外交円卓懇談会

第80回外交円卓懇談会
「韓国のFTA政策と日韓FTAの展望」(メモ)

2012年6月7日
公益財団法人日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局

 日本国際フォーラム等3団体の共催する第80回外交円卓懇談会は、崔炳鎰韓国経済研究院長を報告者に迎え、「韓国のFTA政策と日韓FTAの展望」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2012年6月7日(木)午後3時00分より午後4時半まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「韓国のFTA政策と日韓FTAの展望」
4.報告者:崔炳鎰 韓国経済研究院長
5.出席者:24名

6.報告者講話概要

 崔炳鎰韓国経済研究院長の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

韓国におけるFTA政策の重要性

 GDPの約95%以上を貿易に依存する韓国にとって、FTA戦略は非常に重要な対外政策の一つであり、その戦略は、複数国との交渉を同時並行的に進める「多重的アプローチ(multi-track approach)」と呼ばれる。貿易立国である韓国にとって、ある特定の国や地域だけに限定されない海外市場の確保は死活問題であり、また交渉においても、常時変化する国際経済環境の中で、交渉妥結のタイミングを逃さず、着実にFTA政策を実現するには、複数の国々との同時並行した交渉が必要となる。また、現在韓国の潜在的な経済力は、少子高齢化により低下しつつあるが、FTAを通じて国内企業をグローバル・スタンダードに適合させることで、経済活動の活性化を促すことができる。さらに、韓国にとってのFTAは、主要な国や地域との政治・外交的関係を強化するという側面もある。この観点から、米国やEUとのFTA締結、さらには今後の中韓FTA交渉の始動などは評価できよう。以上のような韓国のFTA政策に対して、国内に根強い批判が存在しているのも確かではあるが、FTAによる恩恵はこうした批判を割り引いてもなお大きい。実際、韓国GDPの世界GDPに占める割合は2%に過ぎないが、FTAにより韓国が関係を築いている「経済的領域(economic territory)」は、世界GDPの60%以上を占めている。

韓国から見た日韓FTA交渉の見通し

 日韓FTA交渉は2004年11月以来、公式的な交渉が行われていない状況であるが、韓国側から考えると、その大きな理由は次の2つである。1つ目は、対日貿易赤字の増大だが、これは部分的には日韓間の技術力の差に起因している。韓国のある企業がいかに世界的に成功しようとも、その成功を支えているのは、日本製の精密機器などであるため、韓国企業が世界的に成功すれば、するほど、日本からの輸入に頼らざるを得ない状況が生まれている。この構造は技術力に差がある限り、FTAが締結されたとしても変わらないであろう。2つ目は、関税を撤廃した場合の「逆説的な影響」である。理論的には、日韓FTAの締結は、双方にとって大きな利益をもたらすが、二国間の関税率の度合いが非対称的である場合、理論通りにはいかないからだ。実際、両国の産業部門ごとに関税を比較すると、韓国の方が関税率の高い品目が多く、関税を撤廃した場合に大きな影響を受けるのは、日本ではなくむしろ韓国である。現在、焦点となっている農業・漁業部門でも同じことが言える。日本では、同部門における関税撤廃に大きな反発があるが、実際は韓国の方が関税が高く、日韓FTAによってより大きな影響を受けるのは、日本ではなく、むしろ韓国側の農業、漁業従事者である。他方、日韓FTAは、両国の信頼構築や政治的協力関係の強化につながる側面もあるが、韓国側から見た日韓FTAの見通しは、現在のところ不透明である。

決断を迫られる日本のFTA政策

 先の日中韓首脳会談で日中韓の3カ国は、FTA交渉の年内開始について合意したが、さらに中国と韓国は、中韓首脳会談にて、中韓FTA交渉を開始することで合意した。韓国が中韓FTA交渉に踏み切った理由は、巨大な隣国で、かつ最大の貿易相手国である中国とFTAを締結しないと、政治・外交的コストが高くつくと考えたためである。また中国側が、他の東アジア諸国とのFTA交渉を積極的に推進する中で、韓国とのFTA締結にも熱意を持って取り組もうとしていることも挙げられる。中韓FTA交渉の実現を前に、日本は現在、日韓ならびに日中韓FTAを推進するか、あるいはTPPを推進するか、大きな決断に迫られている。韓国からみれば、日韓FTA交渉が進むかどうかの決定権は現在日本が握っており、韓国は日本の政策決定者らが、韓国と同じゴールを目指しているか、見極めようとしている。日本にとってTPP参加は、日韓FTAや日中韓FTAを推進するのとは対照的に、非常に大きなリスクと多大な作業を要する決断となろう。日本は、自由化の度合いを決めなければならないし、国内からの強い政治的圧力にも対処する必要があるからである。日韓FTAは、将来的な日中韓FTAの推進だけでなく、東アジアの経済統合に向けた第一歩でもあることから、日本には賢明な決断をしてほしいと思っている。

(文責、在事務局)