審議中の政策提言

「中東情勢の推移と国際政治の動向」
第1回政策委員会メモ

2013年11月11日
公益財団法人日本国際フォーラム事務局

 「中東情勢の推移と国際政治の動向」に関する第1回政策委員会が下記1.~4.の要領で開催された。なお、報告者である田久保忠衛当フォーラム理事より、事前に「米指導力損なう『内向きオバマ』」(9月10日付け産経新聞「正論」)、「『豪の助っ人』と米国の弱点補え」(10月29日付け産経新聞「正論」)、「『弱腰オバマ政権』とどう向き合うか」(『明日への選択』13年11月号)の3点の資料が配布された。

1.日 時:2013年11月11日(月)午後2時より午後4時半まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.出席者:田久保忠衛当フォーラム理事を報告者に迎え、伊藤憲一政策委員長他政策委員22名が出席。

4.審議概要

(1)伊藤憲一政策委員長の挨拶

  冒頭、伊藤政策委員長より「昨年11月24日に吉田春樹副政策委員長が逝去されて以来空席であった副政策委員長について、島田晴雄政策委員(千葉商科大学長)を推薦したい」旨の発議があり、満場一致で了承された。そのあと、伊藤政策委員長よりつぎの挨拶があった。 
 政策委員会は、2012年1月に「膨張する中国と日本の対応」、6月に「グローバル化時代の日本のエネルギー戦略」という2つの政策提言を発表し、それなりに各方面から高い評価を頂いたが、その後1年以上にわたり開店休業状態で推移してきた。それは運営委員会等を中心に次期提言のテーマの模索を続けたのであるが、なかなかに意見集約が難航し、適切なテーマに辿りつけなかったからである。しかし、その間に国際情勢が変化し、「アラブの春」を引き金に、単に中東情勢だけでなく、米国の役割なども含め、国際政治全体のルール・オブ・ザ・ゲームが変わってきているのではないか、という観点が出てきた。そこで、「中東情勢の推移と国際政治の動向」との総合テーマのもとで、「オバマ政権の動向」「シリア情勢の推移」「ロシア、中国等の動向」「欧州諸国の動向」「アラブ中東諸国の動向」「日本の対応」の6つのサブテーマについて回を重ね、徹底的に議論したいということになった。従来は4回の政策委員会で結論を出していたが、今回は6回の開催を予定しているのは、そのためである。最終的に問われているのは、「国際政治全体の動向」であり、そこでの「日本の対応」であるが、「日本の対応」については政策委員長を補佐する事務局代表の立場で、石川薫専務理事・研究本部長に5回にわたる政策委員会の議論を総括する一文を起草してもらい、これを政策提言案として、最後の政策委員会に提出したいと考えている。

(2)田久保忠衛当フォーラム理事の基調報告

 つづいて、田久保理事よりつぎのような基調報告がなされた。
 第二次世界大戦後の国際秩序のコアとなっていた米国に異変が生じ始めた。これはオバマ政権だけに限ったこと、すなわちオバマ政権の特殊性であって一過性のものなのか、それとも米外交全体が「孤立主義」に回帰し、あるいは米国の国力が衰退しつつあるのか、もしくはこれらが混ざり合ったものなのか、自分としてはまだ結論を出していないが、なぜこの問題点を提起するに至ったのか、その経過について説明したい。

(イ)シリア危機をめぐる対応で露呈した米外交の翳り
 オバマ政権の外交が疑問視されだしたきっかけは、シリア問題をめぐる対応である。シリアでの内戦の危機に直面し、国際世論からは世界の秩序の維持者としての米国への期待が高まり、2012年8月にオバマ大統領はその要請に応える記者会見で大量破壊兵器(WMD)の使用を軍事行動への「レッドライン」としたが、その後少量のサリン剤使用があったが行動を引き延ばしているうちに、シリアの反体制派にはアルカイダなどの過激派が入り込んだ。こうして、アサド政権を倒せば過激派に武器がわたるという、新しい危惧が生じた。しかし、今年8月の毒ガス兵器の使用で約1400人が死亡すると、英米ともに武力攻撃への決断を迫られたが、英国が議会の反対に遭い断念すると、オバマ大統領はホワイトハウスでの会議で、議会にその判断を任せようとした。これに対し、側近からは指導者が議会の判断を仰ぐのはいかがなものかという反対意見が噴出した。結局、軍事行動を起こせないまま、シリアを化学兵器禁止条約に加入させ、化学兵器を廃棄させるというロシアの提案に飛びつく形となってしまった。このことは、ロシアを対シリア外交の主役たらしめ、他方シリアのアサド大統領は11万人の市民を殺害したにもかかわらず、まじめに化学兵器の廃棄に努力しているかのごとき、逆転した絵をつくりだした。
 これをきっかけに米国主要紙も一気にオバマ政権批判となった。その後、オバマ政権は、エジプトの軍事クーデターをクーデターと認定できず、軍事援助を継続し、アジア太平洋地域でもAPECおよびASEAN首脳会議に欠席し、中国とは習近平国家主席との8時間の会談をするも成果が出せないといったような対応がみられた。米国外交はいたるところで、「内向き」の方向への転換を暗示しているのではないか。

(ロ)第二期オバマ政権の「内向き」傾向
 第二期オバマ政権の特徴の一つは「戦争に巻き込まれたくない」である。第一期オバマ政権が行ったことは、イラクやアフガニスタンからの兵力撤退など、ブッシュ政権時代の政策を全部整理することであった。また、リビア内戦への軍事作戦は英仏が中心となり、米国は「後ろからリード」している。尖閣をめぐる領有権問題についても腰が引けている。米軍の射爆場だった尖閣諸島を沖縄返還とともに日本に返還したことは米国にとって明白であり、在日米軍基地の4分の3を占めている沖縄のすぐ側にあるにも拘わらず、オバマ大統領は黙っているのだろうか。他方、米国の世論は「戦争に巻き込まれたくない」点で一貫しており、シリアへの軍事介入についても過半数の国民が反対していた。
 次に、オバマ大統領を取り巻く人脈にも特徴がある。第一期政権時には、クリントン国務長官、ゲイツ国防長官、ガイトナー財務長官の三人がいたため、クリントン政権からの継続性もあると思われ、米国有識者も安心していたが、第二期オバマ政権では、上記3人の代わりにケリー国務長官とヘーゲル国防長官という、ベトナム戦争のベテランだが、その後反戦活動に従事したことで知られた人物が外交と防衛の中枢に座っている。また、第一期ではあまり表には出なかったが、評論家のジェローム・コーシが暴露したように、共産主義者や反体制派の人脈との結びつきが際立っているとの指摘もある。また、ミシェル夫人、スーザン・ライス国家安全保障担当補佐官、サマンサ・パワー国連大使、バレリー・ジャネット大統領上級顧問の4人が政策決定に深く関わっている。このうち3人がアフリカ系アメリカ人であり、そのことが悪いわけではないが、これまでの米国とは違っている。
 もう一つの特徴は、福祉国家に転換しようとしていることである。現在オバマ政権は第一期に推進した「オバマケア」の名の下で、高齢者・障害者向け医療保険、低所得者医療扶助に関する法案を制定しようとしているが、財政赤字の中での社会福祉への費用拠出により、そのしわ寄せで空母を11隻から8隻へと減らすなど、軍事費の大幅な縮小が進められている。こうした問題は1、2年では解決できない構造的な問題である。米国外交では、世界の問題に介入していくインターナショナリズムと、内向きになる孤立主義(アイソレーショニズム)の繰り返しの波が、小中規模で30、40年ごとに起きているが、上記の「内向き」傾向は孤立主義的傾向が出てきた証左ではないか、という見方もある。

(ハ)米国の国力は衰退しているのか
 他方、『大国の興亡』などで示されたように、米国の国力そのものが衰退しているのではないかという議論も、出始めている。しかし、私は「それはない」と思っている。まず軍事力は、依然として世界のトップであり、2位以下を大きく引き離している。経済的にも、世界人口4%の米国が世界GDPの四分の一を占めているだけでなく、ドルは依然基軸通貨である。もし世界GDPに占める米国GDPの割合が小さくなってきたとすれば、それは中国、ブラジルなど新興国の台頭による相対的なものである。他にも、技術力、情報力、また教育水準においても「世界大学ランキング」にて上位10校中に7校がランクインするなど、その高さを示している。アジアやロシアで少子化が進む中、米国では人口増の傾向は変わらない。エネルギー面においても、シェール革命によって世界トップのエネルギー大国に躍り出る可能性がある。

(ニ)日本のとるべき対応
 米国におけるオバマ政権の「内向き」傾向に対応するように、安倍政権は「外向き」の政策をとりつつあると観測している。例えば、今年10月のAPEC・ASEAN関連首脳会談の中で行われたアジア各国との二国間首脳会談で、安倍首相は南シナ海における力による現状変更への懸念の表明、およびASEANが一体となってこの海域での法の支配の徹底と行動規範(COC)の早期策定に努めるべきだとの主張を行ったが、これはクリントン前国務長官が一貫して主張してきたことである。オバマ大統領不在時に、安倍首相からこのような主張がなされたことで、ASEAN諸国などの眼には日本は力強い国に映っただろう。また、誕生したばかりの親米の豪州アボット政権は、日本に好意的な感情を持っているし、同国の外相は来日時の記者会見で、安倍政権が踏み切ろうとしている集団的自衛権の行使への賛否を問われたところ、「段階を踏んで実施しているため賛成だ」と回答している。中国はASEANを「自国と運命共同体だ」などといっているが、これらの国々は経済的には中国に依存しているものの、安全保障面では内心ないし公然と米国に依存している。米国が「内向き」ないし「孤立主義化」の姿勢をとるなか、日本の集団的自衛権の行使や憲法改正といった一連の政策は、「やってくれる日本」として、中国と朝鮮半島以外すべての国、就中ASEAN諸国の期待に沿うような形で外交を展開しているのではないか。

(3)政策委員間の意見交換
 このあと、出席政策委員間で意見交換が行われたが、特に注目すべき発言をトピック別に整理すると、以下のとおり。

(文責、在事務局)