国際政経懇話会

第273回国際政経懇話会メモ
「北東アジア情勢と日本の外交」

 第273回国際政経懇話会は、伊原純一外務省アジア大洋州局長を講師にお迎えし、「北東アジア情勢と日本の外交」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2015年4月28日(火)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「北東アジア情勢と日本の外交」
4.講 師:伊原 純一 外務省アジア大洋州局長
5.出席者:33名
6.講師講話概要

 伊原純一外務省アジア大洋州局長の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

(1)日中関係の動向

 日中関係は、2012年9月の日本政府による尖閣諸島購入(国有化)を発端として、以降2013年12月の安倍首相の靖国参拝などが重なり、首脳会談が実現できない状態が続いていた。その中で事務方は事態の打開に努めてきたが、そのためには両国間で尖閣と歴史認識問題の2点での何らかの折り合いが必要であった。2014年11月7日に日中が発表した「日中関係の改善に向けた話合いについて」では、この2点について両国がその時点での共通の認識を示すところまでこぎつけた。とくに尖閣について、同文書では「尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有している」との文言が入れられたが、これは「尖閣諸島そのものの帰属」ではなく、「当該海域における緊張状態」をめぐる見解の相違に言及したものである。この4項目により可能となった昨年11月のAPECのフリンジでの日中首脳会談以降、日中の関係は徐々に改善をみた。今月のジャカルタでの「アジア・アフリカ会議60周年記念首脳会議」開催の機会をとらえた日中首脳会談開催については、まず中国側から水面下で打診してくるなど両国関係修復に積極的な意向を示してきている。この中国側の態度の軟化について、日本側は歓迎しつつもその真意を図りかねているが、おそらく背景には、習近平主席に、「アジア・インフラ投資銀行(AIIB)」の年内設立や本年9月に予定されている「抗日戦争勝利70周年記念式典」などを成功裏に実現するべく、日本の理解と協力を得たいとの意向があると考えられる。さらに踏み込めば、習近平主席は現在、国内に山積する問題打開のために、また、「中国の夢」そして「大国外交」の展開を可能にするためにも、自身の権力掌握を更に進めたいと考えているのかもしれない。中国はまた、ことあるごとに中国の発展は世界にとり「大きな好機」であることを日本に認めてほしいと言ってくる。しかしながら中国が現在、東シナ海および南シナ海で展開している政策は、およそ国際社会に緊張をもたらしていると言わざるを得ない。このうち東シナ海については、米国は、尖閣が日米安保条約第五条適用の対象となることを「日米安全保障協議委員会(2+2)」の共同声明等で言明しており、そのことが中国への抑止力となっている。もっとも中国は、尖閣諸島周辺海域に頻繁な(月に3回程度、1回につき2時間程度の)領海侵犯を繰り返しており、あたかも尖閣諸島を日中で共同管理しているかのようにみせる振る舞いを見せている。このような中国の行動に対して、米国に日米安保条約を根拠にした行動を求めることはできない。従って、領海侵犯を止めさせるためには日中両国間での協議が必要である。南シナ海については、東シナ海での日米安保条約のような抑止力が存在しないため、事態はより深刻である。現在、日本はフィリピンおよびベトナムに巡視船を供与し、米国もこれら諸国を支援して中国を抑止しようと努めているが、更に重要なことは、日米およびASEANが、中国の現在の海洋政策は自国の「reputational cost」ないしは「外交コスト」を引き上げていることを中国にわからしめることである。現状のままでは、早晩、南沙諸島周辺海域は中国の事実上の影響下に入ってしまう。この海域の安全なシーレーン確保は周辺国のみならず、国際社会の利害に直結する以上、国際社会が一丸となって、中国に正しいメッセージを送りつつ、早急にしかるべき手を打つ必要がある。

(2)日韓関係の動向

 上述のとおり日中間には明確な利害の対立がみられ、それゆえ戦略的互恵関係の構築の重要性が謳われるゆえんであるが、他方、日韓間にはそのような基本的な利害の対立状況は存在しないと考えている。それなのに、なぜ現状のように、日韓関係がぎくしゃくしなければならないのか、実際のところよくわからない。現在、日韓関係を困難なものにしている慰安婦問題は、日韓両国はもとより共通の同盟国である米国にとっても消耗な問題となっており、日韓関係の出血状態ともいえる状態が生じている。従来、韓国は「結び目(問題の根源)を作った方がその結び目をほどくべき」との考えから日本側の努力による問題の解決を求めてきたが、現在、両国の実務家レベルでは、日韓双方がそれぞれやるべきことを定めた「パッケージ」によってこの問題の解決を図るべき、との方針では一致している。しかし、慰安婦問題等の歴史問題をめぐる日韓摩擦のこれまでの経緯は、「一旦は問題が収束しても、また折に触れre-openされる」とのパターンが繰り返されてきた。例えば、1998年10月8日に発表された当時の小渕首相と金大中大統領による「日韓共同宣言―21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップー」は、日韓両国が、歴史認識問題などを乗り越え未来志向の二国関係を構築すべきとの方向性を示した重要な宣言であったが、にもかかわらず、また現在、この問題がre-openされている。このパターンを終わらせるのは、実務家レベルではなく「政治」の役目である。この点、朴槿恵大統領の明確なコミットが不可欠である。今年の『外交青書』では韓国について「(日本と)価値を共有する国」との表現は削除されている。これは最近の韓国で、仏像盗難事件や産経新聞前ソウル支局長裁判といった事例が続いて、「韓国は果たして本当に我々と価値を共有しているのか」疑わざるを得ないという国民の受け止めを反映したもの。この記述の削除に「ショックと悲しみ」を覚える韓国の心ある人々も少なくないと聞く。本来、韓国は、日本とともにアジアでは数少ない民主主義と市場主義に則る国であったのであり、日本と韓国は一日も早く関係改善の上、東アジアの国際情勢に共同で対処することが求められている。

(3)日朝関係の動向

 2002年の「平壌宣言」以降、日朝関係の基本構造は変わっていない。日本としては、「拉致」「核」「ミサイル」「不幸な過去の清算」の4つの問題を解決した上で北朝鮮と国交正常化し、その上で「不幸な過去の清算」と表裏をなす経済協力を供与する、というのが対北朝鮮外交の基本的道筋である。このうち「拉致」と「不幸な過去の清算」については基本的に日朝二国間で解決を図る必要があるが、「核」と「ミサイル」については日米中露韓と北朝鮮による「六者会合」などの国際的取り組みで解決を図る必要がある。この六者会合はここ数年開催されてはいないが、この枠組みが依然重要であることには変わりはない。とくに2005年9月19日の「第四回六者会合に関する共同声明」において、六者会合の目標が「朝鮮半島の検証可能な非核化」であることが再確認され、現在に至るも、北朝鮮の核保有国化に中国とロシアが明確に反対していることは極めて重要である。六者のうち北朝鮮を除く五者が連携をとって、北朝鮮が現在進めている、核保有と経済開発を共に進める「並進政治」が現実的でないことを北朝鮮に知らしめる必要がある。いずれにせよ、北朝鮮をめぐる諸問題解決にあたっては、日朝二国間での交渉と「六者会合」での交渉との2トラックで、同時並行で進めてゆくことが望ましい。日朝二国間の交渉については、2014年5月の「日朝ストックホルム合意」において、北朝鮮が、拉致被害者、残留日本人、日本人墓地・遺骨等のいわゆる「人道問題」に関する調査を包括的・全面的に実施することを約束したが、その際、日本がその調査結果を検証することができる点も盛り込まれたことが重要である。もっとも、現段階では、調査結果に関する北朝鮮側からの通報はない。この理由としては、推測にすぎないが、第一に、北朝鮮では金正恩時代になって、粛清等を通じて体制基盤は整ったものの、様々なグループが足の引っ張り合いをしており、政策全体の調整・統合がうまくいっていないことが伺えること、第二に、現在北朝鮮が、調査結果の通報によって日本がいかなる反応をするか、また北朝鮮がそこから何を得られるかをめぐり判断できないでいること、などが考えられる。いずれにせよ今年の7月で、調査期間とされた1年の期限を迎える、一刻も早い調査結果の通報を求めつつ、その動向を見守りたい。

(文責、在事務局)