国際交流

日中対話
「ポスト・コロナ時代の日中協力のあり方」メモ

2020年12月4日
日本国際フォーラム事務局

会合のようす

日本国際フォーラム(JFIR)は、上海外国語大学日本研究センターおよびグローバル・フォーラム(GFJ)と共催により、日中対話「ポスト・コロナ時代の日中協力のあり方」を開催したところ、その概要は以下のとおりである。

1.日 時:2020年12月4日(金)14:00-17:00
2.場 所:Zoomによるオンライン
3.プログラム
4.出席者:51名(以下のパネリストを含む)

【日本側パネリスト】 渡辺 まゆ JFIR理事長/GFJ執行世話人
加茂 具樹 JFIR上席研究員/慶應義塾大学教授
飯田 将史 防衛研究所地域研究部米欧ロシア研究室長
八塚 正晃 防衛研究所地域研究部中国研究室研究員
伊藤 信悟 国際経済研究所主席研究員
松本 はる香  ジェトロアジア経済研究所地域研究センター・東アジア研究グループ長
【海外側パネリスト】 廉 徳瑰 中国社会科学院日本研究所総合戦略研究室副主任
呉 懐中 中国社会科学院日本研究所副所長
田 達立 天津外国語大学国別与区域研究院執行院長研究員
張 玉来 南開大学日本研究院副院長教授
陳 友駿 上海国際問題研究院研究員 (プログラム登場順)
【ゲスト】 日中双方からそれぞれ20名の総勢40名

5.議論概要:

日中対話は、渡辺まゆJFIR理事長/GFJ執行世話人および廉徳瑰上海外国語大学日本研究センター主任の開会挨拶の後、セッションⅠ「変化する国際情勢における日中関係」、セッションⅡ「デジタル化時代の日中協力」、総括の順で議論が行われた。それらの概要は次のとおりであった。

 (1)開会挨拶

(イ)渡辺 まゆ JFIR理事長/GFJ執行世話人
 国際社会はコロナ・ウイルス・パンデミックによる未曾有の危機に直面し、残念ながらこれまで当たり前であった相互訪問による学術交流は途絶えてしまっている。ただその代わりに、本対話のように、オンラインによる会合が急速に進展し、国際会議を実施するハードルはかえって下がったともいえよう。これまでのように対面で議論を深めた方が良いのは変わらないが、今後はオンラインも併用しつつ、新しい発想で交流の機会を増やし、関係の深化をしていきたい。日中関係をみると、ここ数年の良好な関係を背景に、本年春には習近平国家主席が来日されて一層の関係拡大がなされ、新時代の日中関係が開けるのではないかという期待があった。しかしながら、コロナ・ウイルス・パンデミックによってそれは実現せず、それどころか日中関係を悪化させる様々な問題が顕在化し、日本国内の対中感情も悪化している。しかしその一方で、経済分野においては、さる11月にようやくRCEPの署名がなされ、これまでFTAが締結されていなかった日中において、今後RCEPを介して質の高い貿易・投資関係が構築されていくものと期待ができる。さらに、習近平国家主席よりTPPへの参加意欲が表明された。また安全保障面では、「日中海空連絡メカニズム」が引き続き強化される方向に向かっている。このように日中は、まだまだ協力を強化していくことが不可能ではない。日本にとって中国は地理的に離れられない巨大な隣国であり、日中両国の安定した関係は、地域・国際社会にとっても極めて重要である。日中は、共に責任ある大国として、コロナ対策、気候変動、貿易・投資など国際社会が直面する重要課題に取り組み、貢献していくべきある。

(ロ)廉 徳瑰 上海外国語大学日本研究センター主任
 コロナ禍で国際情勢は大きく変化し、新しい協力関係を築いていく必要がある。本日の対話は、「ポスト・コロナ時代の日中協力のあり方」を総合テーマに、「変化する国際情勢における日中関係」と「デジタル化時代の日中協力」の2つの時宜にかなったテーマで、日中双方で影響力のある研究者により協議ができる良い機会である。この対話は、自由討議の時間が充実しており、またゲストとして大学院生など次世代を担う若い研究者も含めて多数の日中双方の有識者にご参加いただいているが、これらの方々が自由討議にパネリストと同様に発言できることが特徴である。こうした会議の手法は、他では、なかなかない形式であり、日中間の相互認識を深めることにおいて有効である。我々はこうした対話を通じて、未来志向のもと今後の日中協力のあり方を提言していくことが重要であり、またそれには日中の問題だけでなく、アジアや国際社会の問題についても提言してくべきである。

 (2)セッション1「変化する国際情勢における日中関係」

(イ)報告A:飯田 将史 防衛研究所地域研究部米欧ロシア研究室長
 まず、現在の変化している国際情勢について5つの点から確認したい。一つ目は、パワーバランスの変化と秩序をめぐる対立が起こっていることである。米国主導のG7など先進民主主義国のパワーが低下し、反対に中国主導のBRICSや上海協力機構など発展途上・新興諸国のパワーが増大している。こうしたなかで発展途上・新興諸国による既存の国際秩序に対する見直し要求が高まり、特にアフリカ諸国やインドから国連安保理改革、中国から「新型国際関係」の構築などが提唱されている。これらの動きをまとめると、「民主主義vs権威主義」および「先進国vs新興・途上国」という大きく2つの対立軸でみることができる。この対立軸のうち、「民主主義」および「先進国」を代表するのが米国、「権威主義」および「新興・途上国」を代表するのが中国であり、その両国により、秩序をめぐる大国間競争が展開されているのである。二つ目は、経済グローバル化が行き詰まっていることである。グローバル化により相互依存や相互の影響関係が進展し、その結果今回のコロナ・ウイルスにみるようにリスクも共有されるようになっている。また、グローバル化で国家間・階層間の富の偏在が進み、増大した弱者側から反グローバリズムや保護主義の動きが高まっている。こうしたなかで、国内産業保護、国有企業支援、知的財産権の侵害、サプライチェーンの悪用などを行っている国家統制型資本主義の中国に対する警戒感が高まっている。三つ目は、パックス・アメリカーナの揺らぎが起こっていることである。過去20年ほど、米国の軍事力発展のペースは停滞している。これはライバルの不在、財政の悪化また対テロ戦争が継続されていることが主な理由である。また、対テロ戦争の継続により、対外コミットメントへの意欲が低下しているのである。四つ目は、こうしたなか、中国が急速な軍事力の増強を行っていることである。中国は、海軍、空軍、ロケット軍をはじめ対外攻勢的な戦力を強化し、南シナ海にとどまらず東シナ海、台湾海峡で力による現状変更を推進し、またそのために、対米A2/AD能力を増強し、宇宙、サイバーなど含めて作戦範囲を拡大している。五つ目は、これまで述べたような要因を踏まえて、米国と中国が「新たな冷戦」へ突入していることである。具体的には、米中は価値観・イデオロギーをめぐる競争、秩序・勢力圏をめぐる競争、直接的な武力衝突を避ける競争、長期にわたる全面的な競争、に突入しているといえる。
 では、以上のような国際情勢の変化を踏まえて、日中関係はどのように展開するのか。まず現状の国際情勢における日本のポジションとしては、自由・民主を基調とした既存の国際秩序を維持・強化することが国益に合致し、グローバル経済の安定的な運営を重視し、保護主義には反対の立場である。そして日本の領土を狙うことにおいて、中国は安全保障上の大きな脅威となっている。次に中国のポジションとしては、共産党独裁のため自由・民主といった普遍的価値観を受け入れられず、保護主義に反対しているが、自国が主張する「核心的利益」においては非妥協的で強硬な対応をしている。これら双方のポジションから分析すれば、日中は、自由で開放的なグローバル経済秩序の維持を共通利益として見出すことが可能であるが、大きな流れとしては対立の方向に向かっているといわざるを得ない。対立の深刻化を避けるためには、日本は中国の政治体制について干渉しない立場をとり、中国は尖閣諸島への圧力を控えることが最低条件であろう。

(ロ)報告B:呉 懐中 中国社会科学院日本研究所副所長
 コロナ・ウイルス・パンデミックによって、世界の潮流はどのよう変化しているのか、次の3点について述べたい。一つ目は、反グローバリゼーションが起きているということである。この動きは、国家間における伝統的安全保障分野にも影響を及ぼしている。二つ目は、特に東アジアで新たな地域化、地域主義が拡大し、中日協力をはじめ、地域協力が進展しているといことである。三つ目は、米国のリーダーシップに陰りがみえていることである。コロナ禍において、米国はなんら国際社会をまとめることができず、むしろ被害を拡大しており、各国から疑問を呈されている。こうした中で、米国は拡大している中国の存在感にあせりを感じ、中国に対して強硬な姿勢をとるようになっている。これが現在の中米対立の本質である。しかしながら、日本、韓国、欧州の米国の同盟国は、その米国の政策に同調せず、中国との関係を維持している。
 今後、中日は協力を強化していかければならない。コロナによって、中日両国でコンセンサスを得られる分野は拡大している。コロナに協働で対処し、相互理解を深めていくべきである。特にコロナの影響で経済は大きな被害を受けているが、中日が協力して、経済危機を避けるべきであろう。WTOなどの国際機関の立て直しを共に行い、経済のデカップリングを避け、サプライチェーンを強化すべきである。また中日で地域協力も進め、RCEPをはじめ自由貿易を維持していくべきある。以上のような中日協力を進め、中日新時代を築くべきである。

(ハ)報告C:八塚 正晃 防衛研究所地域研究部中国研究室研究員
 最初に、現在どのように国際情勢が変化しているのか、長期的、短期的、また継続する要素について述べたい。長期的な変化としては、中国の台頭に起因するパワーシフトが起こっている。米中関係のパワーバランスが変化し、米中の戦略的競争、対立が激化している。また第四次産業革命やデジタル化により、経済と安全保障が密接にかかわった技術が発展しており、国家間の技術交流にリスクが伴うようになった。次に短期的な変化としては、コロナ・ウイルス・パンデミックにより、世界の経済不況、国際協力の気運の低下し、またピュー・リサーチセンターの調査からもわかるように欧米諸国の対中感情が悪化している。米国では、今後バイデン政権に移行し、多国間主義へ回帰するとみられるが、厳しい対中認識は継続されることになるだろう。継続する要素としては、反グローバリゼーションの気運がでてきているとしてもグローバリゼーション自体は進展するだろうし、環境問題などの地球規模の課題もそのまま残るだろう。また安全保障においては、米国の同盟国とのハブ&スポークスによる同盟のネットワーク、対テロなどの機能主義的な地域協力、APECやWTOなどの全域主義的な多国間協力も継続されるだろう。こうした中で日中関係においても、安倍政権から菅政権に変わったとは言え、日中政府ともに政権の政治的安定が継続されていくものとみられる。
 ただ、現状日中間において、中国は現状変更を志向する一方で日本は現状維持を志向しており、根本的な違いがある。中国は習近平国家主席のもと、「中華民族の偉大な復興」という「中国の夢」を追求しており、コロナ禍でも積極的な対外行動を進めている。日本は菅政権のもと「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)を追求している。FOIPは、安定的な勢力均衡を維持し、全ての国が共通のルールに基づく秩序の下で共存することを目指したものであり、今やインド、オーストラリア、ASEAN、また欧州までも、それぞれのインド太平洋構想を持つようになっている。こうした日中の違いは国民感情にも現れており、言論NPOの世論調査では日本人の89%が中国に対して悪い印象をもっている。ただ、それは中国に対する政治体制や海洋における行動などが理由であり、旅行交流増などによって、中国人、中国社会への親近感は好転してきているようである。また日中双方で、日中関係が重要との認識が共通している。
 先の訪日の際に王毅外相は、「新時代にふさわしい日中関係の構築」と発言した。「新時代」ということが何を指すのか、日本側にとって、それが主権・海洋問題における「現状変更」を含めているのであれば、到底受け入れられない。今後日中においては、第三国市場協力などはじめ、「一帯一路」構想とFOIPの協力関係を拡大し、自由貿易体制の維持・強化、環境問題、非伝統的安全保障領域の協力を拡大していくべきであろう。また東アジア地域秩序、新興技術などへの認識の隔たりへの対応、経済デカップリングへの対応などが必要であろう。

(ニ)報告D:田 達立 天津外国語大学国別与区域研究院執行院長研究員
 近年、中国は、新時代に入っているといわれている。日本も令和の時代に入り、政権も菅政権に変わった。米国も大統領選挙の結果、バイデン新政権が誕生する見込みである。このように、中日米3か国で、大きな変化がみられている。日本にとっては、バイデン政権の誕生が、日本にとって良い状況を生みだすと考えているかもしれない。確かにバイデンは、オバマ政権時の副大統領であり、親政権には知日派も多く器用されるであろう。また、同盟関係を強化して、EUやNATOとの団結、日本、オーストラリア、韓国との協調も強化するだろう。ただしそれは、米国による対中強硬策に、他国をより巻き込むことを意味するかもしれない。確かにトランプ政権は、中国との間で貿易をはじめ対立を強めたが、必ずしも他国を対中強硬になるよう巻き込むことができなかった。しかし、米国内における対中強硬派の力が強まっており、バイデン政権は、日本をはじめ各国に対して中国包囲網への参加の要請を強化するかもしれない。こうしたなかで、日本外交は舵取りがむずかしくなるだろう。
 しかしながら日本が、これまでの米国主体から、自主独立の外交に転換しはじめていることも確かである。安倍政権で打ち出された「地球儀を俯瞰する外交」は、まさに対米一辺倒からの日本の脱却であった。日本は、世界的な視野から外交を行いはじめており、先のCPTTP、RCEP締結において主導的役割を果たしている。米国だけにならず、多国間主義を強めているのである。これまで日本は、安全保障上の観点から日米同盟を維持していきたわけであるが、今後は、中日で相互信頼を強めることがさらなる日本の安全保障を確保することにつながるだろう。中日が、アジア運命共同体を共に構築していくことが、両国、地域の繁栄を生み出すのである。

(3)セッション2「デジタル化時代の日中協力」

(イ)報告A:張 玉来 南開大学日本研究院副院長教授
 デジタル化が進展している今の時代、日本にとって中国は、利益を得られる新大陸になるだろう。これまでも、日本の企業は中国から大きな利益を享受してきた。例えば、製造業分野だけでも4千社の日本企業が中国に進出し、ネットワークを築いている。日本企業が海外から得られる利益という点において、中国は最も大きな存在であり、例えば米国に進出した日本企業は、総額で1.7兆円の利益を得ているが、中国に進出した日本企業は、総額で2.3兆円の利益を得たという統計データがでている。また、日本の対外直接投資において全体の30%を占める米国から得られる利益は全体の約15%であるが、中国への投資は全体の約7%しかないにもかかわらず、得られる利益は全体の約22%にのぼっている。ソフトバンクの例をみても、2000年に中国のアリババに20億円を投資したが、アリババが2014年に米国で上場してから8兆円の利益を回収している。このように、日中の政府間は比較的関係が低迷しているが、経済においては活発な関係を築いているのである。
 現在中国は、産業構造を転換しようとしている。日本がプラザ合意以降内需を拡大させたように、中国も内需の拡大に努めている。現在の中国の内需はGDPの4割程度しか満たしていないが、これを6割程度に拡大しようとしているところである。過去、日本の企業にとって中国はコスト削減のための場であったが、今はパートナーとして、特にデジタル化時代が到来している今後は、新しい関係を築いていくことができるだろう。中国には多くのユニコーン企業があり、その潜在力は計り知れない。中日で共にデジタル化時代にあった人材を育成し、イノベーションを起こしていくべきである。米国のGAFAのような企業を、中日で協力して創設していくべきである。

(ロ)報告B:伊藤 信悟 国際経済研究所主席研究員
 日中間のデジタル協力においては、大きな可能性が広がっている。日中は、世界第2位、第3位の経済規模をもち、その経済活動から生まれる豊富なデータ量がある。また、両国が抱える経済的、社会的課題も共通したものが多い。例えば、急速な少子高齢化への対応、経済効率・生産性改善、低炭素社会の実現加速、多様化する国民・消費者のニーズへの対応といった課題である。また、新型コロナの感染拡大を受けた非接触型サービスの拡充も求められている。
 他に、日中ともにIoT・ICT機器の主要な生産国であるという共通性があるが、その点においては補完性もある。例えばIoTでは、日本はヘルスケア、スマート工場において競争力が高く、中国はスマート・シティ、コネクテッドカーで高い競争力をもつ。ICT製品では、日本は半導体やゲームが強く、中国は固定系および移動系ネットワーク機器が強い。
 このように、日中間においては、協力を拡大していく潜在力が非常に高いことがわかる。では、その潜在力を発揮していくにはどうすればよいのか。それには、企業や消費者の信頼を獲得していくことが必要であり、そのために信頼性のある自由なデータ流通を促進していくことが重要である。
 こうしたなか、RCEPの締結は、デジタル協力に大きな影響を及ぼす可能性がある。まず、RCEPは、事実上の日中間の初のFTA締結ということになる。またRCEPにより、WTOに十分な規定のない電子商取引ルールにつき合意され、締約国間の電子的送信に対する関税不賦課(モラトリアム)、データローカライゼーション(外国事業者に対する自国内でのコンピュータ関連設備の設置・利用要求)の禁止、データフリーフロー義務(電子的手段による情報の越境移転の自由確保)、個人情報保護法の整備、などが進む。ただし、RCEPは、「公共政策の正当な目的を達成するために必要であると認める」措置および「自国の安全保障上の重大な利益のために必要であると認める」措置を例外として認めており、例外規定が濫用されれば、データローカライゼーション禁止やデータフリーフロー義務が形骸化される可能性もある。
 また、本年9月のAPEC閣僚会議で、習近平国家主席が「TPPに加入することを積極的に検討する」と表明したが、TPPは日中のデジタル協力を深化させる可能性をもっている。というのも、RCEPにおいては「ソースコードの移転とアクセス要求の禁止」が今後の検討課題として残されていることなど、TPPに比べるとRCEPの電子商取引ルールは低水準だからである。今後、中国のTPP加入に向けて改革開放が一段と進展すれば、公平・透明・開放的な競争環境の形成等を通じ、電子商取引のみならず、日中経済協力全般の活性化に寄与するだろう。
 最後に、個人によるデータコントロール、AI利活用をめぐる民間主導の国際的ルールの形成が重要である点を指摘したい。個人情報提供に対する消費者の不安は、中国でも日本並みに強い。今後、国境を越えた協力を進めていくには、日中双方の消費者の信頼確保が肝要であり、様々な主体が参与する形でのルール形成、政府・企業による個人情報の目的外利用の禁止とそれに対するモニタリングの強化などが重要である。

(ハ)報告C:陳 友駿 上海国際問題研究院研究員
 ポスト・コロナ時代の中日の経済発展には、安定した環境が必要である。本年はコロナ禍によって習近平国家主席の訪日がならなかった。来年実現させることができれば、中日の経済協力を大きく促進する要因となるであろう。また、2022年は中日国交正常化50年を迎える。習主席の訪日は、この50年をより良く迎えるための気運を高めることにもなる。
 コロナ禍において、中日両国は積極的な財政緩和を行い、世界経済に良い影響を与えてきた。今後、両国の間でさらなる経済協力、特にマクロ経済分野の協力、研究交流を行っていくことが非常に重要である。またデジタル経済分野の協力も重要である。RCEPの14章において、中国は積極的な提案を行った。これにより、電子商取引章において非課税とすること、サーバーなどの設置要求の禁止、ダボス会議で安倍首相が提案したラインでのデータフリーフローのルールづくり、などが合意された。ソースコードの開示については、まだまだ議論が必要であるが、今後日中でこの点もおおいに協議するべきであろう。RCEPはTPPに比べると自由化のレベルで開きがあるが、これは今後のRCEP2.0、3.0でよりルールの確定を進めていけばよいことである。また中日においては、今後は日中韓FTAの締結を前進させていくべきである。RCEPの締結によって、その気運が高まっているといえる。他に第三国市場協力も重要である。そもそも、BRIとFOIPは矛盾した関係にある構想ではなく、中日両国で、市場のパイを分けあうことが可能である。
 ただし、日本の外交については懸念をもっている。日本外交は、米国から独立したものではなく、米国の意向に左右される部分が大きい。バイデン政権においても中米対立は継続するものとみられるが、日本は、米国から米中どちらの立場につくのか迫られた際はどうするのか。
 まだまだコロナ禍がいつ収束するのか先が見通せない。さらなる感染拡大の大波がくるようなことになれば、原油や金の相場が崩れ、世界経済の不確実性はより高まるかもしれない。習主席のTPP加盟の発言に注目が集まっている。李克強首相も、本年の全人代の閉幕後にどうようの趣旨の発言を行っている。TPPは、加盟国であるカナダとメキシコは、改定したNAFTAの加盟国でもある。改訂版のNAFTAは、中国とFTAを締結する際は米国との協議が必要となっており、もしTPPに中国が加盟しようとすると、その点が大きな障害になるだろう。日本は、TPPの中国加盟の仲介者になってもらいたい。

(ニ)報告D:松本 はる香 ジェトロアジア経済研究所地域研究センター・東アジア研究グループ長
 今後、アメリカでの政権交代によって、米中関係に変化がみられる可能性がある。これまでの米中関係を振り返ってみると、米中対立は、「米中新冷戦」などと呼ばれ、貿易戦争、技術覇権をめぐる問題、そして安全保障問題などへと拡がりをみせてきた。そのなかで、特に、ここ数年の間に、米中両国の経済分野におけるデカップリング(分離)の議論が注目を集めてきた。例えば、5Gをはじめとする衛生通信網や、海底ケーブルといった国際公共財の建設などが、米中覇権争いの最前線となりつつある。そして広い意味では、そのひとつとして位置づけられるのが「一帯一路」構想である。
 新型コロナウイルス(Covid-19)の世界的拡大は、「一帯一路」構想の先行きをより不透明なものにしている。特に、新型コロナ・ウイルスの影響によって、2020年第1四半期の中国のGDPが、前年度比マイナス6.8%という、大幅なマイナス成長となった。だが、当初予想していたよりも中国経済の回復は早く、第2四半期、第3四半期はプラスに転じて、プラス4.9%までになった。
 その一方で、今後しばらくは中国では、国内経済の立て直しに重点が置かれることになるだろう。それにともない、これまで中国が推進してきた、「一帯一路」構想も、少なからず見直しを迫られているといえよう。例えば、今回のパンデミックによって、世界各地で国境管理の厳格化がなされ、中国からの技術者や労働者の移動、物流などが制限されたといわれている。これによって、「一帯一路」のプロジェクトに関わるインフラ建設の遅延や、沿線国の財政悪化による債務不履行などの問題が起こっている。
 このように、コロナ禍によって、「一帯一路」に関わるプロジェクトのハード面のインフラ建設などが立ち後れを見せる一方で、デジタル分野における、インフラ整備に注目が集まっている。特に、5Gなどの、デジタル分野における新しいインフラの整備は、「一帯一路」の沿線国のデジタル化政策との親和性が高く、「一帯一路」構想とともに、「デジタル・シルクロード」を推進することの重要性が高まっている。
 今回のパンデミックの経験を経て、今後、中国は「一帯一路」構想の推進の一環として、いわゆる「健康のシルクロード」の推進とともに、「デジタル・シルクロード」の建設を旗印にして、5Gネットワークの建設などに重点を置き、デジタル分野の開発やそれに関わるインフラ整備を進める動きをさらに加速させていくだろう。だが、最近の技術覇権をめぐる米中対立が示す通り、中国の5G建設に対して、欧米諸国は警戒心を強めており、中国の掲げる「デジタル・シルクロード」は、今後の米中関係の争点となってくる可能性が高い。このように、近い将来、デジタル分野での国際競争が激しくなることが予想されるなかで、日本と中国の間でも、できれば情報共有や意見交換をして、日中両国が、デジタル分野においてできる協力などについて、ウィン=ウィンの関係を築くことを目指して、話し合いの機会を持ったほうがよいのではないだろうか。
 以上のように、アメリカでの政権交代後も米中関係の競争時代は続くことが予想されるが、そのような状況のもとで、日中関係はどのようにあるべきなのだろうか。安倍首相と習近平国家主席は、「日中新時代」を築くことを互いに確認した。そして、今年5月に発表された日本の外交青書には、「新時代の成熟した日中関係」を構築していくことが明記され、日中関係を新たな段階へステップ・アップしていくことが明記された。そして、つい先頃、中国の王毅外相が、日本を訪問して、菅総理大臣や、茂木外務大臣と会談を行った。そして、まずは日中ビジネス往来を再開させることで合意した。今後は、新型コロナ感染症対策や、来年の東京、再来年の北京でのオリンピックの実現に向けて、日中間の協力がよりいっそう重要となってくるだろう。
 しかし、日中の間には依然として問題も残っている。尖閣諸島の領土問題に関しては、王毅外相との会談のなかでも取り上げられたが、今回、日中双方の歩み寄りは見られなかった。これによって、自民党内の強硬派からは、習近平国家主席の、国賓としての来日を「棚上げ」にすべきである、といった意見も出ている。このように、日本と中国の間には、依然として、乗り越えなければいけない、いくつかの重要な課題が残っている。このような課題を乗り越え、日中関係が「新時代」に向かって、進展していくことを強く希望している。
 最後に、米中関係と日中関係の「連動性」について言及したい。最近の国際情勢に関して、米中関係が非常に悪化したことから、中国では日本との関係改善を必要として、日本に接近して、逆に日中関係が好転に向かったのではないか、といった見方が一部にある。しかし、本来であれば、米中関係の悪化や改善などに影響されない、安定的な日中関係の構築が望ましい。そのための日中間の対話の構築が重要である。そのためには、政府レベルはもとより、民間レベルでの交流が重要である。その意味において、今回のような、日中間の民間レベルの対話の機会を積み重ねることが重要である。

(4)総括

(イ)廉 徳瑰 上海外国語大学日本研究センター主任
 本日の議論を総括すると、中日において、大きな枠組みとしてはコンセンサスがあるが、具体的な内容になると意見の不一致があることがわかった。例えば、国際秩序が変動しており、それに対処しなければならないということにはコンセンサスがあるが、その具体的な対処についての考えには差異がある。日本側からは、先進国と新興国、あるいは米国と中国の間「新冷戦」が起こっているとの認識が示された。しかし、「冷戦」はソ連と米国との間で、軍事的、経済的、また核兵器、において双方でグループを構築して争われた対立である。中国が軍事的なグループをつくることはなく、経済においてもRCEPが締結された。「冷戦」という認識は、あまりにも状況を読み取れていないのではないか。国際社会においては、グローバリゼーションにおける反対の動きがみられるようになってきた。グローバルガバナンス、気候変動、などの大きな課題に対して、国家間で協力をしなければ解決することはできない。ただ、こうした厳しい国際情勢は、中国と日本の協力を拡大するチャンスでもある。特に本日の議論された経済分野の協力は、両国の安定材料となるものであり、促進していくべきであろう。
 日本側から、「島」、「国民感情」、「中日新時代」の3つについて、それぞれが関連しているとの旨の発言がなされた。つまり、「島」の問題で中国が強硬であるために、日本の中国に対する「国民感情」が悪化し、よって「中日新時代」を築いていくことが困難になっているという主張である。これにはメディアが対立を煽っている部分が多いに影響していると考えられるが、「島」の問題を日本側が望むように解決されなければ中日新時代が到来しないというのは、いささか視野が狭く、理解が浅いのではないだろうか。中日両国で立ち返らなければならないのは、1972年の国交正常化である。2010年の漁船衝突事件、2012年の国有化などが問題を悪化させたのであり、抑制が必要なのである。日本はロシアとの間でも領土問題を抱えているが、抑制がなければ、解決は困難になるだろう。中日両国の間には、大きな協力の可能性が広がっている。RCEPも締結された。このことに目を向けなければならない。可能性を閉ざしてはならないのである。両国は、共に地域のために責任ある行動をとらなければならない。両国は、コロナ禍で疲弊した経済を回復されなければならず、そのためには協力が必要である。両国は、戦略的で、対局的な視点から、関係を強化していくべきであろう。

(ロ)加茂 具樹 JFIR上席研究員/慶應義塾大学教授
 コロナ禍によって1月から9月頃まで学術交流が途絶えていたが、本日の対話を含めて、ここ数ヶ月の間、日中間では様々なオンラインによる対話が行われるようになってきた。日中間の学術交流は少しずつ回復している。これは大変に喜ばしいことである。
 高坂正堯は、国家は「力の体系」、「利益の体系」、「価値・イデオロギーの体系」という3つの体系によって形作られており、国家間の関係もまた、この三つのレベルの関係が絡み合ったものであると述べていた。本日の議論をつうじて、日中間には様々な問題があるものの、安定した平和な関係を構築したいという目的を共有していることは明らかになった。そして「力の体系」である軍事面では、両国間の対話が必要であるという認識を共有していること、「利益の体系」である経済面では、既存の協力枠組みを一層強化していく必要があるという認識を共有していること、を確認した。しかしながら、「価値の体系」をめぐる問題については日中間には、相当大きな認識の相違があることを明確にした。今後地域の安定した秩序をかたちづくるために、日中両国は共有できる価値を見つけ出してゆく必要がある。ではどうしたらよいのか。これは日中関係をどのような概念(単語)で表現するのか、という問いだと言ってもよいだろう。日本では『外交青書』において、昨年まで日中関係を「戦略的互恵関係」という言葉で表現してきたが、今年は「新時代の成熟した日中関係」という表現に改めた。実際、安倍総理の昨年の年頭発言でも、この言葉が使われていた。しかし、今年の菅総理の年頭の国会演説ではその表現が使われなかった。いま、日本国内においては、日中関係をどのような概念を使って表現するのか、つまりどのような日中関係を目指していくのかについて、あらためて検討をふかめている。中国においても同じプロセスにあるのではないか。そうだとすれば、日中間では引き続き本日のような対話を深めてゆく必要がある。両国の研究者は、議論をつうじて日中間で共有できる問題意識とできない問題意識は何かを確認し、共有できない問題意識については対話を通じてその違いを埋めていく、という理解が必要であろう。

以上
文責任事務局