国際政経懇話会

第279回国際政経懇話会メモ
「世界に広がる日本の食文化」

2015年11月10日
公益財団法人 日本国際フォーラム

 第279回国際政経懇話会は、茂木友三郎キッコーマン取締役名誉会長を講師にお迎えし、「世界に広がる日本の食文化」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

1.日 時:2015年11月10日(火)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「世界に広がる日本の食文化」
4.講 師:茂木友三郎・キッコーマン取締役名誉会長 取締役会議長
5.出席者:20名
6.茂木友三郎キッコーマン取締役名誉会長の講話概要

(1)世界に広がる日本の食文化

 現在、「日本食」が世界中で非常に注目されている。海外でも日本食セミナーが多数開催されている程である。そんな中、このほどイタリア・ミラノで「食の万博」が開催され、日本もパビリオンを出展し、経済産業省および農林水産省が共同で後援した。日本館には1日1万人、開催期間である半年間で228万人が来訪した。ジャパン・デイには安倍首相は安保法制対応で多忙のため来訪できなかったが、林農林水産大臣が日本国を代表して出席された。この万博をキッカケに日本の食文化への外国人の関心が更に高まるのではないか。

(2)ユネスコの無形文化遺産への日本食の登録

 ユネスコでは2010年に初の「食」の無形文化遺産登録があった。登録されたのはフランスの美食術、メキシコの伝統料理および地中海料理(スペイン、ギリシャ、イタリア、モロッコ)である。2013年、ユネスコの無形文化遺産に韓国の「キムチ作りの文化」等と共に「和食;日本人の伝統的な食文化」が登録された。現在、外国人観光客は買い物のみでなく、食事も目的として来日している。その外国人観光客の間で一番人気のある食事は寿司である。和食は「自然の尊重」という日本人の精神を体現している。 こうした食に関する社会的習慣とともに「和食」がユネスコに評価された。しかし、ユネスコの無形文化遺産に登録されると、その伝統を守る義務が発生する。日本では「一般社団法人和食文化国民会議」が設立され、その保護・継承活動を展開している。

(3)世界での日本食の人気およびそれに伴う農林水産物輸出増

 日本食は美味しくて健康に良いため、世界中で流行するようになり、日本食レストランが世界中で増え、2015年現在、全世界で約89,000軒が営業している。2006年の約24,000軒、2013年の約55,000軒と比べても、相当急激な増加である。その結果、日本から海外への農林水産物の輸出額も増えた。日本は、2020年には農林水産物の輸出総額を1兆円に増やすことを目標としている。この、農林水産物・食品の輸出額はリーマンショックおよび東日本大震災後の風評被害が原因で一時的に落ち込んだが、一昨年から再び増え始めた。今年は輸出総額7,000億円に到達する見込みである。今のところ輸出はアジア中心だが、将来的には欧米への輸出を伸ばす必要がある。安倍首相自らも、諸外国へ出かけた際に日本食のセールスプロモーションをしておられる。

(4)キッコーマンによる海外、アメリカ市場への進出

 弊社キッコーマンは50年以上前にアメリカでの市場開拓を始めた。昭和20年代の日本は、物資欠乏の時代であったため、醤油は生産すれば必ず売れた。しかし、昭和30年代になると「もはや戦後は終わった」の言葉通り、その時代が終わり、醤油の需要も伸び悩んだ。醤油は生活必需品であり、景気がよいからといって使う量が伸びるわけではなく、人口の伸び程度しか増えなくなった。そこでとった戦略が「多角化戦略」と「国際化戦略」であった。これに従いキッコーマンは醤油を国内市場だけでなく、海外、特に巨大なアメリカ市場で売るという新方針を打ち立てた。アメリカ人を対象に商売を拡げようとしたのである。戦後、アメリカ人が大勢来日した。軍人はベースキャンプ(米軍基地)に住んでいた為、一般の日本人との接触は限られていたが、アメリカ人官僚、ビジネスマン(文民)などはベースキャンプではなく、日本社会の中で、一般の日本人と接触しながら生活していた。このため、彼らは、キッコーマンがアメリカ市場へ進出する前から、食堂等で日本人が毎食使う醤油に興味を持っていた。この醤油は肉料理との相性がよく、万能調味料である。キッコーマンは、アメリカ進出後、アメリカ国内のスーパーなどで醤油の試食販売を行った。店頭デモンストレーションでは肉を醤油に漬して試食していただいたが、試食後にその場で醤油を買って下さるアメリカ人のお客様は大勢いらっしゃった。そこでの売れ行きから、「醤油は世界で売れるのでは」という手応えを感じた。そして、キッコーマンは、アメリカ合衆国ウィスコンシン州に現地工場を建設することにした。しかし、工場建設に際し、地元農民による建設反対運動が起った。公害が出ることへの心配と農地を手放したくないという農民の素朴な感情にもとづくものであった。キッコーマンは、公害を出さないことを約束し、醤油の製造は大豆小麦を使う産業で農家とも共存共栄できることを訴え、理解を得た。企業が永続的に存続するためには、よき企業市民であるべきで、経営の現地化が必要と考えている。 キッコーマンは醤油を海外で広めるにあたり、日本食だけでなく現地の料理に使ってもらうことで、日本と海外の食文化の融合を試みている。アメリカでのビジネスモデルを世界中で展開しており、現在は売り上げ、営業利益共に海外の比率が高い。

(5)現在の日本人の食生活

 50年間で日本国内でのコメの消費量が半減した。日本人の食生活において炭水化物が減って脂質が増え、成人病(生活習慣病)患者が増えた。更に食糧自給率も70%から39%にまで下落した。日本人が、昔の一汁三菜の食生活へ戻す必要はないが、日本型の食生活の良さは再認識すべきである。

(文責、在事務局)