チェチェン問題公開ディベート
「テロと暗殺のはざまで 世代の壁は超えられるのか?コーカサスに平和を実現するために」(メモ)

2010年6月12日
日本国際フォーラム・チェチェン問題研究会
事務局

 日本国際フォーラム・チェチェン問題研究会と「チェチェンの子供たち日本委員会」の共催、「チェチェン連絡会議」の後援で、42名の出席者を得て、チェチェン問題公開ディベート「テロと暗殺のはざまで 世代の壁は超えられるのか?コーカサスに平和を実現するために」が2010年6月12日(土)午後6時半より午後9時まで文京シビックセンターにて開催された。その概要は下記のとおりであった。

【概要】

 会合は、冒頭、司会者の岡田一男チェチェンの子どもたち日本委員会共同代表より、本会合の共催の日本国際フォーラム・チェチェン問題研究会への謝辞が述べられ、その後伊藤憲一日本国際フォーラム・チェチェン問題研究会代表より下記(1)のとおり挨拶があった。次に、国際関係スペシャリスト菊池由希子氏より下記(2)のとおり、岡田一男氏より下記(3)のとおり報告を受け、その後出席者の間で意見交換が行われた。

伊藤憲一日本国際フォーラム・チェチェン問題研究会代表からの挨拶

 当フォーラムは、1996年当時独立国として存在していたチェチェン共和国より、「ヌハーエフ第一副首相を団長とする11名の使節団の日本側引受け団体になってほしい」との要請を受け、ロシア政府から日本政府へ査証発給阻止の圧力がかけられる中、外務省に働きかけて使節団の来日を実現させた。1999年のロシア高層アパート連続爆破事件の際、ロシアはチェチェンの武装勢力を犯人として仕立て上げ、ロシア軍をチェチェンに侵攻させて、現在にいたるまでその支配を続けている。今日、自由と民主主義といった普遍的価値は全世界に広まっているにも関わらず、ロシアはかつての植民地主義そのままの行為をチェチェンで行っている。本会合は、そうしたチェチェンの状況を知っていただく時として、役に立てて欲しい。

菊池由希子氏の報告

 チェチェンはインフラ面では、首都グローズヌイを中心にしてかなり復興している。しかし、戦乱の中で教育も職業訓練もほとんど受けられなかった若者の世代は、国内では過激派として危険視され、欧州に渡っても難民として認定されず、難民申請した国にいられなくなり行く場を失っている。近年、チェチェンで人権活動家や人道支援活動家の女性たちが殺害される事件が数件起こったが、チェチェンでは「女性がスカーフを脱いで願い出れば、誰もが聞き届けなければならない」という慣習があるほど女性が尊重されていたにも関わらず、そうしたモラルの低下がみられる。1999年から続いていたチェチェンに対するロシアの「対テロ作戦」は、2009年4月に解除されたが、その前後の1年間で比較すると、チェチェンの自爆攻撃数は増大している。武装勢力の武器弾薬の不足、自爆テロを正当化する過激思想の拡大がその理由だと一般にはみられているが、自爆攻撃によって確実に標的を殺害する手法に戦術を切り替えたということではないかと考えられる。ただし2010年3月に起きたモスクワ地下鉄自爆テロは、市民を標的にした無差別テロであり、これまでのテロとは様相が異なる。ロシア側の公式発表では、このテロの犯人はダゲスタン人の若い女性2名となっているが、仮にそのとおりであれば、テロを起こさざるをえないほどダゲスタンでもロシアによる人権侵害が行われているということである。テロ実行犯の女性は、今年3月に殺害された北コーカサスを中心としたテロ組織「イマラト・カフカス」イデオローグのアレクサンドル・チホミーロフ(通称:サイード・ブリャツキ)の思想に洗脳されていたと報道されているが、行く場がなく、自己実現の場が閉ざされたチェチェンの若者にとって、今後もこうした思想は魅力的なものとして映るかもしれない。国際社会が介入できるにもかかわらず見捨て、親世代であるソ連世代の多くが若者を失われた世代としてタブー視し政治的な手段で和解を試みようとしないため、若者たちは武器を持って戦いつづけようとしている

岡田一男氏の報告

 第一次チェチェン戦争では、チェチェン人だけでなく、ウクライナ人、朝鮮系、アラブ系などかなりの外国人義勇兵が参加した。チェチェンは、伝統的にイスラム教スーフィズムの信奉者による国であったが、第一次チェチェン戦争以降、ロシアFSBはチェチェンの指導者を取り込んでゆさぶるために、イスラム教ワッハーブ主義をチェチェンに持ち込み、チェチェン内のワッハーブ派に資金援助をした。今やチェチェンでは、ワッハーブ主義はかなり浸透している。現在のチェチェンの武装勢力をみると、チェチェンの伝統的イスラム主義を信奉していた指導者たちが死亡し、ロシアによってもち込まれた過激なイスラムを信奉する若い指導者たちが、チェチェン独立を目指す武装勢力を率いてテロを起こしているという異常な事態がみられる。過激な思想はチェチェン以外の民族の間にも広がっており、他の地域でもテロが起こっている。例えば2010年のモスクワ地下鉄テロ実行犯たちの思想に影響を与えたアレクサンドル・チホミーロフは、チェチェン人ではない。こうした過激な思想ではなく、チェチェンには本来、菊池氏が指摘したような現代の普遍的価値にも共有できるような伝統的な慣習、思想があり、こうした理念を再構築してコーカサスの団結をはかることが必要である。

この後、出席者との質疑応答が行われたが、大藏氏よりの(イ)の質問に対し、伊藤理事長より(ロ)の応答があった。

 (イ) 現在のチェチェンには、ロシアに対して組織的な抵抗ができる能力がない。チェチェンを救い出すのは絶望的ではないか。

 (ロ) ロシアの内政と外交政策は、力で相手を押し切るという「弱い者いじめ」であり、その行為を正当化する理屈はあとからいくらでもつけられるという認識で行われてきた。2008年のグルジア侵攻では、米国がグルジアに人道支援という名目で輸送機、病院船を派遣した際、ロシアは軍を撤退させた。自分より強い相手に対しては、臆病な位敏感である。ロシアの北コーカサス支配の正当性は全くなく、長い時間がかかるかもしれないが、いずれチェチェンの独立する時がくるだろう。

以上