国際政経懇話会

第281回国際政経懇話会メモ
「急変する南北朝鮮情勢と日本の立場」

2016年3月23日
公益財団法人 日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会

第281回国際政経懇話会は、小此木政夫・慶應義塾大学名誉教授/JFIR政策委員を講師にお迎えし、「急変する南北朝鮮情勢と日本の立場」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

1.日 時:2016年3月23日(水)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「急変する南北朝鮮情勢と日本の立場」
4.講 師:小此木政夫・慶應義塾大学名誉教授/JFIR政策委員
5.出席者:20名
6.小此木政夫・慶應義塾大学名誉教授/JFIR政策委員の講話概要

(1)南北朝鮮情勢

 隣国である日本は分断国家である南北朝鮮との間に問題を抱えている。幸い南の韓国とは昨年末に関係改善が進んだが、北朝鮮は今年に入って第4回核実験を実施し、人工衛星と称して長距離ミサイルを発射した。中国の大国化・海洋進出や日本の長期的な経済停滞だけでなく、韓国のミドルパワー化、北朝鮮の核武装の展望など、北東アジアでは国際システムの変動が進行し、その大きな影響が日本にも及んでいるとみるべきだろう。単純な事実だが、朝鮮半島では長期にわたって分断国家が対峙している。双方とも冷戦時代に植え付けられた種子=正統性原理を持っており、いまだにそれが強く作用している。韓国では、ウィルソン米大統領の民族自決主義、それに鼓舞された三・一独立運動、そして大韓民国臨時政府の歴史が国家の正統性原理になっている。したがって、自らの軍事政権を含めて、自由選挙の手続きを踏まない政府が正統性を持つことはない。他方、北朝鮮では、スターリン主義と金日成の抗日武装闘争の歴史のうえに、特異な個人独裁体制が構築された。国内的には、それが正統性を持っている。その結果、冷戦終結後も、朝鮮半島では二極的な紛争が継続している。北朝鮮の核兵器・ミサイル開発の背後には、自らの安全や国家の安全保障に対する金正日と金正恩の底知れぬ不安感が存在する。それはスターリンが持っていたものだ。

(2)日韓関係

 日韓関係の悪化は、李明博・野田佳彦政権の最後の1年間に始まり、朴槿恵・安倍晋三政権に引き継がれた。ここ数年程、日韓の外交官が仲良くしているのを見たことがなかった。慰安婦問題をめぐる感情的な歴史論争が指導者レベルで開始され、それが官僚レベルを拘束し、マスメディアそして国民レベルにまで拡散した。また、中国をめぐる日韓の政策ギャップがいま一つの争点になった。韓国では朴政権の発足と共に、中国重視の政策が明確化した。対外政策の優先順位も「米中日露」となり、日本よりも中国を優先するようになった。それが歴史論争と重なって、朴大統領の米国訪問や中国訪問が「告げ口外交」と揶揄された。日本側は中韓「歴史連帯」や韓国の「中国傾斜」を懸念し、韓国側は安倍首相の靖国神社参拝を批判し、戦後70年談話や平和安全法制を警戒した。国際システムの変動と歴史的な節目(日韓条約50年、戦後70年)に直面して、日韓がそれぞれ自国の歴史的な自画像や国際的役割を再検討したという意味で、それは日韓の国家的なアイデンティティの衝突だったのだろう。しかし、安倍首相の訪米外交が成功したこともあり、昨年8-9月を頂点に日韓対立が緩和し、10月の朴大統領の訪米を経て、11月初めには日中韓サミットと日韓首脳会談がソウルで開催された。12月末の日韓外相会談で、ついに慰安婦問題に関する合意が成立した。日韓関係が修復の軌道に乗ったので、北朝鮮による核実験にも日韓は共同で対応できた。ただし、日韓関係全体の修復については、まだスタートラインに立ったばかりだ。皮肉なことに、北朝鮮の核兵器・ミサイル実験、さらに経済制裁についての中国の当初の曖昧な態度が、日韓関係修復や日米韓協調にとって追い風になった。韓国との関係改善が必要なのは、政治、経済、安保などの分野で、そこに共通の戦略的利益があるからだ。安倍首相の施政方針演説にも「戦略的利益を共有する最も重要な隣国」というフレーズが挿入された。相互依存という意味では、「友人は選べるが隣人は選べない」とも言える。

(3)北朝鮮による核・ミサイル開発への対応

 1993-94年の第1次核危機の当時、北朝鮮は金日成政権末期であり、金正日書記が政治的に成熟した状態で実権を握っていた。しかし、金正恩第一書記はまだ30台前半の政治経験の乏しい指導者である。現在最も懸念されるのは、そのような青年指導者が長期にわたる軍事的な緊張のなかで精神的な安定性を維持できるかどうかだ。小さな判断の誤りによって、軍事的なエスカレーションが止まらなくなる。第一次核危機以後の20年余りの間、北朝鮮は体制維持のために核兵器やミサイルを開発し、節目ごとに、そのための実験と「瀬戸際」外交を繰り返してきた。それに対して、米国の歴代政権の対応は一貫せず、それを阻止することに失敗してきた。第一次核危機の後、クリントン政権は関与政策を採用し、北朝鮮との「枠組み」合意を達成した。それによって、北朝鮮原子炉の活動は約8年間停止した。しかし、「9.11テロ」事件の後、ブッシュ(ジュニア)政権は「戦略的恐喝」によって北朝鮮に核開発を放棄させようとして、かえって核施設を再稼動させてしまった。それを止めるために、中国を巻き込んで、2003年から六者会合を開始し、2005年9月に6者共同声明に漕ぎ着けた。しかし、その直後に北朝鮮のマネー・ロンダリングが発覚し、金融制裁を発動した。それに対抗して、北朝鮮が2006年10月に第1回核実験を実施すると、今度は宥和政策に転じて、「テロ支援国家」の指定を解除するところまで進んだ。さらに、オバマ政権の「戦略的忍耐」の政策は、結果的に、北朝鮮の核・ミサイル開発を放置した。政権発足以来、北朝鮮は3回も核実験を繰り返した。ただし、相当程度まで戦略ミサイルの開発を進展させたが、それによって体制維持が保障されたわけではない。そのために、再び核実験と「瀬戸際」政策を実施している。今回は、5月初めに労働党大会を設定して「背水の陣」を敷いており、第二次核危機ともいえる危険な状態にある。

(文責、在事務局)