルディング)などを継続・強化していくことが重要である。ただし、日本は中国に対して、「熟柿は自然に落ちるまで待て」戦略ではないが、10年、50年、100年スパンの体力勝負を挑む覚悟が必要なのかもしれない。

(文責、在事務局)