国際政経懇話会

第274回国際政経懇話会メモ
「到来した日米同盟の新時代」

 第274回国際政経懇話会は、神谷万丈JFIR理事・防衛大学校教授を講師にお迎えし、神谷理事が主査として作成にかかわった同名の日米共同研究プロジェクトの成果を踏まえて、「到来した日米同盟の新時代」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2015年6月19日(金)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「到来した日米同盟の新時代」
4.講 師:神谷 万丈 JFIR理事・防衛大学校教授
5.出席者:16名
6.講師講話概要

 神谷万丈JFIR理事・防衛大学校教授の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

(1)JFIRと私

 日本国際フォーラムと私は20年来の浅からぬお付き合いがある。そもそもは伊藤理事長とのご縁から始まったわけだが、それは佐藤誠三郎東大教授(当時)が1983年に東大教養学部に日本の主要大学ではおそらく初めて「安全保障論」の講座を開設され、伊藤先生が客員教授としてその講座で教鞭を取られ、国家戦略論を講じられていた時に遡る。当時まだ学部生だった私は、この講座を受講し、国家戦略論研究の先駆者であられる伊藤先生の謦咳に接し感動した記憶がある。その後、私は研究者の道に進んだわけだが、国際政治学者として独り立ちできるようになった頃から、日本国際フォーラムの主催する各種研究プロジェクトに声掛けをしてもらうようになった。近年、日本国際フォーラムが提唱する「積極的平和主義」は、今や日本政府の外交指針ともなっているが、この考えに基づき、日本が今後、具体的に何をするのかを明確にすることは、これからの課題である。この課題は、とりもなおさず日本が米国とともに今後、日米同盟をいかに強化・発展させていくのかという問題と多分に重なるといえる。私が主査としてその作成にかかわり、3月31日に日本政府に提出した日米共同研究プロジェクト「新段階の日米同盟のグランドデザイン」は、そのような課題に答えを出そうとする試みの一つである。

(2)新ガイドライン時代の日米同盟が目指すべきもの

 21世紀の世界、特に東アジアが直面しているのは、一方で、ハード・パワーの使い勝手が悪くなり、その有効性が低下しているにもかかわらず、他方で依然、ハード・パワーを用いて対処せざるを得ないような国際問題が再び顕在化しつつある、という矛盾をはらんだ状況である。近年の中国やロシアの台頭によって、そのことにようやく目を開かされたという日本人も増えてきたが、国際社会では軍事力などのハード・パワーを用いなければ対処・解決できない脅威が再び増えてきている。そのような中、日米両国が手を携えて目指すべき目標は、第一に、中国等の新興国の台頭を前に、日米同盟の運用上の有効性と活力を維持し、自由で開かれたルール基盤の国際秩序を守るための装置として活用することであり、第二に、この秩序を守りつつ、北朝鮮問題や国際テロリズムの問題などをはじめとするアジア太平洋地域と世界の安全保障問題への対処・解決に貢献し、地域と世界の平和と安定に寄与することである。その前提として必要なのは、まず、日米同盟のハード・パワーをアジア太平洋地域と世界における現実の脅威と潜在的な脅威に対応するのに十分強力な水準に保つことであるが、さらに、日米同盟が日米以外の国々からも存在価値を認められ、魅力的なものとする(ソフト・パワーを高める)ために、この同盟は、日米以外の国や非国家主体にとっても利益となる国際公共財を提供する同盟でなければならない。

(3)日米同盟強化において、日本に求められるもの

 一般的に、強い同盟は強い同盟国を必要とする。わが国の世論は、その八割以上が日米同盟の強化については賛同しているが、他方、「日本自身が強い同盟国になるべき」という話になると、とたんに及び腰になる傾向にある。日米同盟についても、日米両国がともに強い活力ある国であり続け、そしてその強さを同盟協力のために用いていく意思と実行力を持ち続けることが必要である。とくに日本は、今後、さらなる少子高齢化に直面するが、その中で経済回復の流れを持続させ、大国レベルの国力を保つという課題が待ち受けている。また、いかなる優れた安全保障・防衛政策も、能力の裏付けがなければ機能しないゆえ、日本にはある程度の防衛支出の増加が求められるだろう。いずれにせよ、今後の日本には、(自民党政権に限らず)安定した政権が強いリーダーシップを発揮し、必要な政策を着実に実行できる状況が維持されなければ、日本の国力の回復はおぼつかない。野党にも、外交・安全保障政策といった日本の将来を左右する問題については「批判のための批判」は控えることが求められる。裏返せば、大局的な国の政策については政権交代があっても一貫性が保たれることが必要である。また国民としても、日本の将来のあるべき姿を「国際主義的」な観点から考えることができるようになるかどうかが問われるだろう。

(4)日米同盟強化において、米国に求められるもの

 強く、実効性のある日米同盟を維持するために、努力を求められるのは日本だけではない。強い日米同盟は、強い米国なくしては実現され得ない以上、米国経済の回復が持続し、米国が日米同盟を有効に機能させ続けるために必要な資源を投資し続けることが大前提となる。さらに米国は、内向きにならず、世界の平和と安定を維持するためには、米国のリーダーシップが不可欠であるということを自ら自覚し直すことが求められているが、そのために近年顕著な国内政治の分極化による機能不全から脱却し、外交・安全保障政策についてある程度の超党派精神を回復させることが重要である。日米同盟の一つの重要な機能として、米国による日本に対する拡大抑止の供給が挙げられるが、日本が米国のアジア政策のあり方に不安を抱けば、この機能は十分に働かなくなる恐れがある。したがって、米国は、この点を十分に認識しつつ、とくに対中政策について、関与とヘッジのバランスを中国の対外的な態度と行動に応じて調整するという姿勢を一貫させるとともに、「新型大国間関係」を中国の定義する形では受け入れる意思のないことを明確に表明すべきである。そのためにも、米国は、中東や東欧における「目に見える」脅威に対処する一方で、「リバランス」を実践するための財政的・人的資源をアジア・太平洋地域に一貫して十分にふり向けていくことが必要であろう。

(5)日米同盟強化において、日米双方に求められるもの

 国際的なパワー分布の変動が進む中、日米同盟が単独で世界を主導することはますます困難となりつつある。したがって、日米両国は他の意思を同じくする主要諸国との「共有されたリーダーシップ」を構築し、有効に機能させていくことが必要となるだろう。そのためには、「日米同盟プラスα」に拡大された安全保障協力のネットワークの構築を図るほか、NATOなど、アジア太平洋地域の外のパートナーとの安全保障協力も推進すべきである。他方、日米両国間では、アジア・太平洋地域の安全保障の礎石として、ハード・パワー整備を進める必要がある。そのためには、自衛隊と在日米軍との連携強化や相互運用性の向上といった軍事面での協力の他、日米両国間において良好な経済関係を維持しつつ、域内諸国との経済的連携を強化していくなど経済面での協力を進める必要がある。その出発点として、TPPのできるだけ早期の妥結が不可欠となる。さらに日米同盟を有効に機能させるためには、日米両国がその対中政策において歩調が乱れないようにしていく必要がある。尖閣問題に関しては、日米両国は連絡と協議を密に保ちつつ、「日本は、尖閣諸島に関して中国を挑発しないが、もし中国が日本を挑発した場合には、米国は日本の同盟国として日本を助ける」という点を中国や国際社会に対して言明し続けるべきである。

(文責、在事務局)