国際政経懇話会

第261回国際政経懇話会メモ
「安倍政権はどこまでやれるか-歴史との往還の中で-」(メモ)

 第261回国際政経懇話会は、御厨貴東京大学名誉教授を講師にお迎えし、「安倍政権はどこまでやれるか-歴史との往還の中で-」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2013年12月10日(火)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「安倍政権はどこまでやれるか-歴史との往還の中で-」
4.講 師:御厨 貴 東京大学名誉教授
5.出席者:27名

6.講師講話概要

 御厨貴東京大学名誉教授の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

なぜ安倍首相は自民党総裁に返り咲くことができたのか

 安倍首相は昨秋自民党総裁選で返り咲くまで、政治的復活の可能性は極めて低かった。なぜならば、55年体制成立後の自民党政権下では、一度「総理総裁」として使った顔は二度と使わなかったからである。というのも自民党は強固な派閥に支えられていた全盛期には、1つの内閣が2年~2年半で交替してもらわないと困る状況にあった。このような政治を可能ならしめたのは、当時は日本には世界に冠たる官僚制度がしっかり存在し、高度成長期で経済も右肩上がりというように、一方で官僚が支え、他方で企業が支える状況であったためである。しかし、90年代に入り、竹下元総理以降、総理大臣候補者はアドホックとなって予測できない状態となり、総理への準備ができていない政治家が首相となるようになった。その後、小泉元首相以降は総理候補をメディアがつくるようになった。また、民主党についていえば、本来は小沢氏が本命であったが、検察問題でひっかかり、鳩山、菅、野田とアドホックに続いている。自民党も有力候補を抱えていなかったため、最終的に安倍首相が勝利したのである。

安倍政権の勝利要因

 安倍政権が選挙に勝利したのは、政権の第一課題に経済、金融を掲げたことである。歴代首相の中で、経済を第一課題に挙げたのは、池田元首相と田中元首相であり、前者は高度経済成長期という時期も相俟って成功したが、後者の土地を軸とした日本列島改造論は失敗した。それ以降の政権は、経済を決して第一課題とすることはなかったが、安倍首相はそれをひっくり返したのである。また、安倍首相が本当にやりたかったのは、政治的、国家的価値の問題、具体的には歴史認識の問題や、アジア、アメリカとの外交安全保障をしっかりやることであったが、これを第一の課題として挙げると選挙で勝てないため、経済の課題を第一に持ってきた。新しい政権は100日間、3ヶ月が勝負であるが、安倍政権はこの期間に明確な「敵」として残りの任期が3ヶ月の白川日銀総裁を据えた上で「アベノミクス」を打ち出した。景気を良くする課題に反対する人はおらず、あっけにとられている間に組閣し、内閣の体制を整え、また、第一次政権時には失敗した官邸配置を盤石にした。

成功した安倍政権の人事配置

 まず、岸田氏と小野寺氏といった若手をそれぞれ外務大臣、防衛大臣に据えた。両氏は通常内閣であれば要職にはつくことはまずないが、外交と安全保障を官邸にて総理直轄で実施したいとの意図から、安倍首相は機動的に動ける若手を配置した。一方、外務大臣候補であった高村氏は、自民党副総裁に据えた。副総裁は通常は内政や野党との調整が主業務であるが、それを見事に入れ替え、外交の副総裁を誕生させた。
 次に、官邸の人事配置に当たり、小泉政権の後半から自民党政権の4~5年間内閣に所属していた有力な人物を呼び戻した。また、総理大臣1年、1年に1度「はじめまして」外交をやるような総理をやめよう、との暗黙の合意が、官邸内に成立した。さらに安倍は、参議院選挙後にも内閣改造をしないと公表し、現政権で1年半やる方針を示した。1年半という期間は、うまくいけば政治家が成長する機会である。だから人材育成にも資することになる。

歴史との往還

 安倍首相の祖父である岸元首相が一番力を持ったのは組閣から1年半である。岸内閣は衆議院総選挙で大勝したものの、岸元首相は警察官職務執行法(警職法)の改正をしようとし、与野党の反対に遭い、廃案に追い込まれた。しかしながらその後日米安全保障条約の改定に全力を注ぎ、政権を1年半つないだが、憲法改正は実現出来なかった。岸政権は、総選挙時に警職法改正に言及しなかった点で、同じく直近の参議院選挙で特定秘密保護法案に言及しなかった安倍政権と共通している。
 また、3年3ヶ月、民主党が「決められない政治」を続けていたが、今やかつては決めていた自民党が、何をどう決めたらいいかわからなくなっているようだ。特定秘密保護法案は、当初は「日本版NSCを作る。日本の重要な外交、安保情報がダダ漏れでは困るから何とかしなければならない」と有識者に説いて回っていたものである。野党やマスコミも、同法案の「網掛け」の広さに最初は気づいていなかった。法案審議をつうじ、マスコミの不勉強、総理の答弁に見られた油断等が明らかになり、今になって「網掛け」を狭くするための法律をつくろうとしている。また、国会に上呈する法案は優先順位を決めて通していくものだが、特定秘密保護法案に注力し過ぎて多くの法案が充分な審議をなしえなかった。経済戦略特区構想も後回しにされて、法案は通ったものの、何も決まっていない。民主党は、与党としても野党としても何をして良いか分からない。また外交について今国会でも熱心に議論したとはいえない。

安倍政権は支持率回復なるか

 安倍政権は上記の対応で支持率が10%下がったが、長期政権を狙う場合、支持率は下がるものであるから、統治をする人の知恵で、どう上げるか、次に何を出すかである。安倍首相は次から次と玉を投げており、次にくるのは集団的自衛権の問題ではないか。この問題は野党でも賛成者がいるし、与党内でも上手くやれば分裂させずに通せる。ただし、日本の右翼には(イ)天皇、(ロ)歴史認識、(ハ)自衛権、の3つがあり、(イ)、(ロ)はやらないが(ハ)は賛成、というのが多くの向きだが、安倍首相は3つセットだと考えている。減少した支持率10%をどう取り戻すのか。アベノミクスの効果が薄れている現在、消費税増税の4月以降も、どうやって好景気のムードを維持し続けるかも課題である。しかし、党内に分裂勢力もないし、次の総理候補もいないため、新聞が報道するほどの危機的状況ではない。安倍政権がこれからどう課題を乗り越え、知恵を出すのかが楽しみである。


(文責、在事務局)