外交円卓懇談会

第151回外交円卓懇談会
「米国のアジア安全保障政策とトランプ外交」メモ
ジェームズ・ショフ(James L. SCHOFF)カーネギー国際平和財団上級研究員

2019年2月14日(木)
公益財団法人日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局

 日本国際フォーラム等3団体の共催する第151回外交円卓懇談会は、ジェームズ・ショフ(James L. SCHOFF)カーネギー国際平和財団上級研究員を講師に迎え、「米国のアジア安全保障政策とトランプ外交」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2019年2月14日(木)15:00~16:30
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「米国のアジア安全保障政策とトランプ外交」
4.報告者:ジェームズ・ショフ(James L. SCHOFF)カーネギー国際平和財団上級研究員
5.出席者:22名
6.講師講話概要
 ジェームズ・ショフ(James L. SCHOFF)カーネギー国際平和財団上級研究員の講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

(1)変化する米国の対中観

 現在、国際社会はパワー・バランスの変動期にさしかかっているが、中国がこうした変動の大きな要因の一つであることは間違いない。中国は、いまや経済的に米国と対峙する存在になり、それにともない米中貿易摩擦も過熱している。かつて日米間でも貿易摩擦はあったが、中国と違う点は、日本は、G7やOECDが主導する自由主義経済体制の一員として、その秩序を担っていたという点である。中国について、米国は、1970年代以降久しく、いわゆる関与政策をとってきた。当時の米国にとって、中国はまだ脅威ではなかったので、通商や人権などの分野で米国との見解に相違があったとしても、やがて中国がリベラル秩序を受け入れるまで気長に待とう、との姿勢であった。しかし近年の米国では、中国の行動に対する忍耐も限界に近づきつつあるとの認識が広がるとともに、米中が「際限なき競争」に陥ってしまうとの懸念も強まっている。

(2)米国が抱える国内経済問題とその対中認識への影響

 米国では、国内の製造業の不振について、中国との貿易赤字が理由であると考える向きが少なくなく、そのことが一部の有権者のトランプ大統領支持につながっている。しかし、たとえば米国の製造業者の雇用一つをとってみても、生産性の劇的な向上や世界的なサプライチェーンの成立によって、1979年をピークに、それ以後、下降を続けているのが実態である。カーネギー国際平和財団とオハイオ州立大学との共同調査(オハイオ、コロラド、ネブラスカの3州を対象)によれば、中国との通商の影響で米国内の製造業で雇用機会が喪失したとされるケースは、調査対象の3分の1に過ぎなかった。したがって、トランプ政権が米国内の製造業減少の責を中国に求めることは、必ずしも正確とはいえない。むしろ、米国が直視すべき問題は、1920年代以来最大になった国内での経済格差である。ミネアポリス連邦銀行の調査によれば、2008年のいわゆるリーマン危機後、人口の10%を占める富裕層は比較的早期に危機前の資産水準に復調したが、人口の大半は未だ復調していない。国内のそうした不満が、対中認識に悪影響を与えているといえる。

(3)トランプ政権の対中政策の矛盾

 他方、中国が押し進める、不公正な貿易や強硬な技術移転などが、日米両国にとっての脅威であることも確かである。米国にとって中国の脅威への対応には二段階あるといえる。一つは短期的な抑止力の維持向上であり、もう一つは、長期的な技術競争、防衛競争である。INF条約の離脱、核弾頭開発の再開、対艦潜水艦開発の推進などはを行なっている。ワシントンではこうした動きに対し、中国との「際限なき競争」に不快感を表明する声もあるが、これはオバマ政権時代に既に始まっていたことである。パトリック・シャナハン国防長官代行は就任演説において、主な課題として「中国、中国、中国」と述べたが、ではなぜTPPを離脱したのか。中国に対抗するのであれば、TPPは離脱すべきではなかった。トランプ政権の政策には、こうした矛盾がある。

(4)困難な日米間での対中政策協調

 そうしたなか、中国のそうした動きをけん制しようとする米国の強硬な姿勢に、日本は基本的には共感しているものの、それが具体的な日米間での政策協調にはつながってはいないのが現状である。日米は、自由と民主主義、人権尊重、開かれた市場、法の支配、高い投資基準等の価値とルールに基づく国際秩序観を共有している。ただしトランプ政権が、それらの価値を遵守する気があるのか、あいまいなところがある。中国は、独自の解釈に基づく「公平性、正義、民主的」の観点から独特な「グローバル秩序」を提唱しているが、ときにトランプ政権と中国政府のレトリックが共鳴しているのでは、と思われるときさえある。また、米国はINF条約を脱退し、さらには宇宙軍を創設しようとするなど、軍拡基調にある。そうした現状において、日本が、対中関係において米国と協調していくことは困難であり、この変動期をどう乗り越えていくかは展望が見えない。

(5)今後の日米関係の課題

 もとより、米国は根本的にはリベラル秩序を尊重する立場にある。したがって、米国が「トランプ・モーメント」にいるなかで、安倍政権がTPPを推進し、気候変動問題に関するパリ協定に加盟し、リベラルな国際秩序を維持しようと努めることは、米国がやがてそうした秩序維持の流れに復帰する環境醸成につながるという意味でも非常に大切である。いずれにせよ、着実に国力を高めつつある中国を国際的に孤立させ、米国に従わせることはもはや不可能に近い。日米にとっての共通の課題は、既存の国際秩序の瓦解を回避しつつ、中国との戦略的競合関係から可能な限り不安要因を減らしていくことである。安倍総理はトランプ大統領と個人的に親しく、日米関係は良好であるが、重要なのは日米関係自体が幾層にも重なる構造を持つということを認識し、その関係を有効活用することである。トランプ大統領には任期があるが、日米関係はさらに継続する。長期的にはこれまで培われてきた良好な日米関係を、一貫性をもって発展させていくことが肝要であろう。

(文責在事務局)