外交円卓懇談会

第62回外交円卓懇談会
「APECの成長戦略と日本のリーダーシップ」(メモ)

2010年10月15日
財団法人日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局

 日本国際フォーラム等3団体の共催する第62回外交円卓懇談会は、ジュリアス・シーザー・パレーニャス(Julius Caesar PARRENAS)三菱東京UFJ銀行国際関係担当顧問/国際通貨研究所上席研究員を報告者に迎え、「APECの成長戦略と日本のリーダーシップ」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2010年10月15日(金)午後3時より午後4時半まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「APECの成長戦略と日本のリーダーシップ」
4.報告者:ジュリアス・シーザー・パレーニャス 三菱東京UFJ銀行国際関係担当顧問/国際通貨研究所上席研究員
5.出席者:14名

6.報告者講話概要

 ジュリアス・シーザー・パレーニャス三菱東京UFJ銀行国際関係担当顧問/国際通貨研究所上席研究員の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

APECが推進したアジア太平洋地域の経済自由化

 1989年の発足以来21年の歴史を持つAPECであるが、その活動が本格的に始動したのは、1995年の大阪APECを契機としてのことであった。この年のAPEC首脳会議では、その後今日までのAPECの活動の基本指針となる「大阪行動指針」が採択されている。この「指針」は、その前年インドネシアのボゴールで開催されたAPEC首脳会議において採択された「先進国メンバーは2010年までに、他のメンバーは2020年までに貿易自由化を実現する」とする「ボゴール目標」を踏まえたものであるが、15の具体的な貿易・投資分野を対象に、各エコノミーが個別の行動計画に基づいて同目標の達成への自発努力を行い、かつピア・プレッシャーによって各エコノミーの自発努力を促進するという二段構えのアプローチをとるものである。裏を返せば、「大阪行動指針」は、参加エコノミー間で交渉を通じて目標の達成に努めるというアプローチがとられなかったことを意味する。いずれにせよ、この「指針」の採択は、各エコノミー首脳間において、「自由化、円滑化、経済・技術協力」の3つを柱とした協調的かつ自発的な貿易自由化への戦略に関する合意が達成されたという点で画期的な意味をもつ。その結果、今日までの15年間において、APEC参加エコノミー全体での平均実行関税率は1995年比で41%も削減された他、APEC内部において、GDP総額が倍増、物品・サービス分野での貿易量が3倍増、海外直接投資総額が4.5倍増するなど、域内の経済自由化の成果がみられる。

APECが迎える新局面

 このように過去15年間、アジア太平洋地域の貿易自由化の推進に貢献してきたAPECであるが、この間、APECは「大阪行動指針」を唯一の行動指針として活動してきており、今日に至っている。しかし、本年11月の横浜での第18回APEC首脳会議では、その基本指針に新たに(イ)アジア太平洋地域にまたがる包括的な自由貿易圏を作り出そうという「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想」と(ロ)APECが従来対象としていた貿易・投資分野に加え、環境、エネルギー、インフラ整備等の分野をも取り込んだ包括的な「成長戦略」、という2つの要素が新たに追加されることが予定されている。

(イ) FTAAP構想がAPECにおいて新たに推進される背景には、APECがこれまで貿易自由化推進の主たる原動力として想定してきたWTOのドーハ・ラウンドの交渉が停滞しており、当面始動する見込みがないこと、およびアジア太平洋地域において二国間ないし多国間での自由貿易協定が普及してきたこと、がある。したがって、今後、APECにおいては、交渉を前提とせず、各エコノミーの自発努力に依拠しつつ貿易自由化を達成しようとする「大阪行動指針」に加えて、FTAAPの実現に向けた各エコノミー間での交渉を通じての目標達成のアプローチが用意されることとなる。ちなみに、FTAAP構想を推進するにあたっては、現在、着実に参加国を拡大させアジア太平洋地域の主たる経済連携協定の枠組みとなりつつある「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)」がその推進の下敷きとして想定されている。

(ロ) 他方、APECが「成長戦略」を新たに必要とした背景には、資産バブルに後押しされた米国の過剰消費を新興アジア諸国からの輸出が支えるという経済的不均衡が破綻し、これまで対外輸出に依存してきた東アジア経済が域内需要の拡大を図る必要に迫られていること、そしてそのためには域内の中間層の拡大を図り、その成長を持続させる必要があることがある。もっとも、このAPECの「成長戦略」は現段階においては多分に理念的なものに留まり、その具体的な実施体制については今後の議論に委ねられることとなるが、その理念の包摂性からして、この戦略を実施するためには、各エコノミーとも大幅な制度改革を迫られることになるだろう。

求められる議長国日本のリーダーシップ

 今後のAPECの活動の柱に新たに加わることとなる「FTAAP構想」と「成長戦略」は共に、日本経済とAPEC自体の双方にとって少なからぬ意義がある。まず、日本にとっては、その経済の成熟性と高齢化社会の到来によって、内需拡大をその経済成長の主たる原動力とすることは難しい。日本の持続的な成長の鍵は、アジアへの輸出にある。日本の持つ生産ネットワーク、高度な技術力、潤沢な資本力は、アジアの巨大な消費市場の動向を方向付けるポテンシャルを有しており、日本が、アジアの経済成長を牽引するための中心的な役割を担うことは、日本自身が利益を得るところが大きい。他方、昨今の経済危機は、各国の保護主義的な感情を喚起し、世界の貿易システムの健全さと、APECの「自由で開かれた貿易」という基本理念を脅かしている。健全な世界の貿易システムを再構築し、「FTAAP構想」を軌道に乗せるためには、経済的不均衡を是正し、東アジアを世界経済の成長の原動力とすることが不可欠である。1995年の大阪APECで議長国日本が発揮したリーダーシップは、過去15年間のAPECの活動を成功裡に導くことができたが、本年、再び議長国となる日本は、リーダーシップを発揮し、横浜APECをアジア太平洋地域の経済とAPECをさらなる発展へと導く転機とすべきだ。

(文責、在事務局)