国際政経懇話会

第284回国際政経懇話会メモ
「我が国周辺の軍事情勢と我が国の防衛政策」

2016年6月14日(火)
公益財団法人 日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会

第284回国際政経懇話会は、黒江哲郎・防衛事務次官を講師にお迎えし、「我が国周辺の軍事情勢と我が国の防衛政策」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

1.日 時:2016年6月14日(火)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「我が国周辺の軍事情勢と我が国の防衛政策」
4.講 師:黒江哲郎・防衛事務次官
5.出席者:24名
6.黒江哲郎・防衛事務次官の講話概要

(1)北朝鮮の戦力

 我が国の周辺は大規模兵力が高密度で集中している特異な地域である。北朝鮮は韓国と比べると軍の質が比較にならない程低い。そのため、「核で優位に立とう」という戦略を立てている。ノドンおよびスカッドの一部は射程距離1,300キロメートルで、日本を射程範囲内に収めているものが数百発ある。また、現時点で、北朝鮮が水爆実験に成功しているとは思っていない。しかし、P5諸国は原爆実験成功から5~10年間で水爆実験に成功しているので、北朝鮮もいずれ、水爆実験に成功するだろう。成功すれば、米国にとっても、北朝鮮はさらに直接的な脅威に成り得る。

(2)中国による領海侵犯等

 日本の自衛隊は、護衛艦や潜水艦を毎年平均で1隻ずつしか建造しておらず、中国の建造ペースと比べると少ないため、どんどん差が開いていっている。中国は、ただ戦力を増やしているだけでなく、我が国領海に侵入するなど活動も活発化させている。中国の「海監」という法執行機関の船は、月に3回ペースで我が国領海に侵入しており、1回当たり2時間ほど尖閣周辺の領海を航行している。こうした活動により、中国自身も尖閣周辺の領海を実効支配しているという既成事実を作って、現在日本が実効支配しているという事実を崩そうとしている。このように、中国は国際的ルールを守っていない。2013年1月、中国海軍艦艇が海自護衛艦に火器管制レーダーを照射する事案が発生した。これは一触即発の事態である。こういうことが起こる度に「ルールを守るべきだ」と外交ルールを通じて中国へ抗議している。また、近年、中国機に対するスクランブル発進回数も急増している。

(3)自衛隊の能力向上等

 陸自は、戦車および大砲等、輸送に時間の掛かる装備を減らして機動力を向上させるとともに、水陸両用作戦能力を向上させる方向である。また、海自については、護衛艦や潜水艦、航空機などを増やすとともに、空自についても、戦闘機などを増やす方向である。さらに、那覇基地所在の戦闘機を増やし、南西地域の防衛態勢を充実させる。南西諸島は本州と同じくらいの長さがあるが、兵力は約8,000人にとどまっている。今後、陸自の部隊配備を増やすとともに、機動力を向上させて南西諸島への対処態勢を強化しようと考えている。

(4)新・日米ガイドライン、平和安全法制等

 昨年4月に新・日米ガイドラインが出来た。新ガイドラインでも、日米同盟の中心は日本防衛であることを再確認した。また、自衛隊は、ペルシャ湾掃海艇派遣から始まり、国際的災害派遣、イラク復興支援等、積極的平和主義に基づく国際貢献活動に従事している。
 我が国に対する武力攻撃がある場合、これを排除する行動で自衛隊が昨年までの法制でも出来ないことは殆ど無かった。しかし、昨年までの法制では日本が攻撃されない限り米軍は支援できても、豪軍等、米軍以外の軍隊は支援出来ないし、米軍を守ることも出来なかった。平和安全法制が成立したことにより、限定的な集団的自衛権の行使も含めて、有事から平時に至るまで、自衛隊がやらねばならない事はカバー出来るようになった。他方、これ以上の戦闘への参加に関しては、改憲が必要だと考える。

(5)対朝および対中戦略

 どうすれば北朝鮮の暴走を止められるのか。止めるためには、北の体制を「緩やかに変革」させるという方法が現実的だと考える。いずれにせよ、日米韓の関係強化、中国との協調等が必要である。中国に対しては、自衛隊の役割は断固としたバランシングである。自衛隊は、中国軍船を領海に入らせない、入ったら追い出す等、断固とした対応をとる。なお、「日本の働き掛けで中国が民主化、構造改革する訳が無い」というのが、一般的な受け止め方であるが、安い労働力と豊富な市場を日本に提供する中国が、軍事的には悪さをしているという現実が、現在の複雑な状況を生み出している。「中国が経済的に衰退して、軍事予算も減れば良い」という単純な話では無い。中国の崩壊または分裂は、日本の利益にはならない。

(6)米国とどう向き合うか

 同盟国の負担拡大要求は、米国で誰が政権を獲得しても起こり得る。米国は国外にそんなに沢山の基地を保有している訳ではない中で、在日米軍基地を使用出来る。その米軍は、中東では基地確保に苦労している。米国は在日米軍基地のメリットを感じている筈である。こうした点を粘り強く米国と議論していく必要がある。

(7)国際貢献活動における日本らしさ

 PKO活動における日本らしさとは、高度な技術、高い練度を用いた活動である。重機材を使用してモノを造る工兵や通信技術等に関して高い技術力を持つ部隊は、どこの国でも保有している訳ではない。また、PKOセンターが日本にもあり、外国要員教育を行っている。さらに、自衛隊は、キャパシティビルディング(能力構築)を東南アジアで行っている。欧米諸国の軍隊は、それを上から目線で地元住民にやらせるが、自衛隊は、地元住民の目線で地元住民と共に行うとして評価されている。丁寧なアフターケアを含め、そういうことを通じ、日本的価値観を広めることが、日本の国益になると思う。

(文責、在事務局)