審議中の政策提言

「激変する国際情勢と日本の対応」
第3回政策委員会メモ

2014年3月20日
公益財団法人日本国際フォーラム事務局

 「激変する国際情勢と日本の対応」(「中東情勢の推移と国際政治の動向」より改題)に関する第3回政策委員会が下記1.~4.の要領で開催された。なお、報告者である袴田茂樹当フォーラム評議員・新潟県立大学教授より、事前に基調報告レジュメ「ウクライナ情勢と日露関係」、報告資料1「ロシアのマスコミより」、報告資料2「クリミア併合に関するプーチン教書演説(2014年3月18日)」が配布された。

1.日 時:2014年3月20日(木)午後2時より午後4時半まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.出席者:袴田茂樹当フォーラム評議員・新潟県立大学教授を報告者に迎え、伊藤憲一政策委員長他政策委員27名が出席。

4.審議概要

(1)冒頭、伊藤憲一政策委員長よりつぎの挨拶があった。

 「中東情勢の推移と国際政治の動向」の総合テーマのもと、昨年11月以来、議論してきたが、ここに来てウクライナ情勢の急展開があり、改めて、一体ロシアは、そしてプーチン大統領は何を考え、これからどうしようとしているのかが問われている。今回の事態について、「ポスト冷戦」の相互依存やグローバリゼーションといった浮ついた空気が吹っ飛んだのは事実だと思うが、次にくるものが何であるのかは、もう少し見極めなければならない。今回の対立はイデオロギー対立ではないから、それを「第二次冷戦」と呼ぶことはできないとの主張が一部にあるが、自由主義と共産主義の対立だけがイデオロギー対立であるわけではなく、欧米の「法の支配」の政治文化と対比される帝政ロシアや旧ソ連に遡る「力は正義なり」の政治文化の対立は立派なイデオロギー対立である。そういうロシアの民族性に鑑みれば、今ウクライナで起き、これから始まるであろう戦いというのは、今後「第二次冷戦」に発展する可能性がまったくないとは言えない。チェチェン戦争、グルジア戦争の延長線上に、クリミア戦争がある。今後米欧の対応が抑止力に欠け、力の真空状態を生み出すものであれば、ロシアの触手は東ウクライナ、沿ドニエストル、バルト3国、カザフスタンなどに伸びる可能性もある。そうなれば、第1次世界大戦後確立していた「力による領土拡大は認めない」との大原則が揺らぐことになる可能性も否定できなくなる。本日はロシアのことを日本で一番良く知っておられる袴田先生を報告者に迎え、21世紀の国際政治の基本動向について議論を深めたい。


(2)つづいて、袴田茂樹当フォーラム評議員よりつぎの基調報告がなされた。

 冷戦後、国家、国境、領土、主権を軽視する「ポスト・モダニズム」的楽観主義が世界を覆ったが、今回のプーチン・ロシアの行動は、それが間違いであったことを明らかにした。国際関係の本質的なところは、20世紀前半の状況に酷似している。ロシアでは、改革派のリーダーたちでさえ、早くから「ロシアの使命はリベラルな帝国の建設である」(チュバイス元副首相)、「ロシアは世界の大国へと復帰する」(トレチャコフ)などと明言し、「中央アジアのロシアへの併合」の可能性にも触れている。ロシアは、2006年に領土保全(チェチェンの分離阻止)にめどをつけ、以後自決権尊重(南オセチア、アブハジアの独立支援)へと軸足を移している。プーチン大統領がクリミアについて「住民の意思を尊重する」と発言しているのは、このような背景においてであり、プーチン大統領の最終的な野望は「偉大なロシア帝国の復活」であるということを忘れてはならない。
 プーチン大統領は、欧米諸国の足元を読んだ上で強硬姿勢を取ったと考えられる。まずオバマ大統領の無力・無気力・無戦略を見て決断したことは、間違いない。米国は、シリア政府が化学兵器を使ったら「武力介入をする」と世界に公約していたにも関わらず、それもせずに議会に責任をふってしまい、プーチン大統領が化学兵器の国際管理という形で助け舟を出して、ようやくメンツを救われた。一方、欧州諸国は、グルジア紛争の時に厳しい対ロ批判をしたが、最終的にはフランスが仲介役になって事態を収束し、実質的に南オセチアやアブハジアがロシアの保護領化することを黙認した。
 日本は現在ジレンマに陥っている。尖閣問題を抱えて、中国がロシアを巻き込まないためにも、ロシアとの関係をしっかりさせておきたいと考えている。安倍首相はプーチン大統領と就任以来5回も首脳会談を行い、個人的なつながりもできた。大きな流れとしては間違えていないと言えるが、日本人の北方領土問題に関する考えは楽観的すぎる。プーチン大統領の言う「引き分け」とは、自分は2島引き渡しを約束した1956年宣言を認めるという譲歩をしたのだから、日本も4島返還を主張し続けるのではなく、少なくとも1956年宣言までは譲歩をするべきであるという論理である。手ぶらでは来日しないだろうと考えている日本人もいるが、クリミア半島を取り戻して、ロシア国内のナショナリズムが高揚している時に、北方領土を日本に渡すという行動にプーチン大統領が出られる状況ではないし、譲歩するつもりもないと考える。ウクライナの主権が侵されているが、その痛みを共有できるのは、G7では日本だけである。3月19日、安倍首相は国会での答弁で、ロシアによるクリミアの編入を非難し、ウクライナの統一性、主権及び領土の一体性を侵害するものだと言い切ったのは、評価できる。

(3)このあと、出席政策委員間で意見交換が行われたが、特に注目すべき発言をトピック別に整理すれば、以下のとおり。なお、伊藤政策委員長より「これまで『中東情勢の推移』を切り口として『国際政治の動向』を探るとのアプローチで議論してきたが、今回のウクライナ情勢の急転を受けて、切り口を世界大の問題に広げる必要があると思われる。ついては、この機会に総合テーマを『中東情勢の推移と国際政治の動向』から『激変する国際情勢と日本の対応』に変更したいと考えるが、いかがか」との緊急提案がなされたところ、異議なく了承された。

(文責、在事務局)