外交円卓懇談会

第147回外交円卓懇談会
「ASEANと地域秩序」メモ
タン・スリ・ラスタム・モハマド・イサ・マレーシア戦略国際問題研究所会長

2018年9月11日
公益財団法人日本国際フォーラム
グローバル・フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局

 日本国際フォーラム等3団体の共催する第147回外交円卓懇談会は、タン・スリ・ラスタム・モハマド・イサ・マレーシア戦略国際問題研究所会長を講師に迎え、「ASEANと地域秩序」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2018年9月11日(水)15:00~16:30
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「ASEANと地域秩序」
4.報告者:タン・スリ・ラスタム・モハマド・イサ・マレーシア戦略国際問題研究所会長
5.出席者:14名
6.講師講話概要
 タン・スリ・ラスタム・モハマド・イサ・マレーシア戦略国際問題研究所会長の講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

(1)ASEANを取り巻く諸問題

 ASEANは、東南アジア10か国からなる地域共同体であり、過去十数年の間に著しい経済発展を遂げ、今後更なる成長も期待されている。その一方で、ASEANには組織体制の問題の他、同地域をめぐる大国政治の影響を受けるなど、域内外でそれぞれ課題を抱えている。そのためASEANを把握するには、域内にとどまらずアジア太平洋地域からの観点、また経済のみならず安全保障の観点も含めてみていく必要があるといえる。

 昨年来、米国および日本からは、インド太平洋を焦点とした戦略が提唱されている。ASEANにおいては、今のところそれらの戦略に対する立ち位置を定められないでいる。ASEANは、冷戦の影響を受けて不安定化していた東南アジア各国が、地域の平和のために1967年に創設した。それ以来、ASEANは着実に地域協力を進展させてきたが、現在の国際社会は、創設当時の状況に似ている。冷戦期は米国とロシアの競争による影響を受けていたが、今は米国と中国による競争の影響を受けているのである。

(2)ASEANの課題

 こうした状況において、ASEANを今後も継続発展させていくために必要なことは、加盟国内の連帯強化である。そのために課題となるのが、ASEANの舵取り役の存在である。本来、議長国がその舵取り役となることを期待されていたが、議長国は任期のある輪番制のために長期的なリーダーシップを発揮できず、またそもそもリーダーシップを発揮できない国が議長国を務めこともある。この度の米中貿易戦争において、ASEANから統一された見解や懸念が出されていないのは、リーダーシップの不在で、意見を取りまとめることができていない証拠である。今後、ASEAN域内で如何にして強固なリーダーシップを確立させることができるかが、連帯強化を進める鍵となるだろう。

 他に、ASEANは何事も決定や取り組みが遅いと言われていることも課題である。理由としては、他の地域共同体と異なり、ASEAN内の決議は全会一致が原則のため、必然的に妥協が必要とされ、多くの時間も費やされているためである。ASEANの域内各国は、それぞれ異なるスピードで発展し、政治システムも異なるために、こうした原則が必要だったのである。ただし現在、経済、特に貿易の分野においては、一部の加盟国のみで合意を進めることができるシステムを取り入れようとしており、改革を進めているところである。

(3)ASEANの将来

 ASEANは、経済、社会・文化、政治・安全保障の分野で統合を進めている。今後は、『One Vision One Identity』のスローガンのもと、加盟国市民を一層巻き込んで、それらの統合に向けた取り組みを行う必要があるだろう。というのも、加盟国市民においては、ASEANの統合はエリートによって進められており、ASEANとしての市民意識が希薄だからである。

 ASEANは、これまで積極的に対外パートナーシップの締結に力を入れてきた。ASEANは東南アジア地域において中心的存在であるが、日本、米国、中国を含むパートナー国をつなぎとめておくことは重要である。また最近では英国が、EU離脱決定による更なる市場の開拓のため、アジアに目を向け、ASEANとのパートナーシップ強化に興味を持っている。対外協定の締結については、どのような相手国ともフェアでなければならないが、幅広くパートナーシップ協定を結ぶことはASEANにとって重要である。特に、ASEANの一部の国にとって開発分野における協力関係の構築は重要な位置を占めている。

 中国の「一帯一路構想」において、ASEANはその主要な範囲に入っている。ASEANにとって、同構想が経済分野における戦略なのか、それともそれを超える対外戦略であるのかどうかについては、高い関心があり、注視しているところである。マレーシアは、中国との間で不均衡な取引になっているとして、一帯一路構想に関連したプロジェクトの一部を停止するに至った。

 2015年に採択された「ASEAN共同ビジョン2025」では、「ASEAN連結性マスタープラン」によるインフラ整備支援をとおして、日本や中国等といった域外国との連結性を強化することを狙っている。他にも、ASEAN+3(APT)、東アジア・サミット(EAS)、APECなどの枠組みをつうじて、ASEANの域内、近隣の域外地域の様々な問題について協力を進展させている。安全保障分野においては、ASEAN地域フォーラム(ARF)がただの話し合いの場に過ぎないと言われているが、各国の信頼醸成に一役買っていることは確かである。拡大ASEAN国防相会議(ADMM+)もまたしかりである。しかし貿易分野においては、中国がアジア太平洋におけるFTA締結に向けて熱心に取り組んでいるが、アメリカのTPP交渉離脱を受け、その目的達成は難しくなっている。

 ASEANには今後も経済成長が見込まれる。市場規模は大きく、人口6億数千万人、GDP2兆3千万ドルに加え、若者の人口も多く、中間層の発展により順調に発展している。また、技術進歩に伴い、政府や指導部へは民主化を求める声が出ている。今後、経済活動を中心に、経済発展に伴った社会構造の発展も期待される。ASEANは今後、結束を強固にし、諸課題に取り組んでいくべきである。

(文責在事務局)